くすかき二十二日目「くすのかきあげ」

くすかき二十二日目。くすかき最終日。早朝6時半、境内に62名の掻き手が集い、朝の美しい光と静寂の中、平成三十年「くすのかきあげ」を無事に奉納することができました。

 

朝5時、天神広場集合。夜明け前だが、二十二日間をかけて体はすっかり朝型になっていて問題ない。暗い中、皆で落ち葉を移動。6時半に当日参加者含め、掻き手全員が集合し、各当番長と流れを発表し、組み分け。7時〈くすのかきあげ〉開始。9時〈くすかき奉告祭〉催行。天神広場で記念撮影をして、女性陣は山かげ亭にて直会準備。男性陣は落葉と柵の撤去。12時半〈直会(昼の部)〉開始。15時半各賞の発表。17時〈直会(昼の部)〉終了。19時〈直会(夜の部)〉開始。20時〈平成三十年記録映像鑑賞〉。22時〈直会(夜の部)〉終了。その後、残った人で深夜まで直会は大盛況。昼の部は大人24名、子供14名。夜の部は大人36名、子供11名。述べ人数にして直会には85名が集いました。

 

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今年度の〈くすかき〉も無事に会期(平成三十年三月三十一日〜四月二十一日に開催)を終えることができました。九年目という年を重ね “朝の太宰府天満宮の過ごし方”として、新たな入口になりつつあります。

 

くすかき

 

〈くすかき〉は太宰府天満宮の樟の杜を舞台とした参加型アートプロジェクト。平成二十二年にスタートし今年で九回目を迎えました。

樟の杜は、毎年春になると、新芽が古葉を押し出して、一斉に葉を落とします。お宮の方々は幾世代にもわたって、その葉を掻いて、新芽を見上げ、樟の木と向き合ってきました。そんな境内の天神広場には、今日の樟の杜を形づくる巨大な木々と同様に長く大事にされてきた、樹齢千年ともいわれる一本の樟の木が存在しました。

〈くすかき〉は、この地で千年続く樟の落ち葉を“掻く”という毎日の行為を通して、人々が出会い、語らう場をつくり、会期最終日「くすのかきあげ」に集まった掻き手によって、かつて存在した千年樟の姿を“描き”出そうという試みです。それは“目には見えないもの”“見えないけれど大切なもの”を感じるという、日本人が元来持っている特有の感性のあり方を伝えていく、年に一度の出会いと再会の場となっています。

 

朝の太宰府天満宮

 

〈くすかき〉の会期は、樟の落葉時期に合わせるので、毎年決まって四月最初の三週間。毎朝六時半に境内に集まって約三十分ほど樟の落ち葉掻きをみんなで行います。今年の参加者は延べ人数にして八百二十八名。小さなお子さんから大人まで、地元太宰府の方を中心に、福岡市内や遠く東京からも参加がありました。地元の方は通学や通勤前に心と体を起こして清々しく一日をはじめる早起き習慣に、旅行者にとっては福岡・太宰府観光の新しい時間の過ごし方として好評です。

これだけたくさんの人を惹きつける魅力は朝の境内の特別な空間にあります。年間八百五十万人以上の参拝者が訪れる境内は朝九時にもなるとたくさんの人で賑わい“観光地”としての色味が強くなります。おそらく多くの人が知っている太宰府天満宮はこっちの姿でしょう。それとは逆に朝六時半の境内はまさに“聖地”。ここが神域であるということを体感することができます。

辺りは静寂に包まれ、冷んやりとした空気が、自然と背筋をピンと伸ばしてくれます。朝日を浴びた樟は、まだ薄く柔らかい若葉が光を通し白く輝き、太い幹の影と相まって神々しい光景を作り出します。千年以上、変わらずそこにある時空を超越した世界がそこには広がっていました。この凛とした場に身を置き、朝日を浴び、胸いっぱいに朝一番の新鮮な空気を吸う。この朝の境内という特別な時間に美しさを見出す人が増えてきています。

 

美は見出すもの

 

会期最終日に行われる「くすのかきあげ」は、三週間かけて集めた樟の落ち葉を使って、千年樟がかつて存在した場所に落葉風景をつくることで、その姿を一年に一度、その日の朝に想像してみようというもの。見えないものを想像するのは簡単なことではないのですが、それは見えない神様を想うように、見えないものを大切にする心と向き合う機会でもあります。日本人はこれまで、自然と人との調和の中に“神様”であり“美”を見出してきました。そう、神様と同様に美しさとは見出すものなのです。これは美しいもの、これは価値あるものといった形で、何かと解答しか提示されない現代社会ではありますが、本来は美しいモノやコトがあるのではなく、それをきっかけにして自分の中にある美しく感じる心、眼差しに出会うのです。いうなれば自分の中からしか“美”は見出すことはできないのです。

神様を想うこと、見えない樟を想像すること、その背景には、美しさを見出すという日本文化の本質があるのだと思います。

来年、〈くすかき〉は節目となる十年目を迎えます。若葉が芽吹き、虫たちが動きはじめる生命輝く樟の杜で、“見えないものを大切にする心”を、また次なる一年へとつなぎます。春の朝の境内で自分の中にある美に出会いに是非いらしてみてください。

 

 

〈くすかき〉

 

新芽に押されて落ちてくる

新芽の数だけ落ちてくる

 

千年樟のその場所で

千年分を掻いてみる

 

千年樟のその場所で

千年樟を描いてみる

 

去年が今年に生え変わる

その瞬間に落ちてくる

 

新芽に押されて朝がくる

新芽の数だけ朝がくる

 

五十嵐靖晃

 

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第九回「くすかき-太宰府天満宮-」

[会期]平成三十年 三月三十一日[土]〜四月二十一日[土]

[会場]太宰府天満宮 境内

[行事]くすかき成功祈願祭・松葉ほうきつくり:会期初日 三月三十一日 開催

日々のくすかき:期間中 早朝六時半より 土日のみ夕方四時からも 開催

くすのこうたき:期間中 毎週土日 開催

くすのかきあげ・くすかき奉告祭:会期最終日 四月二十一日 開催

[参加人数]八百二十八 名

[奉加帳賛同者]百十一 名

 

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くすのかきあげ各当番長

[掻き出し]五十嵐靖晃

[水当番]陽山英樹 川村知子

[新芽当番長]杉本九龍

[当番長]佐藤信二 米湊咲希 江藤応樹 杉本八海 大里武史

[副当番長]黒野瑞姫 井原功介 高木麻衣 上村隆一郎 米湊五郎

[舟当番]宮原陽菜

[太鼓当番]五十嵐靖晃

 

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早朝5時。まだ暗い中、かつて千年樟があった場所に落ち葉を広げて、落葉風景をつくります。

 

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〈葉っぱを落とす〉新芽になって古い葉を押し出します。子供たちの役割です。

 

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〈根っ子をつくる〉参加者全員で、根っ子の形を描き出します。

 

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まわりの樟をよく観察して、大きなコブをつくっています。

 

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今年の根っ子の形。毎年違うのが面白い。

 

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〈幹をつくる〉当番長と服当番長で、根っ子から幹へと形を変えていきます。

 

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今年の香り。芳樟袋に入った樟の葉と、樟香舟に入った樟脳。これも会期中にみんなで制作しました。

 

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〈香りを届ける〉香りを乗せた舟を舟当番が竿を使って、無事に掻き山の上に乗せることができました。未来に向けて荒波を越えていくかのような姿です。

 

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〈くすかき奉告祭〉御本殿にて、天神さまに今年の香りを無事に届けることができました。