くすかき二日目。暖かい春。

くすかき二日目。今日は朝のくすかき初日。一年ぶりの朝六時半。いったい何人くらいの人が集まるだろうか?不安と期待を胸に境内へ。

 

そこには驚きの光景が広がっていた。大人17名、子供14名、合計31名!すごい!朝六時半にこれだけの人が集まるなんて!

 

大きな樟の木の下で、一年ぶりの再会と、たくさんのはじめましてがあった。

 

「ご無沙汰しております〜」

「元気にしとった?」

「また、くすかき、はじまるね!」

「大きくなったねぇ」

「お父さんより背が高くなったとやないと?」

「あれ?こんど何年生になると?」

「よう、起きれたやんか(笑)」

「今年から参加します!よろしくお願いします!くすかききっかけでタバコも今日からやめることにしました!(笑)」

 

素直に再会が嬉しくもあり、でもちょっと久々で恥ずかしいようなのもあり、もちろんはじめましてもあり、でもこれからはじまる毎日にウキウキワクワクしているような。そんないろんな感情が混ざり合っている場となっていた。

 

それでもどこか初日にしては、まとまりがあって雰囲気はとても良く、無理なく自然な空気感ができていた。

 

気温も暖かいせいか、落葉も多い。

 

誰かが言う。

「ここんところ、かなりあったかい日が続いているからね。ここ数日で樟はいっきに落ちはじめたよ」

 

また誰かが言う。

「今年の春はあったかいから、序盤が落葉が多くて、後半はほとんど落ちない感じの年になりそうやね。何年か前もそんな年があったもんね」

 

たくさんの人とたくさんの落葉。平成三十年くすかき上々のスタートです!

 

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朝六時半の静かな境内で賑わっています。

 

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人出が多いのを判断して絵馬堂前の広場もくすかき。さすが経験豊富な方たちは視野が広い。

 

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やっぱりこの樟の木が人気があるようです。毎年自然と人が寄る樟です。

 

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くすかきが終わったら野球の試合に行きます。

 

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初日の掻き山(かきやま:樟の葉を掻いてつくった山)はまだ小さい。

 

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篩にかけて、葉っぱとそれ以外のもの(枝など)を分別しています。

 

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初日の掻き山。三週間後の最終日頃には、かなり大きく成長して小学生の身長くらいになります。

 

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くすかき参加カード。松葉ほうきのデザインに参加した日付ごとに葉っぱ型ハンコが押されていきます。最終日には恒例の表彰式もあります。

 

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リヤカーに樟葉を積んで鬼すべ堂へ移動します。10時〜15時でくすここうたき(水蒸気蒸留)をして、樟葉から樟脳を収穫します。

 

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樟葉を細かく粉砕します。

 

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水蒸気を発生させるために窯に火を入れます。

 

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水位を管理する2人。真剣な眼差しが頼りになります。奥の銀筒の中に砕いた樟葉が入っており、下から水蒸気で蒸しあげられ、融解した樟脳成分と水蒸気が手前のタンクに移動し、冷やされ水蒸気は水に、樟脳成分は結晶になります。

 

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中学生になると薪割りも上手いものです。安心して見ていられます。

 

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夕方16時〜のくすかき。柵の中はしっかりくすかきできる人が担当します。

 

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白く見えるのが新芽です。例年より芽吹きが早い。

 

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暖かいので夕方のくすかきが終わったあとに、もうこんなに落ちてきました。


くすかき初日。9年目の春。

くすかき初日。今日は天気も良く暖かく、穏やかで春らしい1日だった。13:00御本殿にて、くすかき成功祈願祭。その後、山かげ亭に移動し、松葉ほうきつくり。完成後、お宮にもどり自作した松葉ほうきを持ってお祓いしてもらい、最後に柵設置を行い、無事に初日を終えた。

 

太宰府で迎える9年目の春。太宰府天満宮の樹齢千年を超える樟の杜では、春になると去年の若葉が今年の落葉となって新芽に押されて落ちてくる。そこには松葉ほうきでその葉を掻くという千年変わらない所作がある。千年生きる樟の木の下で、千年変わらない所作を通じて、新たな一年を重ねてみる。

 

そして、いよいよ明日から毎朝6:30に朝のくすかきがはじまる。日本で一番早起きなアートプロジェクト。一年で一番健康的で心と体を整える3週間。1年ぶりの再会と、はじめましての出会いを通じて、私とあなたのこれまでの一年とこれからの一年を想像する。

 

樟の落ち方は毎年違う。集まる人も毎年少しずつ変わっていく。その年には、その年ならではのくすかきがある。9年目となると、節目となる10年目も見えてきた。そして、平成最後のくすかきでもある。

 

今年はどんなくすかきになるのか楽しみである。

 

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満開の桜の木の下で、お宮にもたくさんの松葉ほうきを納品されている職人の原口さんを招いて松葉ほうきつくりを行いました。

 

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桜は例年に比べると一週間くらい遅いようです。

 

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自分でつくった松葉ほうきを持って記念写真。

 

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くすかき成功祈願祭では祝詞を上げてくださり、制作した松葉ほうきをお祓いしてくださった神職の馬場さん。実は浅葱色の袴は今日までで、明日から紫色の袴に昇格されます。おめでとうございます!春は入学、進学、就職などなど成長を感じる季節です。

 

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柵設置作業中。集合場所の目印となる立て看板を取り付けています。

 

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無事に柵設置完了。いよいよ明日6:30にここに集合して、今年の朝のくすかきがはじまります。何人くらい集まるかな?


彼らは場を起動させる/Centro Cultural de Bellas Artes展示設営8日目 

Centro Cultural de Bellas Artes展示設営8日目。今日は会期前の美術館の展覧会場で、交流先の障害者支援施設Cerrito Azulのみんなと一緒にアクティビティを行う2度目の日。なぜ会期前かというと、自閉症の人は新しい場所が苦手なため事前に会場に慣れてもらい、会期がはじまってから一般の人と多く交流する機会をできる限り彼らに無理のない形で設けたいと考えたからだ。

 

これは、これまで日本、ブラジル、ペルーの自閉症を中心とした施設と交流を重ねてきた自分の体験から言えることなのだが、他者やモノとの向き合い方や考え方といったこれまでの自分の常識をひっくり返すようなTURN的体験をするには、施設のみんなと協働し共に過ごすことが一番なのだ。これまでの自分のやり方で理解できない、コミュニケーションできないアウェイで不安で不自由な状況を受け入れ、一度柔軟になってみて、ぐちゃぐちゃでバラバラになった自分自身を見つめ直すようなところにTURNの面白さがある。

 

TURNしたいのなら、彼らの中に飛び込んでもらいたい。

 

ということで、今日、Cerrito Azulのみんなに美術館に来てもらったのだが、あることに気がついた。

 

彼らは場を起動させるのだ。

 

展示設営で連日通っている場所なので、それをより感じることができた。彼らが入ってくると、空気感が変わる。エネルギーがあるというか存在感があるというか、モノや空間と響きあっているのを感じるのだ。

 

その秘密の一つはおそらく〈ふるまい〉にある。我々は美術館という場所でのふるまいを社会常識から刷り込まれている。その結果、どこか窮屈な心身状態で過ごすことになる。それがない彼らは、その場やモノに純粋に向き合うことになる。そうすると、そこにあるモノや空間や場が、活き活きとしてくる。まるで光を与えられたようにその場が輝いて見える。

 

これは、おそらく対人についても言えることなのだろう。彼らは純粋に自分と向き合ってくれる。

 

その結果として、彼らといる自分はこんなにも清々しい気分で、活気に満ちている。まるで光を与えられたように。

 

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アレッサンドロが、昨日2㎝ピッチで並べた白糸をがっしりと束ねた。確かに触りたくなるよね(笑)。でもこれが大事なことだと気付かされた。

 

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糸と糸の間に細長く座って、みんなで1つの糸巻きをしてみる。

 

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プシュカに糸を巻いてもらう。みんな結構この所作は好きみたいです。

 

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ケビンは終始満面の笑顔でした。

 

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レナトが巻いたプシュカ。レナトは一定のペースで均等に巻きます。

 

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ケビンが巻いたプシュカ。ケビンは一番楽しそうでした。

 

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マルセロが巻いたプシュカ。マルセロはきっちりと力を入れてきつめに巻きます。

 

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エルネストが巻いたプシュカ。エルネストはやさしくふんわり巻きます。

 

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ホルヘが巻いたプシュカ。ホルヘは手を添えて巻くので真ん中が膨らみます。

 

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アントンが巻いたプシュカ。アントンはゆっくり少しずつ巻きます。

 

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帰りのバスを待つエルネストの太もも。仕事の証です(笑)

 

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美術館の前でバスを待つCerrito Azulのみんな。

 

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バス登場!このバスかっこいい!乗りたい!

 

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みんな乗り込んで1時間離れたホームへと帰っていった。

 

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みんなが帰った後には、巻いてくれたプシュカが残った。1つ1つのプシュカが、それぞれの形をしていて魅力的です。


糸玉440個設置完了/Centro Cultural de Bellas Artes展示設営7日目

Centro Cultural de Bellas Artes展示設営7日目。今日は藍染された440個の糸玉を吊り上げる作業を行った。TURNを通じて2015年から交流を続ける東京の町田にあるクラフト工房La Manoのみんなに藍染してもらった糸を日本から持参し、ペルーの交流先であるCerrito Azulのみんなに巻いてもらって440個の糸玉が出来上がった。

 

La Manoで藍染された糸のグラデーションに出会った2015年、その色幅が、この世界にはいろいろな人がいて良いという、人の幅のように感じた。

 

昨年、TURN in BRAZILでの交流先PIPAのケントくんがこの糸を巻くと、立体のダイヤ型になった。La Manoの宇佐美くんが巻いたものと同じ形だった。地球の反対側で同じ形の糸玉に出会った。

 

今回、TURN in LIMAでの交流先Cerrito Azulのマルセロくんがこの糸を巻くと、卵型になった。アンデス文明のとある村の遺跡から発掘される糸玉は全て卵型なのだそうだ。時空を超えて同じ形の糸玉が生まれた。

 

糸玉を巻くと、多くの人は丸い形になる。でも、よく見ると一つ一つ糸玉の形は違う。まんまるだったり、ヤシの実みたいだったり、いろんな形がある。きつく巻くと硬くなる。ゆるく巻くとやわらかくなる。巻いた人の違いが糸玉の形となって現れる。

 

今日、440人分の藍染めした糸玉が吊り上がり、設営全体の半分が設置完了。

 

残り半分はコチニール染めした糸を巻きつけた440個のプシュカの設置である。

 

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ボランティアスタッフとしてサポートしてくれている美大学生たち。ペルーの人は、人懐っこいのか、糸巻きがこういう雰囲気をつくるのか、人と人の距離感が近い。

 

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美術館の設営担当セサルから糸玉の固定方法をレクチャー。みんな真剣です。

 

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糸玉の固定を一旦解除して、いよいよワイヤーを8m上へと吊り上げます。

 

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隣同士の糸が絡まないように糸玉をさばきながら、ワイヤーを引き上げていきます。

 

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藍染めした糸玉の設置完了。残り半分はコチニール染めしプシュカに巻いた糸440個。


Cerrito Azulのみんなに美術館にきてもらう/Centro Cultural de Bellas Artes展示設営6日目 

Centro Cultural de Bellas Artes展示設営6日目。今日はCerrito Azulのみんなに美術館に来てもらい、糸紡ぎと糸巻きのアクティビティを行った。設営中という展覧会の会期前に来てもらったのは、場所に慣れてもらいたかったからである。

 

自閉症の人は新しい場所に行くことが得意ではない。しかし、彼らとアクティビティを共にすることが最もTURNの気づきに近づく方法である。なので展覧会が始まったら、何度かCerrito Azulのみんなに美術館に足を運んでもらい、来場者と一緒にアクティビティをする機会をつくってもらいたいと考えており、少しでも場所に慣れてもらいたかったのだ。

 

結果としては、いろいろあった。もちろん初めての場所だったからみんな少し最初は落ち着かない様子だった。それでも糸紡ぎや糸巻きといった、これまでCerrito Azulでやってきたアクティビティがはじまると、少し空気感が変わり、いつもの落ち着いた雰囲気となった。

 

しかし、いつも落ち着いているマルセロが大きな声を出すという瞬間があった。今日はマルセロのご両親も一緒だったから嬉しかったのか、美術館という新しい場所がそうさせたのか、本当の気持ちはマルセロ本人にしか分からない。

 

そして、これはなんだか不思議なことだが、仮設置しているプシュカや糸玉から垂直に伸びる無数の糸が、なんだか嬉しそうに見えた。まるで、彼らの存在を感じて振動しているかのようだった。糸はそういった微細な変化を拾う特徴を持った素材なのかもしれない。

 

こうして、別の場所でみんなと会うのは初めてだった。何より再会できたことが素直に嬉しかった。

 

 

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Cerrito Azulのみんなが美術館に登場。最近は設営のため会っていなかったので久々の再会を共に喜んだ。

 

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まず最初は設営中の展示を見てもらった。みんなで巻いたたくさんの糸玉。見慣れているはずだが、緊張しているのだろうか、みんな数人で固まって行動していた。

 

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アルパカの原毛を糸紡ぎするアクティビティ。

 

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天井が高い空間が面白かったのか、ガブリエルは小さくちぎったアルパカの原毛を「ふぅ〜」っと吹いて空に浮かべて遊んでいた。場所の力が、ガブリエルの遊び心を良い感じにくすぐったのか。これは初めて見たが、見ていて気持ちの良いものだった。

 

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レナトはいつも通りに時々アルパカの毛の匂いを嗅ぎ、頬にあてていた。マルセロは今日も上手に糸を紡いだ。

 

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アルパカという素材に触れ、少しずつ雰囲気が落ち着いていった。

 

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最後はみんなで糸巻き。もちろんこれにはみんな慣れている。

 

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綛糸から、みんなの手を介してぐるりとまわって糸玉へ。

 

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手の中を糸が動いていく。

 

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美術館で輪になってのアクティビティ。

 

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最後はみんなで集合写真。

 

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美術館とCerrito Azulのみんな。


プシュカに糸を巻きながら考えたこと/Centro Cultural de Bellas Artes展示設営5日目

Centro Cultural de Bellas Artes展示設営5日目。今日からプシュカの仮設置がはじまった。

 

設営現場の通訳兼アシスタントとして入ってもらっているアンデス染織専門家の有紀さんから興味深い話を聞いた。

 

アンデス染織と一言でいっても、その時代には幅がある。長い時間軸でアンデス染織を発掘し研究してきた有紀さんの目からすると、約500年前のインカ時代の織物は大量生産されたこともあり、均一でツルッとしていて、今でいうユニクロのような感じなのだそうだ。逆に約2000年前のパラカス時代の織物は動物っぽいというか、蛇がうねって波打つような野生性があり、より生命力を感じるとのことだった。

 

その後、インカ帝国がスペインに滅ぼされた1533年以降の織物は更に生命力を失っていく。当時スペイン人は、ありとあらゆるインカの伝承者を殺していった。例えば、文字を持たない社会で文字の代わりにキープと呼ばれる結び縄による、人口や農産物の統計や、歴史といった言語情報を専門に作製解読する仕事をしていたキープカマヨック(キープ保持者)というような、歴史であり文化の伝承者を皆殺しにした。

 

織物の世界でいうと、色の意味や模様や図柄に織り込まれた複雑なイメージを伝承する役割にあった人、キープと同じように作製と解読を専門にしていた、いわゆる織物におけるリーダーを司っていた人が全て殺された。

 

リーダーは殺されたが、織りの技術を持った人は、その後、スペイン人によって支配され、スペインの指示による織物(十字架や双頭の鷲など)を意味も分からず織らされた。人の体で例えるならば、首を切り落として、頭だけスペインを乗せた状態で、インカの手で織物を織ったようなものである。この時期に織られた織物の図像は十字架の端が大きく歪んでいたり、蝶の触覚が3本だったり、異常なものばかり。図柄の意味も分からないまま奴隷のように織らされたからである。

 

組織のトップを殺すのは支配するのに最も効率的かもしれないが、文化というものは淘汰されながらも積層していった時代の表現であり、出し手と受け手の相互作用によって成長し花開くものである。伝承者がいなくなるということは、技術が表現として機能しなくなることを意味する。まさに文化に血が通わなくなった瞬間である。以後、ペルーの織物が力を失い何の意味も持たなくなったのだ。

 

少し話はズレるが、ペルーの人にスペインは好きか?嫌いか?と聞くと、嫌いな人が多いそうだが、もちろん当時のスペイン人の行いであることは理解しているし、今のスペインに恨みはない。もっと言えば、その後、混血となり自分の中にスペインの血が流れているので、スペインを嫌うことは自己否定にもつながってしまうという複雑な心理があるのだそうだ。

 

そして、歴史上では、1821年にペルーはスペインから独立したことになってはいるが、文化的な意味では、未だ伝承は途切れたまま、本当の意味での独立はまだしていないように思える。

 

また、ペルーにおけるスペインは、日本におけるアメリカのようなもので、ペルーにいると日本もまた文化的な意味での独立はしていないのだと思う。ペルー同様、無意識で刷り込まれている欧米や白人への憧れ、美術であり文化の中心が欧米以外に存在しないかのような考え方といったものもそうだろう。

 

植民地化という欧米のスタイルは、結局、支配者と奴隷の関係の方法論である。その土地の自然環境や伝承といったつながりを断たれ、意味も分からず織物を織っているようなものでもある。形は変われども、日本の地方に◯◯銀座やリトル東京のような町がたくさんあるように、欧米のスタイルでリマや東京のような都市が世界中にある。見えないようしてはいるが、その背景には少数の支配者と多数の奴隷の関係がある。ここ10年の動きだが、日本の地方が東京や銀座に憧れ、真似をするのではなく各地の違いを魅力としはじめたように、リマや東京も、文化的な意味での欧米からの独立を考えるべきである。ペルーの織物に生命力を再び宿す未来の方が魅力的である。と同時に日本のことも考えてしまう、、、。

 

話をもどそう。そういえば、“物”が力を失うという話で思い出したことがある。以前、ある博物館で様々な時代の仏像が並べて展示してあったのだが、彫られた仏像のつくりや迫力や存在感に明らかに時代ごとの差があったのだ。なぜかと聞くと、その理由は信仰心にあった。考えてみれば当然である。仏像の存在が生きていく上で、もしくは死にゆく上で、なくてはならないものであった時代は、ものすごいクオリティの仏像がつくられる。逆に信仰心が弱まるにつれ仏像のつくりは甘くなっていく。その時代を生きる作り手の信仰心であり、人々の信じる心が“物”の質を上げ、力を与えるのだ。

 

どの時代の芸術家、アーティストも、常にその時代の人々が信じるもの、見たいものを可視化、もしくは表現してきた。それは、時に見たくないけれど目を背けてはいけない問いでもある。当然、それはアーティスト本人が見たいものでもあった。

 

では、現代社会はどうだろうか?現代に生きる我々は何を信じ、何が見たいのだろうか?大量のお金か?物に溢れた暮らしか?それでは信じる物の一つ一つの背景があまりに薄すぎる。

 

ゆえに現代は、物は溢れているが、物の力がない時代と言える。数千年という永い時間軸で物の持つ力を比べた場合、今の時代に生み出されるものは見応えのないもの、もしくは残らないものだろう。

 

しかし、生まれる時代は選べない。今の時代のアーティストは、自分は、いったい何を信じ、見たいのだろう?

 

世界中でテロが起こり、海を越えた隣国からはミサイルが発射されている時代。自分が最も信じたいものは、、、人である。人の人間らしさを信じたい。

 

では、人間らしさとは何だろうか?それはTURNプロジェクトを通じて、障害など現代社会で弱き立場にあるある人たちとの交流から学んだ。人間らしさとは“弱さ”である。強くなること、支配することを良しとする時代だが、そもそも、ヒトのはじまりは森を追い出された弱いサルである。ヒトのアイデンティティは弱さにあるのだ。弱きサルが歩き知恵をつけ、海岸、島、平地、ジャングル、山、などなど各地の多種多様な自然環境と向き合い、多種多様な文化を育ててきた。その、人と自然環境との様々な関わり方こそ、アートであり、文化であり、自分が見たいものである。その関係性は時に土地の神と呼ばれる。ペルーでは都市や町の中央にカトリック教会が人々を見下ろすようにあり、地方では大地や山の神々がしゃがんでついた手のひらの先にあった。アルパカを追う土地でのパチャママ(大地の神)の存在は、人と自然環境との関係性そのものであった。

 

自分が、今の時代に信じたいものは人間らしさであり、可視化したいものはそれぞれの土地の神さまである。それは人とその土地ならではの関係性のことである。

 

もう一度、人らしさを取り戻すために、強さをぶつけ合う現代人に最も必要なものは自身のアイデンティティである“弱さ”の解放である。

 

弱きもの、小さきもの、目に見えないもの、そういった、ささやかで微細な変化に目を向けることで、自分の中にある弱さというアイデンティティに気づきはじめることができる。

 

美術館でプシュカに糸を巻きながら、ずっと考えていた。

 

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プシュカに糸を巻いていると、いろんなことを考える。

 

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連日、手伝いに来てくれるタチアナはペルー国立美術学校付属予備校の生徒。ちなみに予備校は美術館の2階にあることが分かった。

 

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糸を巻いたプシュカを設置していきます。

 

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糸が外れないように固定します。


糸玉と向き合う時間/Centro Cultural de Bellas Artes展示設営3日目 

Centro Cultural de Bellas Artes展示設営3日目。今日から糸玉の設置をはじめた。Cerrito Azulのみんながつくった糸玉は、同じようで一つ一つ微妙に形や硬さが違う。一つ一つの糸玉と向き合う時間は、一人一人と向き合う時間のようである。

 

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ミサと糸玉。ミサは覚えたことを初めてやる人に伝えるのが上手い。気配り上手。

 

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タチアナと糸玉。タチアナは自分で編み物もするくらいで糸に慣れていて仕事もきれい。

 

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セサルと糸玉。セサルは集中して黙々と仕事を進める。けれど、美術館の人気者なのでよく人に話しかけられる。

 

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みんなで並んで糸玉と向き合っている姿は、巨大な楽器の調律か演奏をしているように見え、そこに音はないのに音を感じる風景だった。


ペルーの美術館で糸巻きしてみる/Centro Cultural de Bellas Artes展示設営2日目

Centro Cultural de Bellas Artes展示設営2日目。今日から本格的に展示設営がはじまった。美術館の設営担当のセサルがアシスタントとして動いてくれ、他にも、ペルー国立高等美術学校/BELLAS ARTESの学生たち6名ほども手伝いに来てくれた。中には糸に触れるのは初めてという男子学生もおり、アンデスをはじめとする染織文化のイメージが強いペルーといえども、現代っ子はあまり糸に触れる機会がないようである。それでも、糸巻きしたり糸紡ぎしていると、美術館を出入りする関係者が、私のおばあちゃんも糸紡ぎしてた!とか、小さい頃に糸紡ぎや糸巻きはよく見たよー!といった声が聞こえてくる。そして、みんな穏やかに楽しそうに作業をしている。これもやはり糸の成し得る雰囲気づくりなのだろう。

 

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コチニールで染めたアルパカの糸と羊の糸とプシュカ。

 

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美術館で糸巻きしてみる。ペルー国立高等美術学校/BELLAS ARTESの学生たち。

 

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柱を使って、糸の長さを揃えています。

 

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アシスタントのセサルと糸巻きをするサンドラ。糸がつくる穏やかな空気。

 

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藍染めし玉にした青系の糸と、コチニール染めしプシュカに巻いた赤系の糸。


素材梱包

今日は展示に使用する素材を美術館に運ぶための梱包を行った。主に梱包作業をしたものは糸玉。TURNを通じて2015年から交流を続けている東京の町田にあるクラフト工房La Manoに藍染めしてもらった糸を、ペルーのリマにあるCerrito Azulのみんなに糸玉にしてもらった。その数、約500個。

 

手から手へ。

 

紡がれた糸は、染められ、糸玉になり、これから出会う人に何かを伝えるために美術館へと向かう。

 

旅する糸の物語。

 

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ホームステイ先のチエロおばあちゃんがカゴに白い糸玉を入れて「Huevo!!!」とにっこり。Huevoはスペイン語で、たまごです(笑)

 

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梱包作業を手伝ってくれているのは、この家のお手伝いさんのマリエステル。後ろでは野菜を届けにきたマウリが休憩中。