くすかき二十二日目「くすのかきあげ」

くすかき二十二日目。くすかき最終日。早朝6時半、境内に51名の掻き手が集い、朝の美しい光と静寂の中、平成二十九年「くすのかきあげ」を無事に奉納することができました。

 

朝5時、天神広場集合。空に三日月。まだ暗い中、月明かりをたよりに皆で落ち葉を移動させる。6時半に掻き手全員が集合し、各当番長と流れを発表し、組み分け。7時〈くすのかきあげ〉開始。9時〈くすかき奉告祭〉催行。天神広場で記念撮影をして、女性陣は山かげ亭にて直会準備。男性陣は落葉と柵の撤去。12時半〈直会〉開始。15時半各賞の発表。17時半平成二十九年記録映像鑑賞。18時中締め。その後、深夜まで直会は大盛況。一次会は大人28名、子供20名。二次会は大人25名。述べ人数にして73名が集いました。

 

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今年の〈くすかき〉を一言で振り返るのなら「参加者から当事者へ」。地元から参加してくださっている方々の意識の変化を強く実感した節目の年となった。これは、千年続くアートプロジェクトを目指し、今年1,000分の8年目を迎えた住民参画型プロジェクトにとって、とても大きな出来事である。

 

きっかけは2つある。ひとつは、五十嵐が南極ビエンナーレ参加のため事前準備段階で太宰府入りできなかったこと。もうひとつは、これまで八年間くすかきを支えてきてくれたスタッフが現場から離れたこと。

 

南極ビエンナーレからの招待が届いた時には、すでにくすかきの会期は決まっていた。事前準備も含め、実施に不備が発生するのなら南極行きも潔く諦めるつもりでいた。その後、会期を一週間ほど後ろへずらすことができないか、これまで一緒にくすかきをつくってきたお宮の方々や地元太宰府の方々に相談した。

 

ひとりの神職の方の話が印象に残っている。

 

「太宰府のみんなは南極へ行って成長してこいって言ってくれるよ。でも、樟の木は五十嵐を待ってくれないよ。落葉は待ってくれない。くすかきが大事にしていることはそういうことだろう?五十嵐の都合で会期をずらすんじゃなくて、樟のタイミングに合わせるべきなんじゃないか?事前準備の内容を伝えておけば、くすかきのみんながちゃんとやってくれるよ。これまで一緒にやってきたんだから」

 

ひとりの地元太宰府の方の話が印象に残っている。

 

「千年続けるのだから、メインの人が入れ替わる年もあるし、五十嵐くんが来られない年も、この先あるよね。それでも続くかどうか、、、。そういった意味では、今年はいい機会なんじゃないの?」

 

言葉は違えど、他のみんなも同じ方向性の意見だった。くすかきの本質である、“樟と向き合う千年の時間”を共有できていることに感動すると共に、深い感謝の気持ちでいっぱいになった。

 

こうして、これまでに育まれた関係性があったからこそ、南極行きを決断することができた。そして、南極から成田経由で太宰府に直行し、頼もしい仲間の元にもどってきたのが開催前夜の3月31日。事前準備は地元を中心としたくすかきの仲間が集い無事行われていた。また、会期中、これまで現場スタッフが担ってくれていた様々な仕事も、みんなの力が結集し、なんとか成し遂げることができた。

 

「樟の木は待ってくれない」の言葉は本当にその通りで、会期を変えずに実施した結果、今年の落葉のタイミングは、くすかき会期とどんぴしゃり。会期のはじまりに合わせて樟の葉は落ちはじめた。故に例年に比べ今年は特に落葉と向き合った印象が強い年となった。

 

今年のくすかきは樟の落葉としっかりと向き合い、準備から細かな制作まで、みんなでつくりあげた印象が強く、これまでとはまた違った達成感と、これからより一層互いの意見を交わしながら、くすかきを共につくりあげていく可能性を感じた。ひとつ段階レベルが変わった感じがした。

 

また、南極からの直接の太宰府入りで感じたことがある。

 

世界中のアーティスト・科学者・哲学者、約百人が一つの船に集った南極航海は、青い氷と、うねる海と、冷たい風に閉ざされた、美しくも厳しい、人を寄せ付けない世界だった。ネットも電話もつながらず、人が自然と向き合い、人が人と向き合う時間には、身体に秘められた可能性と、この星で豊かに生きる普遍性があった。

 

そして、子午線、すなわち世界の時間が一点に集まる南極で、自身のプロジェクトを通じて時間について考えていた。そこで見出したものは、時間とは誰かが定めた約束事ではなく、ひとりひとりが刻む生命そのものなのだということだった。

 

それと同じものがくすかきにはある。

 

早朝顔を合わせ、松葉ほうきを手に、千年の時をつなぐ樟の杜が迎えた、たった一度の今年の春と向き合い。大人も子供も関係なく一年ぶりに再会し、お互いの成長に向き合う。毎春、向き合うことで重ねてきた関係性があるから、自分の今を確認することができる。それは自分の生命の刻を実感することでもある。

 

人が自然と向き合い、人が人と向き合い、それらのあいだに確実に存在する何か目に見えない大切なものを感じ、それらを表現し伝えることにより、はじめて生まれるものがある。

 

くすのかきあげは、落葉風景をつくり出し、そこからかつて存在した千年樟を想像する。目には見えないものを感じるための一連した所作である。それは、太宰府天満宮という神社で、目には見えない神様を感じることとよく似ている。一年に一度だけおとずれる或る朝に、それぞれに感じる千年樟とは、自身の生命を感じることなのかもしれない。

 

今年という年も、今日という日も、生きているあいだに最初で最期。今年の樟の杜に集った人と、そこに想いを馳せた人によって、平成二十九年、今年も見事な千年樟が描き出されました。今年も良いくすかきでした!また来年、樟の葉が落ち若葉が芽吹く頃、太宰府天満宮の樟の杜で会いましょう!!!お疲れ様でした!!!

 

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第八回「くすかき-太宰府天満宮-」

[会期]平成二十九年 四月一日[土]〜二十二日[土]

[会場]太宰府天満宮 境内

[行事]くすかき成功祈願祭・松葉ほうきつくり:会期初日 四月一日 開催

日々のくすかき:期間中 早朝六時半より 土日のみ夕方四時からも 開催

くすのこうたき:期間中 毎週土日 開催

くすのかきあげ・くすかき奉告祭:会期最終日 四月二十二日 開催

[参加人数]六百五十七 名

[奉加帳賛同者]百二 名

 

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くすのかきあげ各当番長

[掻き出し]五十嵐靖晃

[水当番]陽山英樹 天賀來星

[新芽当番]子供達(当番長)江藤幹太

[当番長]佐藤信二 江藤応樹 大里武史 上村隆一郎 井原功介

[副当番長]陽山英樹 米湊五郎 犬塚和洋 天賀來星 米湊咲希

[舟当番]杉本八海

[ほうき当番]宮本市郎 陽山英樹

[太鼓当番]五十嵐靖晃

 

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[特別協力]太宰府天満宮

[協力]中川政七商店/福田屋染物店/株式会社ムーンスター/油機エンジニアリング株式会社/ありがとう農園

[制作]飯高左智江

[写真]前田景

[映像]仲信達也

[デジタルアーカイブ]須之内元洋

[デザイン]河村美季

[マネージメント]米津いつか

[SpecialThanks]猪股春香/百花堂

[松葉ほうきつくり]原口葵

 

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最後に、静岡から毎年参加してくれている、友人からのメールを一部紹介します。

 

 

こんにちは。くすかきでお世話になりました◯◯です。昨日の夜、無事に静岡に帰りました。

 

改めまして、19日からの5日間、大変お世話になりました。

太宰府でもお話ししましたが、この時期に太宰府に行ってくすかきをすること・五十嵐さんや太宰府のみなさんとお会いして話すこと は、わたしにとってとても意味のある大切なことになっているなぁと改めて実感しています。気持ちのリセットができました。

 

また、今年のくすかきは、自分にとっては「成長した自分を見てもらう年」だったような気がします。

去年 太宰府にいたときにはできなかったこと・太宰府で初めて覚えたことをこの1年できちんとできるようになったよ、と みなさんに報告できる!と自信を持って行き、みなさんからも「がんばったね」と言っていただけたからです。

それでもまだまだできないことはたくさんあるし、今年学んだこともたくさんあります。

それらは、また次の4月までの1年できちんと身につけて、再び太宰府で報告できるようにしたいです。

 

それから、今年はとりわけ子供たちの成長を実感しました。

身長や喋り方やくすかき中の動き方など、人によって様々でしたが、どの子たちもみんな「成長したなあ」と感じました。当たり前なのかもしれませんが、みんな大きくなっているんですね。

 

来年も必ず くすかきに参加するために太宰府に行きます。

そのときには、どうぞよろしくお願いいたします。

本当にありがとうございました。

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年齢や性別に関係なく、くすかきが関わる人にとって成長の舞台となっていると実感できるメールでした。樟の木の落葉は待ってくれない。自身が刻む生命の時間も待ってくれない。来年また成長した自分を見てもらいに、そして、これまでの自分と今の自分、そして、これから自分を確認するために、みんなに会いに、樟の葉が落ち若葉が芽吹く頃に、太宰府天満宮の樟の杜に向かいます。

 

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早朝5時。まだ暗い中、3週間集めた樟の落ち葉を移動させます。

 

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天神広場のこの場所に平成6年(1994年)まで、千年樟が実在しました。

 

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千年樟跡を掻き出した後、新芽当番のこどもたちが、昨日までの落ち葉の上に、今朝採れた葉っぱを落とし、本日4月22日の朝の落葉風景をつくり出します。

 

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水当番が場を清めます。

 

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集った掻き手51名で、松葉ほうきを使って根っこを掻き出します。

 

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柵内へ入る時、出る時は千年樟跡に一礼します。一礼は存在を示す大切な所作。

 

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芳樟袋(今年の樟葉の入った匂い袋)と樟香舟(今年の樟葉から採れた樟脳)を小さな松葉ほうきに乗せて、こどもたちが今年の樟の香をみなさんにお届けします。

 

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舟当番の持つ大樟香舟にすべての香りを集めます。

 

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落葉→根っこ→幹(掻き山)と生命の流れを辿って姿を変えた千年樟。最後は天に向かって香りを届けます。

 

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舟当番の手によって大樟香舟が無事に掻き山に乗り、香りが天に届けられました。舟当番はその年のくすかき期間で、まるで樟若葉のように大きく芽吹いた人に委ねられます。今年は満場一致で杉本八海が選ばれました。棒の扱いと所作がまるで剣道のようで美しかった。

 

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直会開始。前日から料理の仕込みをしてくださった女性陣をはじめ、協力してこの場をつくりあげたみなさんに感謝!!!恒例となった餃子、豚汁、おにぎり。最高に美味しかったです!!!

 

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奉加帳(一口2000円の寄付)をしてくれた方に芳樟袋と樟香舟とお礼の手紙をお渡しします。香をじっくり堪能中。床の間の上の包み紙は、くすかき賞の賞品です!

 

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くすかき賞はこの参加カードの集計で決まります。今年は全員の参加回数をランキング形式で発表。一等賞は全26回中、なんと25回の参加でした!

 

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朝5時から動いてますので、、、。毎年恒例となった直会風景のひとつです。

 

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春の青空と燃えるような樟若葉。

 

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境内の空気が変わりました。

 

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毎年、くすのかきあげが終わると、空の色、陽の光、樟若葉、半袖になった腕から、季節が変わったことを実感します。ダウンを着て白い息を吐いて会期がはじまり、半袖で終わる3週間。

 

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直会翌日の山かげ亭にて。くすかき奉加帳に参加してくださった全国のみなさまにお礼のセット(芳樟袋と樟香舟とお手紙)を発送する作業をしています。

 

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これが今年のくすかき参加カード。デザイン(米湊咲希):松葉ほうきに樟の葉が参加した分、一枚ずつ増えていきます。首から下げられるように紐もついています。大人気で50枚作っても足りず増作してくれました。

 

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熱があるうちに言葉にして、来年につなげようと、くすのかきあげの三日後に行われた反省会。このタイミングで開かれたのは初めてです。参加者から当事者への意識の変化を感じる一幕でした。

 

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太宰府を離れる朝。偶然にも登校する掻き手と遭遇。

「いってらっしゃい」

「いってきます」

「いってらっしゃい」

「いってきます」