そらあみ19日目。今日は9人で編んだ。現在、高さ3m×幅15mになる網を2枚編み進めているのだが、今日その1枚目が仕上がった。残すところは、もう1枚分をつなぐのみ。お披露目まで7日。時間は十分である。
今日は土曜日。ワークショップでふるまう大漁鍋に入れる魚のかぶす(分け前)をいただきに、朝3時半に出港し定置網漁のお手伝いをさせてもらった。雲間から見える満月が印象的な漁だった。漁を終えてもどってきたのは朝8時頃。氷見の漁師さんは、みんなの一日がはじまる前に、一日の仕事を終える。今日のかぶすは「タラ(白子入り)、カワハギ、イワシ、イカ」にあたった。とっても美味しい大漁鍋になり、《そらあみ》参加者の皆でいただきました。
そして、とても嬉しい出来事があった。3日前に編みに来てくれた若手漁師の絹野さんが、漁師の先輩である浅井さんを連れてもう一度編みに来てくれたのだ。前回は氷見漁協からの声がけであったし、仕方なく連れて来られたということだって十分に考えられる。でも、同じ漁師の、しかも先輩を自主的に連れて来てくれたということは楽しんでくれていたのだということが伝わってきた。若手漁師さんが来てくれると、なんかこう、場に活気が生まれる。皆勤賞で日々《そらあみ》を支えてきてくれたおじちゃん達にも、良い刺激になっているのが分かる。
絹野さん「この人、網仕事好きだから。俺の先輩やけど、うちの網のNo.2やから」
淺井さん「(仕上がった一枚目の網を見て)2月14日からはじめてこれだけけ?うちの連中で編んだら2日、いや1日仕事かもよ」
(ここまで編んできた皆勤賞のおじちゃん達は一瞬沈黙)
おいちゃん「おいらは素人やもんね。やっぱプロは違うね」
淺井さん「んじゃ。やろうか」
と言って、座って網の隣同士をつなぎ合わせていく。さすがは現役バリバリの漁師さんである。手さばきが美しい。
淺井さん「千鳥でええんやね?」
五十嵐「はい」
淺井さん「千鳥ゆうても、いろいろあってな、これが《ちょんがけ》。これが《がめ》ゆうてな。知っとる?」五十嵐「いや、千鳥はこのあいだ日東製網の方に教えてもらったんですが、ほかは………」
浅井さん「こんなん知らんで《そらあみ》しとるんか。昔の氷見の人らは漁師でなくても、みんなそんくらい知っとったよ」
と、いくつかの編み方を見せてくれた。何より自然と《そらあみ》と言ってくれたのが嬉しかった。きっと前もってチラシか話を聞いていてくれたのだ。そしてやはり、昔の氷見の人は皆、網が編めたらしい。これはすごいことである。
すぐ帰ると言っていたのに結局ワークショップ終了時間まで、編んでいってくれた。そして、とても印象的な話をしてくれた。
淺井さん「うちら仕事で編む時は、こんなして話なんかせんやろ。だるいなぁ。早く終わらんかな。帰りたいなぁ。なんて思って編むやろ。だから、そん時はいっちょん楽しくない。でもこうして、いつ来ても、いつ帰ってもよくて編んでいられると、ずっと編んでいたくなる。不思議やけど、なんか楽しいな。俺また来るわ。午前中とか来てもええが?」
五十嵐「基本は午後からですけど、ここに自分は午前中からいるにはいます」
淺井さん「そしたら、ドア開けといて。勝手に編んどくから。ええよね?他の若手も呼ぼうかな。そしたらすぐ終わってまうけど(笑)。網編む練習せえってな(笑)」
五十嵐「今日みたいに楽しく話しながら、ゆっくりやれたらいいですよね。でも仲間の方が来てくれたら嬉しいのは嬉しいです」
浅井さん「これから飲み会やのに、今日は(昼寝)寝れんかったな(笑)。また来るわ」
と、帰っていった。
何より淺井さんが鋭いと思ったのは、その感覚である。そしてそれをちゃんと言葉にしてくれた。きっと思ったままに言ってくれたのだと思うのだが、“網を編む行為自体は、プロの漁師の現場でも、そらあみの現場でも同じ行為であるのに、その感じ方が違う。それが面白い”ということを言ってくれたのだ。
これこそ、《そらあみ》がコミュニケーションツールとして機能している証拠と言える。編むことは同じ、でも感じ方が違うのだ。氷見の若手漁師の浅井さんは、それをすぐに感じ、言葉にした。やはり、漁師は感が鋭く、面白い人が多い。網を編むことをフィルターに氷見に入ると、氷見という土地の奥行きはどんどん増していく。
ちなみに淺井さんも絹野さん同様に、あの番匠先生(有磯高校漁業科に42年勤めた元先生)の教え子であり、教わったのは約20年前。久々の再会の現場でもあった。
早朝3時半すぎ。出港直前です。
今日は金庫と呼ばれる定置網に外付けされた箱網を起こしました。
たくさん捕れたイワシの一部を目刺しに。3〜4日干したら食べごろです。
干したイワシは、漁を終えた後にこんな雰囲気で食べます。これが旨い。
番匠先生と教え子の2人。
漁師さんは会話も上手。思わずみんなで笑ってしまう。