南極で組紐を組む

DAY7 AM / Wiencre Island / Port Lockroy(U.K.)に上陸を試みたが、岩壁と氷に阻まれ断念。氷の上にはペンギンの姿があり、どうやって登っているのかわからないが、ペンギンにとっての日常は、我々人間がなかなか辿り着けない場所なのだと痛感した。

 

ゾディアックというゴムボートで船に戻る際、波風が強くなり、何度も波に打ち付けられ、海水をかぶり、冷風にさらされた。南極の海水もしょっぱいが、そこまで塩分は強くない印象。同じボートで隣に座っていたポノマリョフと顔を合わせて「This is Antarctic Biennale」と伝えると、ポノマリョフは笑いながら深く頷いた。

 

DAY7 PM / Ronge Island / Kerr Pointに上陸。島に向かう前に、船内にて、オーガナイズをしている一人でキュレーターのナディムから、今回挑戦するか?と聞かれ、しばし悩む。なぜなら行ってみないとどんなロケーションか誰もわからないのと、天候がどんどん変わっていくので判断が難しいのだ。ナディムは「これはベット(賭け)だ」と笑顔で一言。「Yes or No ?」ナディムの目は真剣である。さてどう判断するか、、、。アラレが降って午前中と変わらずに風も強かったが、遠くに青空も見えたので、迷ってやらないよりは、やってみないと後悔すると思い、天候の快復と良いロケーションであることを願って賭けに出た。

 

結果は、最高のロケーションとの出会いとなり、クジラの骨を椅子にして、波打ち際に寄せた氷塊や、ペンギンを背景に、南極で組紐を組むことができた。船でもよく参加してくれていたイタリア人キュレーターのカルロや、ポノマリョフとも組むことができた。今回のプロジェクトでは2人1組で組むように設定したのだが、南極で一対一で向き合い、組紐を組んでいると、まるで、将棋や囲碁を指しているような、ダンスをしているような、相手の指し手や呼吸やリズムに合わせているような感覚になった。その美しい情景は、南極の大地で、まさに互いの時を重ねている姿だった。人が入れ替わりながらしばらく組んでいると、いつしか手の感覚がなくなって石のように動かなくなっていた。刺すような寒さと表現するよりは、寒さを感じないような寒さだった。

 

設営に関しては、エクアドルのアーティストのポールや、ロシアのアーティストのアンドレイなどなど、みんなが自然とサポートしてくれたから成立することができた。携帯やインターネット圏外の船で、ともに食事をし、酒を飲み、コミュニケーションを重ね、人が人に向き合いながら一緒に過ごしながら、いつしか育った関係性を強く感じる瞬間だった。

 

世界中の子午線が集まる南極で、時を束ねるプロジェクト「Bundling Time」。世界中の人と組み込んだそれぞれの時間の糸が束ねられた組紐の長さは30メートルになった。これでプロジェクトの前半は終了。ここから先は、凧と組紐をジョイントし風を待つ。みんなの手の中から一本ずつ出た糸が凧によって上空で一つに束ねられる。

 

南極でのパフォーマンスを終え、自分の仕事をみんなに見てもらえたおかげで、自分の中で何かが弾けて、みんなとの距離もずっと縮まったように感じた。

 

船に戻っても、しばらく興奮していた。

 

DSC_3774_s

クジラの骨を椅子にして南極で組紐を組む。遠くにペンギンの姿。

 

DSC_3796_s

イタリア人キュレーターのカルロと互いの持っている時間を重ね、組み込む。

 

DSC_3805_s

徐々に手の感覚はなくなっていく。

 

DSC_3825_s

コミッショナーでアーティストのアレクサンドル・ポノマリョフとの時間を組む。

 

DSC_3830_s

まるでチェスやダンスをするように、互いのリズムや呼吸、命の鼓動を感じる。

 

DSC_3831_s

ポノマリョフとしばし時を満喫する。

 

DSC_3852_s

思想家と時間について考えながら。

 

DSC_3854_s

クジラの骨が椅子になっています。

 

DSC_3857_s

ロシア美術の研究者、鴻野わか菜さんと組む。

 

DSC_3862_s

南極の色。

 

DSC_3866_s

時折、突風が吹き抜けていく。

 

DSC_3873_s

ONEOCEAN(ゾディアックなどを動かしたりする現場運営チーム)と組む。バックはクジラの骨。

 

DSC_3880_s

宇宙の研究をしているバーバラと組む。

 

DSC_3890_s

クジラの骨。いったいどれくらいの時間が経ったのだろう、、、。