宇佐美くんと染める〈鼻歌〉、玉置くんと染める〈告白〉、西沢くんと染める〈引き継ぎ〉

La Mano 7日目。朝9時La Mano到着。昨日と同様に、着替えて、掃除をして、ラジオ体操をして、朝の会をして、1日がスタートした。掃除の場所は、なんとなく糸染め小屋と織り工房〈セグンダ〉の間の道の落ち葉掃きを、メンバーの遠藤さんと一緒にするのが定番になった。遠藤さんは責任感が強く、頼まれるとしっかり答えてくれる人。そして、ちりとりを使うのがとても上手だ。自分は、ほうきで落ち葉を掻くのが好きなので良いコンビが結成された。

 

朝の会でみんなと同じように「やすあきさん、染め」といった具合に、名前と仕事の割り振りを聞き、「はい」と手を上げて返事をし、日直の「今日も1日よろしくお願いします」に対して、みんなは「よろしくお願いします」と挨拶をして、10時頃には、染め、織り、絞り、アトリエといった、それぞれの持ち場で制作がはじまった。

 

自分は昨日にひきつづき、メンバーさんと一緒に糸染めを行った。午前中は宇佐美くん。午後は玉置くん。夕方は西沢くんと染めた。メンバーさんが交代で一人ずつ糸染め小屋に来て、一対一の2人きりで糸染めをするので、さながらご長寿トーク番組「徹子の部屋」ならぬ「やすあきさんの部屋」状態である。いうまでもなくトークは、ほぼ盛り上がらないのだが、、、。かわりに、藍染めという共同作業を通して言葉ではないものの交換が行われる部屋となった。

 

宇佐美くんは、普段は織り工房〈セグンダ〉入り口の専用の机で糸巻きをしている。それが彼の主な仕事で、染色された綛の状態の糸を、糸巻き器で糸玉の状態に整形する達人である。宇佐美くんが巻いた糸玉を使うと仕事がしやすいと織り工房の中でも評判である。故に普段は、藍染めはしない。だが、見た目も硬さもちょうど良い美しい糸玉をつくることから分かるように、宇佐美くんは器用で仕事が丁寧。且つ、体も大きく力持ち。最初だけやり方を教えてもらったら、すぐに藍染めの作業内容を覚え、黙々と染めていた。タイマーを5分にセットしてスイッチを押し染色開始。静かな時間が流れる。宇佐美くんは時々、鼻歌を歌う。会話はない。5分経って、糸を藍甕から引き上げて、硬く絞る。ぎゅーっと絞って、茶色い藍の染料が落ち、次の瞬間、糸は緑に発色する。力持ちの宇佐美くんは絞るのもまた上手い。絞ったものを干して空気に触れさせ、酸化させ藍をより発色させる。これを午前中いっぱい宇佐美くんと2人で繰り返した。時折、鼻歌を聞きながら。

 

午後は玉置くんと染めた。玉置くんは、ゆっくりした落ち着いたリズムを持っていて、寡黙で繊細な男だ。お昼ご飯で同じ机になったりしたことはあったが、会話をしたことはほとんどなかった。玉置くんの癖は、歩いていて気になると、机の上に置いてあるものや、タンスの引き出しなどを微調整して向きを直す、もしくは配置を正す、という独特のもの。何枚も積んであるチラシのズレをきちっとしたり、机の引き出しがちゃんと奥まで入っているか丁寧に確認している姿はこれまで何度か見てきた。どうやらモノの向きや、位置がしっかりとしていないと気になってしまうようだ。そんな繊細で几帳面な部分がある。なので染めの作業は安心して見ていられる。鳥の鳴き声と、糸と藍の染料液が触れ合う音しか聞こえない時間がしばらく続いた。

 

やすあきさん「玉置くん、じゃあ次は、糸を絞ります」

玉置くん「糸、絞ろうかぁ」

やすあきさん「うん。糸、絞ろう」

玉置くん「糸、絞れるかなぁ」

やすあきさん「そう上手、上手」

玉置くん「上手かなぁ」

やすあきさん「じゃあ次は、糸を干しにいこうか」

玉置くん「糸、干そうかぁ」

やすあきさん「うん。糸、干そう」

玉置くん「糸、干せるかなぁ」

やすあきさん「そう上手、上手」

玉置くん「上手かなぁ」

 

なんだか、ゆったりと、あたたかい会話になった。

 

再び、沈黙の中、二人で染めていると、突然、玉置くんが一言。

 

「やすあきさん。すき」

 

なんて答えていいか分からず、しばらく黙ってしまった。ここのところ、誰かに告白されることもなかった。しかも突然だったので。。。でも嬉しかった。純粋な気持ちだけが伝わって来たようで、なんだか胸があたたかくなって。。。やすあきさんが一言。

 

「玉置くん。ありがと」

 

再び、二人は沈黙の中、糸を藍に染め続けた。

 

夕方からは、西沢くんと染めた。西沢くんは、藍染めの経験も豊富で、糸を藍染めしたこともあり、頼れる存在。以前にすくも練りを一緒にやったのも西沢くん。

 

やすあきさん「西沢くん。前にすくも練り一緒にやったね」

西沢くん「やすあきさん。一緒にやったね」

西沢くん「やすあきさん。今日は藍染め一緒にやるね」

やすあきさん「藍染め、一緒にやろうね。よろしくお願いします」

西沢さん「はい。よろし、く、おねが、します」

 

さすがは経験者、見事な手つきで作業をしている。特にこちらが言うこともない。西沢くんのエプロンに書かれた「藍染めプロ!」の直筆の文字は嘘ではない。

 

3時半になると、片付けをはじめて帰りの準備に取りかかる。そのことを分かっていたので声をかけた。

 

やすあきさん「そろそろ3時半だし、終わりにして片付けしようか」

西沢くん「まだあと少し、染め、まだ終わってない」

やすあきさん「あと、何回?」

西沢くん「これ、あと2回」

やすあきさん「でも、それ時間かかっちゃうよ」

西沢くん「残業。いいよ」

やすあきさん「残業?ほんとに?いいの?」

西沢くん「いいよ。残業。するよ」

 

このあと、帰りの時間が近づいて、だんだんと西沢くんに焦りが出てきたのが分かった。別のスタッフの方が、「西沢くん。まだやってるの?もうお仕事終わりだよ。帰る準備しようか」と声をかけてくれた。しかし西沢くんは「これ、藍染め、あと、少し」と明らかに焦りながら作業をしている。スタッフの方はそれを見かねて「そしたら、続きは僕が引き受けたから、着替えていいよ」と声をかけてくれた。すると、西沢くんくんは、作業をすぐに止めて「やすあきさん。おつかれ、さま」と言って、急いで着替えにいった。

 

きっと、藍染めプロ!で、責任感のある西沢くんは、引き受けた染めの仕事の全てを終えるまで、帰れなくなってしまっていたのだ。自分が「あとは引き継いだから」と一言、言えれば、西沢くんはあんなに焦ることもなかった。気がつかなかった。西沢くんの、ちゃんと染めをやりたい気持ちと、帰りの時間が来て帰りたい気持ちと、その両方があったのだ。次は気がついて言えるようになりたい「あとは引き継いだから大丈夫」とその一言を。。。

 

やすあきさんの部屋。今日のゲストは3人。あの糸染めの小屋で、メンバーさん、ひとりひとりと向き合う時間は、自分自身と向き合う時間でした。

 

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鼻歌が聞こえる。

 

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織り工房「セグンダ」前の新しい風景。

 

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お昼休みはストーブに集まって雑魚寝。この感じが好きです。

 

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繊細に、棒の位置を修正する。

 

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「やすあきさん。すき」まさかのうれしい告白(笑)。なんか感涙でした。

 

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藍染めプロ!です。