太宰府から瀬戸内へ

くすかき15日目。今日から数日の間、太宰府を離れる。瀬戸内国際芸術祭の春会期が明日21日で終了するので、作品撤去のために瀬戸内の沙弥島へと行かなければならないからである。途中、遠回りになってしまうが、熊本の津奈木美術館で打合せがあるため、今日は太宰府→熊本→香川という移動をした。

 

今日は曇り空。午後から雨の予報である。朝のくすかきを終えて、参加してくれたみなさんに「いってきます!」と挨拶を交わし、10:06発の電車で太宰府を離れた。

 

くすかきの会期中に現場を離れるのは初めてのことである。不安もあるが、今年で4年目になるプロジェクトの強度を試すには、良い機会と受け止めることもできる。今日、明日とくすのこうたき(水蒸気蒸留による樟脳づくり)と、くすかき定例会が開かれる。五十嵐不在だからこそ、見えてくることや話せることもあるかもしれない。

 

くすかきは、5年、10年、100年、1000年と、樟の木が生きるように、続けていきたいと考えているプロジェクトである。いずれは自分も死ぬときが来る。その時、何が残り引継がれていくのか、くすかきとは何なのか、それは毎年考えるべきことで、時代と共に徐々にその役割や見え方も変わってくるだろう。それでも変わらない部分が、くすかきの軸として残っていく。

 

その軸を樟の木の幹に例えるなら、それはまだ4年目の細く若い幹である。これから、太宰府天満宮の樟の杜に生きる樹齢800年や1500年といった巨木のように、プロジェクトが成長していくためには、毎年ちゃんと続けることと、少しであったとしても確実にその軸(幹)を太く成長させていく必要がある。

 

お手本はお宮にある樟の木である。毎年、古い葉を新芽が押し出し、世代が交代して、幹が太くなっていく。くすかきも世代交代しながら、幹を太くしていく。それは簡単なことではない。毎年悩むに違いない。それでも続けることに意味がある。

 

自分も様々な現場を見てきたが、アートプロジェクトというものは、一年以内に終わるものが多く、長くても三年から五年といったところで、多くは一過性の打ち上げ花火のようなものばかりである。「地域に根ざした」とか「継続性をもって」といった言葉は既に使い古された感がある。続かない理由は予算や、行政制度、盛り上がり、といった問題。そして何より続けていく意志の問題である。本気でやっているプロジェクトは数少ない。

 

細くても確実につなぎ継続していくことがどうやったらできるのか?。くすかきは、そんなアートプロジェクトの世界に対する1つの挑戦でもある。地震が来ても、戦争になっても、樟の葉は落ちてくる。そうやって、長い時間をお宮の樟の木は生きてきた。太宰府天満宮の樟の杜にいると、千年という時間軸と自然と向き合うことになる。千年という時間軸でアートプロジェクトを考え実践してみる。

 

瀬戸内国際芸術祭2013の舞台である、香川県の沙弥島に到着したのは夜の9時を回っていた。辺りは真っ暗で雨が降っている。明日のクロージングは大丈夫だろうか?何より、濡れた網を撤去するわけにはいかない。乾かさなくては。明日の天気の回復を祈るしかない。

 

今日の移動は、樟の葉が風で揺れる音の聞こえる世界から、浜辺に打ち寄せる波の音が聞こえる世界への移動であった。

横浜より中村家。

こちらは地元太宰府より金澤家。