網をつなぎ広げた時に見えるもの

沙弥島滞在22日目。今日も昨日に引き続き、午前中は沙弥島、午後は瀬居島の西浦とダブルヘッダーでワークショップを行った。沙弥島は3巡目。瀬居島の西浦は2巡目。なんとこの2つの地区の網は今日で完成を迎えた。

 

沙弥島の網は、島の人が時間のある時に来て、少しずつ編み進めてくれていたので、3巡目にしての完成も、早いには早いのだが、納得がいく。しかし、瀬居島の本浦の網はなんと2巡目にしての完成である。衝撃の早さであった。さすが、かつては糸を撚って作るところから網を編んでいたという方々である。網の目のサイズも揃い美しく、貫禄の仕上がりである。

 

基本的には1人1本、幅60㎝×長さ5mの反物を編んでいる。そして完成したものから隣同士を編みつないでいって各地区で1枚の網にする。参加人数によって反物の数も変わるので、各地区で出来上がる1枚の網の大きさには大小あるのだが、どの地区もだいたい15名から20名ほどの参加があるので、だいたい幅8m×長さ5mくらいにはなる。それら5島(7地区)の網を繋ぎ合わせて幅60m×長さ5mの網となる。

 

漁師さんが言う「こりゃ“ひんがら目”だな」

 

“ひんがら目”とは、おかしな方向や形になってしまった網の目のことを言う。網を繋ぎ合わせる時、網の目がきれいに合うよう(菱形)につなぎ合わせるため、それまで編んできた網を広げる。そうすると、手で編んでいるので、どこかに編み間違いが生じている箇所を発見する。

 

つなぐポイントが“ひんがら目”になっていると合わせられないので、もちろんその箇所は修正するのだが、中には、ずっと10目で編んできたのに、どこかで1目飛ばしてしまって9目になっているものがあったり、初めて編んだ人に多いのは、やり方を覚え、リズム良く編んだのだが、7目まで目数が減っているものもある。

 

漁師さんは目数が合わないことや、形のおかしい“ひんがら目”を見つけると、原因を追求し、とことん修復する方が多い(中には、「魚獲るわけでもないでな」と、まったく気にしない方もいる)。個人差はあるが、年輩の漁師の方が若い漁師に比べて、その辺りにこだわる。もちろん人に見られるものを作っているという意識もあるのかもしれないが、ただそれだけではない。

 

目の数と形がピシッと合わないと気分が悪いような、もっと言えば縁起が悪いような、そんな美意識を感じる。なので多くの年輩漁師さんは直せる箇所は徹底的に直す。移動し漁獲量に変動がある“魚”というものを追いかけていると、縁起をかつぐのは当然である。できれば網も縁起の良いものが良い。そうすると目数と形はピシッと合った方が良い。という理屈のように感じる。

 

だがしかし、いろんな人が編んでいるので、どうしても直せない(直せるがとても時間と手間がかかる)箇所もできてしまったりする。そんな場合は、漁師さんは潔く諦め、笑顔で一言「ごまかし方を覚えて初めてプロと言えるんじゃ(笑)」。

 

やれることはやる。できんことはできん。その、手を抜かず、でも、やりすぎない、という絶妙なバランスが、気持がいいではないか。

 

網が1枚につながると、当然、広げて見たくなるのが、人の性分である。皆で網の端々を持ち、部屋いっぱいいっぱいまで網を広げていく。5色で編まれた網の目が、徐々に開いていく。網の目が生まれることで、空間の見え方ががらりと変わる。一瞬静かになり、それぞれに広がった網であり、網の目を眺めた。

 

そして、誰かが一言「きれいやな」

 

そこには達成感と高揚感が同時に流れていた。

 

そして、すぐさま「下の処理はどうする?全部目数を合わせるか?」「そこまでは、した方がええやろ」と言葉が飛び交い、すぐに作業に取りかかった。

 

自分が好む、アートプロジェクトのグルーブ感が生まれているのを実感している。一言で言うと“のり”である。あの祭りを楽しむような“のり”である。

 

“ものごと”というものは、何かをはじめる時、最初は誰もが不安である。だが、何かに向かっている時こそが一番おもしろいのである。網がつながりはじめ、その“何か”に向かうエネルギーを感じる現場感が生まれてきている。

沙弥島。浜辺さんが編み針に続き、そらあみの目のサイズに合わせた手作りのくだ(こま)と、浮きを使った道具(輪の中に編んだ網を通し、尻に敷いておくと自分が動かずに編める道具)を寄贈してくれました。道具が充実していきます。

隣同士をつなぎ合わせていきます

“ひんがら目”を発見し修復中。普段から網の補修をしている漁師さんにとっては修復はお手の物

網を広げると、網の目が開く。網の目を通して見る世界は少し違って見える

網を広げ、皆のテンションが上がって、お昼の声がけをしても、仕上げ作業の手は止まりません

瀬居島の本浦。「学校では何も学ばんかったが、これだけはできるんや(笑)」と一雄さん。その技術は見事なものでした。編まれていく網が気持良さそうにしていました。

皆で一斉に編みつないでいきます

御夫婦でつなぎ合わせていきます

まるで網の流れの中にいるようです

瀬居島の本浦も、これで1枚になりました