目に見えないものの力と向き合う

太宰府滞在24日目。くすかき10日目。気持の良い晴天。6時半からの早朝くすかきへ行くと、昨日の雨と強風の影響で大量の葉っぱが柵の付け根に寄せられており、掻き山も圧縮されたかのように一回り小さくなって表面がツルッとなっていた。

 

樟の木は落ちかけの葉が全て落ちたので、散髪にいったかのようなスッキリとした表情をしていた。

 

誰かが言う「いやぁ、昨日の風すごかったからね。台風みたいやったもんね」

他の誰かが言う「風が寄せてくれたけん、ほとんど掻かんでいいね(笑)」

また別の誰かが言う「風の力ってすごいねぇ。これ全部掻いたら大変やけん」

 

早朝のくすかきに毎朝参加してくれている小学生の八海くんが、小さな松葉ほうきを空中で必死に振っている。何をしているのか訪ねると、一言、「風」。そして「こんなん無理やん(笑)」

 

ということで、早朝くすかきと朝のくすかきは、風が樟の葉を掻いてくれていたので、ほとんどの時間を枝との分別作業(ふりふり)に費やした。掻き山はいっきに大きくなった。

 

朝のくすかきを終えて、昨日のくすのこうたきで抽出した樟脳の回収に鬼すべ堂へ。期待して樟脳回収タンクのフタを開けたが、残念なことにあまり採れていなかった。初回の水蒸気蒸留でマグカップ一杯くらいたくさん採れたので安心していたのだが、今回と前回はその半分くらいの量だった。やはり何度やっても分からない。だから面白いとも言える。初回は天気の都合で濡れた葉っぱを砕いて抽出した。前回と今回は乾いた葉っぱ、空気が入らない分濡れた葉っぱの時の方が単純に抽出するための葉の量が多かったのかもしれない。次回はあまり条件を変えず、細かく砕いて葉っぱの量を増やしてみようと思う。

 

午後はくすかき初年度からサポートしてくれている太宰府の友人の江藤くんの紹介で、油機エンジニアリング株式会社の牧田社長に会いに行った。油機エンジニアリングは太宰府にあり、主に解体機のレンタル・販売・修理などを行っているのだが、解体現場の延長線上にある“環境”についても意識が高く、太宰府地域への貢献として、手の行き届かなくなった竹林の竹を伐採し細かく砕いて、それをベース(竹の粉と籾殻)に食べ残しなどを加え堆肥にし、畑や小学校の花壇などに活用するといった活動も行っている。小学校と農家の方と恊働して行っているケースが多いそうだ。

 

そこで、くすかきを終えた後の葉っぱの行き先として、太宰府の農家の方が手をあげてくれていたのだが、樟の葉は硬く、また油分などが多く土に帰るのが5年くらいかかるそうで、細かくできないかと話をしていたら、その農家の方と牧田さんは知り合いで、その農家の方から野菜を買っているというのだ、しかも、解体現場で出会った立派な日本建築の建物がもったいないから、そのまま残して食事処として牧田さんが展開しているお店の野菜もその農家の方が作っているという。話がつながるとはこういうことである。くすかきの葉を栄養とした野菜が食べられる日もそう遠くないかもしれない。

 

牧田社長からは、くすかきの樟の葉を細かくする了解を得ることができた。しかしそれがすぐに堆肥になるわけではない。堆肥にするなら動物性たんぱく質(生ゴミや食べ残しなど)も混ぜて発酵させなければならないそうだ。

 

どうやって竹が短時間で堆肥になるのか、いろいろ話を聞かせてもらった。要は牧田社長はこの活動を通して「土づくり」をしているのである。そして、こう言っていた。「微生物がちゃんと分解しているか、その発酵を毎日確認するのが大事。でも、微生物は目では見えないから手で触って熱すぎたり寒すぎたりしないか、嫌な匂いがしないか、など向き合って様子を見てやるのが大事。微生物が働きやすい環境を整えてやれば、見てないところで仕事をして、いずれ、ちゃんと良い土(堆肥)になる。何年かこうしてやってて気が付いたことがあるんだけど、このことは、うちの会社経営でも一緒で、人間関係は目には見えないでしょ。だから1人1人とちゃんと向き合って、働きやすい環境を整えてやったら、みんな見てないところで手を抜かず一生懸命働くようになったんだ。以前よりずいぶん良くなったんだよ。微生物から学んだことだよ」。

 

まさに、微生物から学んだ経営学である。

 

樟の葉を掻いてくれた風も、土をつくる微生物も、目に見ることはできないものである。だが、ちゃんと向き合って環境を整えておけば、こんなに力強い仲間はいないということである。

 

P1230124_s

風が掻いた掻き山。

 

P1230132_s

見えないものの存在を集まった葉から感じる。

 

P1230140_s

スッキリと散髪したような爽快感があるように感じた。

 

P1230149_s

若葉がこんなにも大きくなって、去年の葉の姿は、この枝先には見当たらない。

 

P1230152_s

朝日を浴びる掻き山には存在感が出てきた。

 

DSC_1025_s

見えないものの存在を指先の温度で感じる。