12万4,178結び

沙弥島滞在38日目。今日は1日、5つの島で編み上がった網の整理と、各島で参加してくれた方(主に漁師さん)の丸名(船名)の整理を行った。

 

いろんな方が関わっているが、基本的に1人の方が編んでくれた一反のサイズは幅約60㎝で長さが約5mである。それを102反横につなげると完成サイズの高さ5m×幅約60mの1枚の大きな網となる。

 

各島の反数を数えると、

沙弥島=16反

瀬居島の西浦=16反

瀬居島の本浦=13反

瀬居島の竹浦=10反

与島=12反

岩黒島=16反

櫃石島=18反

坂出市=1反

となり、合計102反である。

 

こうして、全ての島で編まれた網がそろってみると、かなり迫力がある。そして、島の性格が違うように、編まれた網の雰囲気というか、出来上がった網の目の見え方が違う。それぞれの網が、その島らしい網と言うのが一番の説明だろう。

 

いや〜しかし、ほんとたくさん糸を結んだものである。網を編むということは、実作業としては、糸を結ぶ行為となる。出来上がった網を見ていると、気になることが出てきた。

 

それは、“はたして何回結ばれて、この網は出来上がったのだろう?”ということである。

 

そこで、一結びずつ端から数えてみた。というのはウソで、計算してみた。

 

その数なんと!12万4,178結びである。12万回!半端な数ではない。12万回以上糸を結んで、網の目をつくってきたのだ。1人でやってたら、とっくの昔にくじけていただろう。最初にこの数を計算しなくてよかったと思う。

 

でも、はじまった頃、自分が「高さ5m×幅60mの網を編んで作りたい」と言うと、漁師さん達は「それは、あんた、簡単なことでないぞ」と何度も言っていた。大変さは、当然漁師さん達は分かっていたのである。それでも一緒に編んでくれたのである。

 

よくよく考えると、比較的早いどこかのタイミングで「こいつ本気で編む気だな」と思ってくれたのだと思う。その本気度が伝わったから「乗りかかった船や」と言って、最後まで付き合ってくれたのだ。

 

漁師さんは、本気の気持には、本気で答えてくれる。それは、日本海も太平洋も瀬戸内海も一緒であることが、今回、瀬戸内海で編んで分かった。

 

漁師さんにやりたいことや、気持を伝えたい時に、こざかしい説明はいらない。真っすぐな気持で、シンプルに伝えないと、彼らの心には響かない。

 

なぜなら、コネを使おうが、裏で手回ししようが、獲れる魚の数は変わらないからである。機械の善し悪しや人間関係など、いろいろあるにはあるのだろうが、漁師という職業は最終的には1人で真っすぐに、海に向き合うしかないのである。

 

そう考えると、そらあみを、とことんやるか、一切関わらないか、それぞれの漁師さんの中で、最初に自分と会った時に、全ては決まっていたのだろう。

 

櫃石島の最終日「ほんとに最後までありがとうございました」と言うと、「あんたの人柄や」と最後に言ってもらった言葉が強く心に残っている。「ありがとうございます」としか答えられなかった。

 

網は1本の糸でつながっている。12万4,178回の結びでつながっている。一結び一結びが、出会った数と過ごした時間の積み重ねで出来ている。本当に誇らしい網ができあがった。あとは5つの島の網をつないで、上手く空に掲げるのみ。

 

5つの島はそれぞれに個性的で、網にも、その“らしさ”が出ている。果たして上手くつながって1枚の網になるだろうか?それぞれの島の人達を思い浮かべると、一筋縄ではいかないような気もする。笑。乞うご期待である。

 

現在の時刻は深夜1時。外に出ると、辺りは暗闇と静寂に包まれていた。耳を澄ますと、打ち寄せる波の音のむこうから、漁船の低いエンジン音が聞こえる。今夜も彼らは真っすぐに海と向き合っている。