櫃石島、編みはじめ。漁師から日当の請求。

沙弥島滞在7日目。今日は櫃石島での編みはじめ。櫃石島は若い漁師さんが多い活気のある島。香川県である与島五島の中では最も北に位置し、買い物などの生活圏はほぼ岡山県側で、言葉も岡山の影響が強い。漁で獲れた魚の水揚げも岡山県の市場に水揚げする。

 

3年前の〈そらあみ〉では、漁師の洗礼的な経験をした島である。具体的に言うと、いい意味でいじめられるというか…。愛されるというか…。自分にとっては緊張感のある島。ある意味、漁師らしい島とも言える。

 

13時、ドキドキしながら、櫃石島の集会所へ。入り口には人影が!よかった!何人か来てくれてる。自治会長さんや年配の方々の姿があった。もちろん彼らも漁師である。

 

五十嵐「こんにちは!ご無沙汰してます!また、よろしくお願いします!」

年配漁師「また。網。やるんやて?」

五十嵐「はい。やります」

年配漁師「3年前の網はどうしたん?」

五十嵐「保管してあります」

年配漁師「そしたら、それ使うたて、見るもんには、わからんやろ」

五十嵐「それは…」

別の年配漁師「そりゃ、あんた色も抜けとるし、新しく編むんが、ええんや」

年配漁師「ほうかのぅ」

五十嵐「(2度ほど、うなずく)」

また別の年配漁師「こんどは、あれや。こうな。あの網をアーチにしたらええ。みんなくぐれるやろ」

五十嵐「それもまた新しい見せ方ですね」

 

といった具合に、3年前に比べたら、皆さん一緒に編んでつくって、多くの人に見せるという意識はもうすでに強いことが分かって安心した。

 

集会場に入り、準備をしていると、若手の漁師さんたちも、ちらほらとやってきてくれた。

 

自治会長「うちの若いもんは、こうして勝手に来て編んだらまた、それぞれのタイミングで沖に行くからな。それでも、ええな?」

五十嵐「はい。大丈夫です。」(沖に行くというのは、漁に出るということである)

 

若手の方も含めある程度集まったところで、全体プランの説明をして〈そらあみ〉ワークショップをはじめた。

 

五十嵐「このコマを使って、網の目の大きさを揃えるようにお願いします」

若い漁師「いっつも手でしよるから、それ使うたら、ごっつやりづらいわ」

五十嵐「でも、可能な限りコマで大きさを揃えて…」

若い漁師「……(黙ってコマを使わずに手で編んでいる)」

 

ということで、ほぼ櫃石島の皆さんには、コマは使ってもらえない(笑)。それでも、目の大きさは、おおよそ合わせてくるところは、やはりすごい。とはいえ、年配の編み経験が豊富な世代は安定した目の大きさだが、若手の中には、手でするので徐々に普段仕事の補修編みで慣れた網目の大きさに変わってしまっている人も数名…。

 

そして、何より、櫃石島の〈そらあみ〉ワークショップでは、漁師たち活気のある言葉がたくさん行き交うのが特徴である。

 

漁師A「しっかし、なんで、こんなことせなあかんの?ボランティアとか、ほんま信じられんわ」

漁師B「日当、出してもらわな、割に合わんわ」

漁師C「ほんまや。自分の網もこないに一生懸命編んだりせんわ」

漁師D「自分の網も直さなあかんのに、なんで人の網、編まなあかんのや」

漁師A「あの五十嵐とか言うんに、こき使われてな。芸術祭とか、いい迷惑やで」

漁師B「おれらボランティアなのに、あいつは金もろうとるやろ。な?」

漁師C「今夜は、五十嵐にうまいもん食わしてもらおうや。なん食わしてくれるやろ?」

漁師D「おねえちゃんの店に連れてってもらおうや」

 

活気ある言葉というか…冗談であり、揶揄でもある(笑)。でも本質をついている。これもほんの一部の会話でずっとこんな感じの掛け合いが続く。そして何より、そう言って、夕方16時半までの約3時間半もの間、ずっと編んでくれているのだ。中には、岡山からわざわざ編みに来てくれた若手漁師もいた。実は、きつい言葉と強面な雰囲気とは裏腹に、本当に心温かく、頼りになる人たちなのだ。

 

年配漁師さんの中には、「油が切れた(船に体を例えている)。こっちの方が手の仕事が早いでな」といって、ごくごく自然にビールで軽くやりながら編んでいる人の姿も(笑)

 

途中で、島の小学生たちが校長先生や担任の先生たちに連れられてやってきて、糸巻きしたり〈そらあみ〉づくりのお手伝いをしてくれた。小学生たちのお父さんのほとんどは、目の前で編んでいる漁師さん。息子や娘に糸巻きを教える姿は、やはり美しい光景であった。

 

まさに漁師の船小屋の中での時間が流れているような、櫃石島での〈そらあみ〉であった。

 

最終的には24名の参加。さすがである。

 

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コマ、使いません。

 

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櫃石小学校の校長先生、先生、生徒たちが編みに来てくれました!網針への糸の巻き方を教える漁師さんは実は生徒のお父さんです。

 

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面識がなかったら、話しかけづらい雰囲気の方が多いですが、実はとても心が温かいのです。今日もずっと編んでくれました。

 

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漁師の卵と学校の先生で糸玉づくり。

 

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大事にしたい風景です。

 

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網が広がり、会話も弾む。

 

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むこうでは、「油が切れた」といってプシュ!缶ビールが開く音が!思わず反応!(笑)

 

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坂出市役所職員さんも参加!3時間、編んでは間違い、網をほどき。これを繰り返したら。3時間前と同じ風景(笑)。漁師たちの格好の獲物に!「なんや!ちっとも進んどらんやんか!(笑)。こりゃあんた今日の給料はなしやで〜(笑)。市長に言うとってやるわ(一同大爆笑)」