〈そらあみ-氷見-〉アートプロジェクトの成長

魚々座(ととざ)9日目。今日は〈そらあみ-氷見-〉のお披露目の日。昨日から続いた吹雪が止み、奇跡的な天候に恵まれ、富山湾に面した比美乃江公園に設置された〈そらあみ-氷見-〉は、白銀の世界の中、氷見漁港、唐島、遠く水平線のむこうに立山連峰という、まさに氷見らしい風景を捉えた。

 

〈そらあみ〉は、漁師や一般の参加者と共に、空に向かって漁網を編むことで、人をつなぎ、記憶をつなぎ、完成した網の目をとおして、土地の風景を捉え直すプロジェクト。これまで、全国16箇所。2014年6月には遠くブラジルでも行ってきた。手仕事としての漁網編みは、時代とともに失われつつある技術。しかし大勢の人と協働し、教えあいながらひとつのものを手仕事でつくる、というコミュニティをつなぐ大切な文化的行為でもある。〈そらあみ〉はそのことを教えてくれる。

 

氷見での〈そらあみ〉は、今からちょうど1年前「ひみ漁業交流館 魚々座(2015年4月オープン)」の開館記念に合わせて、開館2ヶ月前の2015年2月からスタートした。その時完成した作品は、巨大な定置網をメインに展示空間を演出する魚々座の垣網(魚を誘導する網)として施設入り口に常設展示され、氷見の方々の手によって編まれたカラフルな網はアイキャッチとなり、人を誘導する役割を果たしてきた。

 

また、魚々座館内では体験型ワークショップとして、この1年間通して〈そらあみ〉は開催され、地元漁師やボランティアスタッフ指導の元、観光客や地元の方々など、延べ人数にして1000人以上の人が編んでいった。ここで生まれた場は、氷見の人が自分たちの言葉で自分たちの土地や漁業文化について、第三者に伝える機会としての役割を果たした。

 

こうして編み広げられていった〈そらあみ〉は人と人をつなぎ、そして400年以上の歴史がある氷見発祥の越中式定置網に代表される、編むことで命をつないできた氷見のかつての暮らしを、未来に向けて編みつないでいったのだ。氷見弁が飛び交う中、カラフルな網が編まれていく様子は、言葉にすると「なつかしい未来」といった、現代社会に対して新しいイメージを思わせるものであった。

 

1年前30mだった網は、多くの参加者の手跡を残し、1年かけて60mに成長。今日はそんな1年間の成果をお披露目したのだ。

 

雪の降る中での展示設営は、手足の感覚がなくなるほど寒く、たいへん厳しいものだったが、早朝にも関わらず積極的に、むしろ前のめりで設営に向かう姿は、すでにこの〈そらあみ〉というプロジェクトが地元の方々にとって自分事となっている証明とも思えた。

 

アートプロジェクト〈そらあみ-氷見-〉は、確実に成長していっている。

 

設置終了後、魚々座にもどり、みんなで鍋を囲んで、1年間撮りためた記録写真をスライドショーで見ながら、〈そらあみ-氷見-〉と魚々座の歩みを振り返り、一人一人から感想を聞いた。自分自身が育った氷見という土地を愛する皆さんの言葉には、それぞれしっかりと魚々座と氷見での〈そらあみ〉がどうなっていくと良いかの意見や想いやアイデアがあり、氷見の未来に向けての貴重な意見を交換する機会となった。

 

さまざまな意見が出た中、具体的なものをまとめると、もっと氷見の地元の人が多く来られるようにするために、、、

⑴囲炉裏をみんなで囲う番屋(漁師さんの作業小屋)や、炬燵(こたつ)にミカンとお茶があるような昔ながらの氷見の家のような居心地の良い空間づくりをすること。

⑵氷見の四季を感じるような一年の過ごし方を、お月見団子を作ったり干物をつくったりして行い、年間通して何か“コト”が行われている場にしていこうということ。

⑶広報活動として、魚々座に面白みを見出している自分たちが、友人を連れてくるようなイメージで、一人が一人を誘って声がけしてみよう。

といったものだった。

 

より詳細な意見はもっとたくさん出て、一つ一つの意見に対して、笑いあり、真剣な意見交換あり、といった感じで盛り上がった。

 

これはとても素晴らしいことだし、どれもたいへん貴重な意見だと思う。魚々座という、氷見の漁業文化を、氷見人とのコミュニケーションを介して伝えていく場作りをどうしたらいいのか、、、。開館からちょうど1年経った今だから出てくる現場の声に他ならない。これらが、どのように魚々座運営に反映されていくのか、運営形態など様々な難しい課題もあるのだろうが、まずは楽しみである。

 

〈そらあみ〉が捉えた氷見の風景はもちろん美しかったが、それ以上に感動したことは、アートプロジェクト〈そらあみ-氷見-〉が、「ひみ漁業交流館 魚々座」に拠点を構え、観光客や第三者に自分の言葉で伝える期会が、より多く生まれたことで、1年前は参加者だった皆さんが、伝える側の当事者であり、氷見文化について考え行動する発信者となっていたことだ。ここで起きた一人一人の視点の変化と、関係性の広がりと深まり、これは地域と協働する特徴を持つアートプロジェクトの成長と捉えられる。

 

〈そらあみ〉は今年も魚々座で編まれていくこととなる。かつて定置網漁網を村人総出で編み、命をつなぎ、漁業文化を育んできた氷見は、〈そらあみ〉というアートプロジェクトをきっかけに、なつかしくも新しい氷見の未来を編みはじめている。

 

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昨夜まで続いた吹雪が止んだ朝9時。

 

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奇跡的な青空に恵まれました!氷見漁港の灯台に唐島、遠くにはうっすらと立山連峰の姿。

 

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別の角度から見るとこんな感じ。

 

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実はこのあと、昼過ぎからは再び暴風雪警報が発令されました!数時間だけ、まるで〈そらあみ〉のためにこの瞬間が訪れたかのようでした。

 

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魚々座から見ると、こんな風に見えます。

 

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鍋を囲み1年間を振り返る。この雰囲気こそ魚々座に必要な要素。この感じがジワジワと広がっていくと良い。

 

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この写真。実は翌日24日の朝です。一夜にしてこの姿に!

 

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懸命な地元の方々の判断と協力を得て、吹雪になる前に事故なく撤去することができました。感謝!

 

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〈そらあみ〉を掲げた柱も一晩でまるで樹氷のようになっていました。横向きに雪が積もっている、、、恐るべし氷見の冬。