場を清めて葉を見せる

くすかき7日目。今朝はまずまずの落葉であった。“まずまずの落葉”と書かれても、くすかき未経験でこの日記を読んだ方はイメージが掴みづらいに違いない。“まずまずの落葉”は地面に50㎝間隔くらいで葉が広がっているくらいのイメージ。

 

この時期の樟の葉の落葉を観察しはじめてから今年で4年目になる。4年も見ていると、いつ頃どれくらいの葉が落ちるのか、なんとなく分かるようになった。極端に言うと「今日は落ちるな」とか「明日の朝は落葉の絨毯になるな」とか、気温や風を体感し、樟の木を見上げ、身体感覚を通して“少しだけ先”が見えるようになった。最初の頃は、まったくもって、その日の落葉の量感も、落ちてくるタイミングも分からず、樟と風と太陽に翻弄され、毎日苦労したのをよく覚えている。

 

毎年、3月の第一週の日曜日に太宰府天満宮で行われる「曲水の宴」の頃に、最初の樟の葉が落ちはじめる(とはいえ、1枚落ちるかどうかといった感じで、3月の後半からが落葉本番で、その頃から一気に落ちはじめる)。今年の「曲水の宴」は3月2日だった。その日を“落葉初日”と設定している。それから数えて今日は40日目。全体の落葉量で考えると今がちょうど半分くらいといったところだろう。

 

今朝の朝のくすかきには谷澤さん夫妻が来てくれた。くすかき常連のお2人で、くすかき楽しんでもらいつつ、支えてくれている、お宮の近くに住む頼もしい2人である。勝手が分かってくれているお2人が来てくれると現場としては安心感がある。

 

いつものように、朝のくすかきが始まる。葉っぱを集めて、分別し、山に足す。それを終えると、最後に目立てをして、地面に縞模様を描く。旦那さんはこの縞模様を描くのが好きで、くすかきに参加してくれている。

 

地面に縞模様を描くと、空間の見え方が変わる。ぐっと完成度が上がるのである。もっと言うと、落葉の見え方が変わる。それは山にして積み上げた落葉もそうだし、この後落ちてくる落葉の見え方も変わる。縞模様を描くことで、落葉が落ちてくる場所をつくっているからである。人の手が入った地面は場としての力を持つ。

 

この縞模様は、葉っぱを集めることで自然と描かれるのだが、意識して行うと非常に美しい線が引かれる。このことは、お宮の神主さん達も意識的に行っている。特に天神広場という広い空間に対して描かれた縞模様は朝の清々しさを更に際だたせてくれる。

 

朝拝で唱えられる“大祓詞”の中にも、くすかきの「掻く(かく)」という言葉は登場するのだが、実は「掻く」には、「清める」という意味がある。なので、樟の葉を掻いて、縞模様を描いて、空間と自らの心身を清めていることになる。

 

ところが朝に描かれた縞模様は多くの参拝者の足跡によって1時間と経たないうちに消えてしまう。多くの方は毎朝つくられている、この清められた空間を知ることはない。くすかきでは、葉を見せるために縞模様を描く、くすかきに描き残されている縞模様から、そんな朝の空間を想像してもらいたい。

 

今朝の縞模様は谷澤さんの旦那さんが描いてくれた。

 

日中は“くすのこうたき(樟脳づくり)”の水蒸気蒸留実験を行った。明日の朝の樟脳の採れ具合にもよるが、今年の窯の出来は良さそうである。夕方は8人の方が夕方のくすかきに来てくれた。

谷澤さんの旦那さんが描いた縞模様。場を清めて葉を見せる。

今年の窯の具合は良さそう。無駄なく薪が燃焼しています。

冷却装置の排水システムもバッチリ稼動しています。この中で水蒸気と一緒に飛び出してきた樟脳が冷却され結晶化します。

夕方のくすかきでは、池田さんが円形に縞模様を描いてくれました。