南極ビエンナーレ

南米大陸の南端、アルゼンチンのウシュアイアにあるホテルでこの日記を書いている。日本の成田空港を出発し、アメリカのダラス、アルゼンチンのブエノスアイレスと経由し約30時間のフライトを経て、やっと到着した。3月17日にウシュアイアを出航するロシア船籍の船「Akademik Sergey Vavilov」に乗って南極へ向かう。南端ビエンナーレに参加するためである。

 

南端ビエンナーレ

http://antarcticbiennale.com/index.html

 

南極ビエンナーレとは、今春、南極で初めて開かれる国際芸術祭であり、ロシア人アーティストのアレクサンドル・ポノマリョフ氏が構想し実現に向けてコミッショナーとして活動しているプロジェクトです。

南極は1959年に結ばれた南極条約により、どこの国にも属さない大陸となりました。そんな、どこ国のものでもない、誰のものでもない土地である南極を舞台に、世界中のアーティスト、科学者、思想家が「国」という枠組みを超え、創造的な活動を行いながら一緒に旅をする、そのプロセスも含めた活動全体を南極ビエンナーレと位置付けています。

 

はじまりは2月18日にモスクワから届いた一本のメール。文頭にはこう記してあった。

Dear Yasuaki,

On behalf of the Antarctic Biennale Organising commettee I want to invite to join our art-expedition to the shores of the White Continent.

On March 17, 2017, on board the Academic Sergei Vavilov scientific research vessel, about 100 people from all over the world – artists, architects, researchers, writers and philosophers – will head off on a creative voyage to the shores of the Earth’s most southerly continent.

Regarding art progect to be realised 

The art project can be implemented on board, on shore, on water, in the air.

 

出航まで一ヶ月を切っていた。その他スケジュールされていたプロジェクトとの調整もあり悩んだが、たくさんの仲間と相談し参加を決めた。まず、こうしてここにいられることに、サポートしてくださったみなさんに心から感謝しています。良い旅の報告ができるように尽力してきます。

 

自分はこれまでもそうだが本当に良い人との出会いに恵まれ、人生の経験を重ねてきた。今回の話も、きっかけは昨年参加した瀬戸内国際芸術祭2016にて、本島という同じ島で作品を発表したのが南端ビエンナーレコミッショナーのポノマリョフさんだった。数日共に過ごした本島ではもちろん互いの作品は見たし、一緒にうどんを食べ、島の餅つきに誘って一緒に餅もついた。会話を交わす中で、彼はアーティストになる前までは、もともと船乗りであったことを知った。ロシア海兵の時代もあるし、商船に乗って世界中を旅していた時期もある。体格だけでなく、どこか大きな人間性を感じていた。アーティストとしての彼の仕事も、美術館の池にロシアの潜水艦を登場させたり、実在する島を煙で隠したり、砂漠の砂丘に巨大な船を出現させたり、とても大きくユニークなプロジェクトが多い。2005年のヨットでの太平洋航海から得た「海からの視座」を活動の根底に据えている自分にとって、憧れとつながりを感じる人だった。本島で話をしたのは数回。握手をして別れた。そんな、彼が自分を南極への航海へ誘ってくれた。

 

そして今日、プロジェクトに必要な材料を調達しにウシュアイアの町の通りを歩いていると、向こうから黄色いジャケットを着た大きな男が両手いっぱいに紙袋を持って歩いてきた。互いに目が合い。再びがっちりと握手を交わし、抱擁し、バンバンと背中を叩く。

 

2005年の太平洋航海を終えた頃、あることを考えていた。「人は時に陸を離れて海へ出てみるべきだ。いつか大きな船をつくって、世界中の科学者やアーティストや建築家やデザイナーや職人たちと航海をしてみたい。そこでいろんな話をし、共に過ごし、何かを交換する。陸から離れ海からの視座で物事を考えてみる。そうしたら、陸で起きているいろいろなものの突破口が開けるのではないだろうか。」

 

ウシュアイアの町で再会した男は、それをまさに実現している。大きな男の背中には単純に憧れる。

 

ホテルに戻るとメールが届いていた。

Dear Antarctic Biennale participants,

Meeting point for all the patricipants who will be in Ushuaia by the morning March, 16 – in front of the Hotel Albatros.

Address – Av. Maipu 505. There will be waiting the bus with the Antarctic Biennale flag.

The Antarctic Biennale participants should be here with the luggage at 3.20 pm, the bus will go to the port at 3.30 pm.

 

明日、15:20にホテルアルバトロス集合。実はそれ以外のことはあまり情報が届いておらず、ほとんど分かっていない。ただ、今このウシュアイアには世界中のアーティスト、科学者、思想家が集まってきている。彼らとの南極航海から自分の中に何が見えてくるのか、楽しみである。

 

明日は港に船を停泊したまま皆で夕食を食べ、交流し、一泊してから、明後日の3月17日、どこの国にも属さない、だれのものでもない土地に、船で向かいます。

 

IMG_8111_s

ダラス→ブエノスアイレスは10時間のフライト。

 

IMG_8131_s

アルゼンチン上空にて、乾いた大河。この星の形は水がつくっている。

 

IMG_8140_s

ウシュアイアの一つ前に飛行機が経由した町。遠く見える山の方にウシュアイアがある。

 

IMG_8149_s

ウシュアイア着陸直前。曇り空。

 

IMG_8155_s

山を背に、海に面した町。南極観光で今はハイシーズンを迎えている。

 

IMG_8158_s

ウシュアイアの古い家。

 

 

IMG_8163_s

通りでポノマリョフと再会。一緒にいるのは参加者の一人、ドイツ在住の日本人アーティスト長谷川翔くん。