自分ができることをする

ブラジル10日目。3日間の漁師弟子入り体験3日目の最終日。昨日にも増して風が強く波が高かったため船で沖に出ることは叶わなかった。まあこればっかりは自然現象なので仕方がない。無理をすると事故につながる。

 

6時起床。フェルナンド特製のミックスジュースの朝食をいただく。SUAPEに来てまだビーチをちゃんと見ていなかったので、自分の中ではロケハンも兼ねて、ビーチに行きたいとフェルナンドに話した。すると、自分も今から行くから一緒に行こうということになった。

 

SUAPEのビーチはフェルナンドの家から南に向かって長く広がっている。なので、左に海を見ながら朝日を浴びて歩くことができる。

 

出発前にフェルナンドが何種類かのビニール袋を用意していた。「このブルーの袋が私は好きだ。たくさん入るからね」と言って60ℓほどの手提げの丈夫なビニール袋をいくつか持って、裸足でビーチへと向かった。自分は足の裏が心配だったので迷わずサンダルでついて行った。1分ほど歩いてビーチに着くとフェルナンドは「サンダルを脱いで、ちゃんと感じなさい」と言う。サンダルを脱ぐ。全く違う感覚が足の裏から伝わってくる。体の感覚が起きて開いていくのが分かった。裸足でビーチってすごく体にいい。

 

東から顔を出した朝日を浴びながら、南に向かってひたすらビーチを歩く。踏み込む度に足の形に沿って適度に砂浜に足が沈む。指の隙間に砂が入る。砂浜を掴みながら歩いている感覚になる。自分の歩いた軌跡が残る。

 

スタスタと前を歩くフェルナンドが立ち止まり突然「ここは私のビーチだ。そして、とても美しい」と話かけてくる。フェルナンドのビーチかどうかは知らないが、確かに美しい。

 

そして「これが自分のパートだ」と言って、ゴミを拾いはじめた。どうやらこのビーチを大切にしている町の人で何のゴミを拾うかパート分けしてあるようだ。「私のビーチ」と言った理由もなんとなく分かった。フェルナンドのパートはペットボトルと空き缶とロープといったもの。時折、大きなガラス瓶を拾うので不思議に思って聞くと、大好きなサトウキビのお酒カシャーサを入れるのに使えるそうだ。さらに、ヤシの実の皮が落ちていると、蘭を育てる器に使えると言って、それも拾っていく。無価値なものをアイデアで価値化する暮らしを、フェルナンドは自然にしている。

 

「自分のできるパートは小さい。しかしそれが大事なんだ」「ここは私のビーチだ。そして、とても美しい」と何度も何度も言いながらフェルナンドはゴミを拾う。

 

そして、時折「プラスチックは土に返らない」と一言。

 

そうやって、朝のビーチでゴミを拾っている姿を見ていると、フェルナンドがまるでSUAPEの門番のように見えてきた、SUAPEの本当の意味での波打ち際で、ビーチに届いたゴミを確認し拾っているのだ。通すモノと通さないモノ、ゴミとして捨てるものと再利用するもの。門番はその判断をしている。しかし全てを自分1人ではできない。そんなSUAPEの門番は他にもこの町に数人いるということである。彼らは浜辺に立ち、海のむこうの世界からやってくるものと向き合い土地を守っている人達なのだと思った。

 

午後になると、ラマルティーニが訪ねてきた。いったん今日でお別れなので「そらあみ」を紹介する写真入りリーフレットを渡すと、フェルナンドともう1人の友人とで、そらあみの写真を見ながら話をして、誰かが言った。

 

「これは、真実を見せる」

 

この言葉には正直驚いた。そらあみの網越しに見ると、バックの風景の色とパッチワーク状の色が重なった部分は透明に見えたり、その逆は飛び出して見えたりする視覚の効果がある。故に見えているものを揺らがせるような、見えていないものを意識させるような、そんな作品である。でもその説明をせず、写真を見せただけで、ここの漁師さん、少なくとも自分が会ったSUAPEの漁師は感覚的にそのことを理解したのだ。言葉でない部分が伝わっているということである。これは美術の力(モノの力)である。そして何より表現が伝わるという事実が嬉しかった。

 

そらあみの完成が今回どのような形になるべきなのか最後まで考えるのだが、3日間のホームステイ及び漁師の暮らしと漁の体験を通して、ここならやっていけそうである。とりあえず、ここSUAPEで最後まで挑戦してみることにした。

 

明日からサッカーワールドカップがここブラジルで開催される。観戦も兼ねて一度レシフェの市内に行き、その後、ナタルにも行く、なので、次回、ここに戻ってくるのは6月23日(月)の予定。そこから7月4日までの12日間、本格的にSUAPEでの漁師生活及び制作活動をスタートさせる予定である。

 

再会を約束し、フェルナンドとラマルティーニと別れた。

 

IMG_5085_s

SUAPEの朝のビーチ

 

IMG_5091_s

ずしずしと浜辺を進むフェルナンドの背中を見て歩く。

 

IMG_5096_s

ヤシの実が自然に流れ着いています。

 

IMG_5099_s

フェルナンドが育てている蘭。浜で拾ってきたヤシの皮がお皿になっています。

 

IMG_5100_s

美しいだろう?と自慢げなフェルナンド。

 

IMG_5111_s

フェルナンドの2階の部屋の窓から直接手に取って食べられる果実。甘酸っぱくて美味しい。

 

IMG_5114_s

 

そらあみの写真を見て話をしているブラジル人漁師たち。