“なつかしい未来”と出会う

La Mano 2日目。朝9時La Mano到着。ここに来るとみんながいる。それがうれしい。昨日より、みんなが自分のことを知ってくれている感じがする。誕生日を一度聞くと忘れずに、本当にたくさんの人の誕生日を覚えている由起子さん(自分の誕生日も昨日聞かれ、覚えてくれた)が、大きな声で、且つ、とっても早口で「やすあきさん、おはよう」と独特の早口で声をかけてくれた。名前を覚えてもらって呼んでもらえることって、こんなにうれしいことだったんだと、忘れていた感覚に気づいた。「ゆきこさん、おはよう」。

 

昨日と同様、着替えて、掃除をして、ラジオ体操をして、朝の会で出欠をとり、それぞれの持ち場へ。自分は、午前中は昨日に引き続き藍染めを行い、午後は藍甕(あいがめ)に入れる染料づくりを行った。

 

《藍染め》とは、ごく簡単に説明すると、藍の葉を発酵させた《すくも》というものと、アルカリ性の水を混ぜた液体に、糸や布を浸した後、空気にさらすと酸化して藍色になるというものである。

 

藍染めは染める時間と空気に触れさせて酸化させる時間と、その両方が同じくらい大事なのだそうだ。天候によって空気中の酸素量が違うので、微妙に藍の発色や色の定着が変わるとのことで、太陽に合わせて仕事をするのが良いそうだ。晴れた日の方が藍色の発色が良くなるとのこと。晴れた日は植物の光合成によって空気中の酸素量が増える影響だとか。

 

人が自然をコントロールして染めるのではなく、変化する自然に人が目を向けて観察し、それに合わせて、その力を借りて染める。まるでこの星と日々向き合っているような世界なのだと感じた。

 

実際に染料がたっぷりと入った藍甕をのぞくと、その表面はほとんど黒に近いほどの濃い藍色をしているが、実は空気に触れている部分だけ酸化するので、表面だけが青く見え、その中身は茶色の液体なのだ。これもなんとも不思議な感じがした。

 

なので、ムラなく染めるためには一度浸けた布は液体から出ないようにしながら生地に染料を染み込ませていかなければならない。染料の表面は宇宙のような青でその中身は茶色。例えるならば、「泥の宇宙」といった感じだろうか。ゆえに大げさに言うと生地が見えないのである。見えないものを指先の感覚で、液体内で手際よく動かす。それはまるで宇宙に手を入れているような気分だった。

 

そして、5分ほど藍甕の中で布を泳がせ、引き上げると、布の色は最初は茶色をしており、みるみるうちに、酸化し濃い藍色に変わっていく、それから水で洗って表面に付いた余分な成分を洗い流すと、真っ青な藍色に染まった布が姿を表す。この工程はまるで、布が空を吸って青くなるような不思議な感覚にさせられた。

 

緑に囲まれているLa Manoの染め場で、藍甕に手を入れ、布を泳がせたまま、ふと顔を上げると、正面には竹林が見え、時折、風が吹き抜けサラサラと揺れている。どこかから鳥のさえずりが聞こえ、白猫が首輪の鈴をチリンと鳴らしながら、ゆっくりと通り過ぎていく。他に聞こえてくる音は、それぞれのタイミングでセットした5分毎のストップウォッチの音、井上さんが藍甕の中に布を泳がせるヒタヒタとした音、研登くんの鼻歌や野球や銀行の話。なんとも言えない豊かな時間がそこには流れていた。人と人、人と自然が、それぞれができることをして、このように向き合い、素材や過程といったものを含め、本当の意味で質の良いものを生産し、生きるということ、自分はこのLa Manoという場所に、新しい社会の地平を見た。それは、言葉にするならば「なつかしい未来」である。

 

午後は「すくも練り」が得意な典雄くんがどこかからやってきて、2人で藍甕に入れる染料づくりをした。徳島から取り寄せた「すくも(藍の葉を発酵乾燥させたもの)」5㎏、大きなタライがいっぱいになるくらいのものに、灰(はい)を茶碗一杯ほど加え、熱湯を注ぎ込み、ひたすら練る。軍手をし、厚手のビニール手袋をした両手で、とにかくひたすら練る。これを繰り返していくと、カチカチに乾燥していた《すくも》は、和菓子のこしあんのように粘りが出てきて、徐々に藍の香りが立ってくる。いつもやっている典雄くんは慣れているので、真似をしながら、2人並んで肩がこすれるくらいの距離で、それぞれのタライに入った《すくも》を一緒に練った。

 

典雄くんは体の距離感が近くても大丈夫な人。メンバーのひとりの卓さんは人に触れられるのが苦手。距離感は人それぞれ、それは自分も一緒だし、だれもがそれぞれの得意不得意な距離感が、身体的にも精神的にもある。そもそも人と向き合うとはそういうことでもある。相手を、自分を、思いやるということでもある。組み合わせによって千差万別ある互いにとっての心地良い距離感を自分たちなりに見つけることこそ、人との関係性を築く基本である。ここLa Manoは、そんなことも気づかせてくれる。

 

《藍染め》では、必ず1日の最後の仕事として、藍甕の色調整をする。簡単に言うと、何度か染めた藍甕は染まる色が薄くなる。なので、それぞれの藍甕の色を小さな布に染め、色見本をつくり、その色を参考に、より藍の色を立たせるための還元剤を入れる。この仕事は難しいので高野さんがこれまでの経験を基に適度な分量を入れる。そして、井上さんと、研登くんと、自分の3人で藍甕を底から混ぜる。しかもなんと、オールで混ぜるのだ。あの舟を漕ぐオールである。

 

“森の中でオールを漕ぐ”という、これもなんとも不思議な時間だった。

 

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藍染めされた糸。

 

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藍甕に布が落ちないように、カゴに竹を通して工夫されています。

 

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一番左は、糊を落とすための蒸し器。右二つは染料を煮出したり、熱湯を作ったりします。

 

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「すくも」です。蓼藍(たであい)の葉を乾燥させたもの。

 

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徳島産のすくもです。専門農家も減ってきており貴重なものです。

 

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すくも練りが得意な典雄くんと2人で練りました。

 

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無事に染色終了。絞りの糸を外したら模様が出てきました。

 

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絞りを外す場所や染める回数で色の差を出します。

 

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研登くんや井上さんが染めた布。美しい。

 

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カーテンも藍染めのパッチワークでした。