台風時のみ出会う風景

今朝5時の三宅島到着の船で、サポートスタッフの塩野谷くんがやってきた。前日の三宅島入りを予定していたが、台風の影響で欠航し、一晩待機し、今朝となった。そして、今夜出発し明日到着予定の船は、次なる台風の接近で欠航が決まっている。塩野谷くんは台風と台風の間に唯一出港した船に乗り、ピンポイントで島に到着したのである。

 

“条件付き”という出港で、波が高ければ着岸できない恐れもあったが、到着時刻は予定通りの5時であった。着いた港は伊ヶ谷港。まだ暗い雨の中、車で迎えにいった。港に近づくと何台かのお迎えの車や、コンテナを引いたトラック、住民を乗せた村営バスとすれ違った。少し遅くなってしまったな。と若干心配しながら港に到着すると、船も迎えの車もいなくなった、高波が押し寄せ、波しぶきがあがる暗い港に、1人で立っている塩野谷くんを発見!見るからに取り残された姿である。お迎えのお母さんが来ない幼稚園児のようだ。悪気はないが、寂しすぎる姿に何故かニヤけてしまう。車を寄せ、すぐに乗り込んでもらった。思わず出た言葉は「よく来たなぁ」であった。ほんとうに、よく来たと思う。波はひどくなかったか?とか、眠れたか?とか、気になっていろいろ聞いてみたが、本人は「いやぐっすり。眠れました」「三宅島着きましたね〜」「久々の島、いいっすねぇ」と、まったく問題なかったようである。島で待つ人の気持ってこんな感じなのかもしれない。

 

滞在先となる三宅島大学本校舎に戻り、互いの近況を報告。動き出したいが台風の影響でどうにもならない。仮眠をとり、午前中は事務作業。午後、塩野谷くんにここまでの経緯を伝えに“そらあみ”のある阿古漁港中桟橋へ。あれ?!なんだかいつもと違う。船の位置が違うのである。ふと目をやると、大洋丸の船長であり、“そらあみ”づくり体験講座の教授でもあるマサルさんがロープを引っ張っている姿があった。

 

五十嵐:「台風対策ですか?」

マサルさん:「おう。船が波にやられて岸壁に押し付けられないようにな」

五十嵐:「台風どうですかね?」

マサルさん:「今から悪くなる。今夜から、明日の早朝までが山だな」

五十嵐:「じゃあ明日の夜の東京発の船は出ますかね?」

マサルさん:「どうかな。うねりが残ってたら無理だな」

 

普段は岸に寄せて係留してある船が、台風仕様の場合、適度な距離を保って、どこから力が加わってもロープが効いて、岸壁とも他の船ともぶつからないようにみごとに固定してあった。午前中に漁師全員で作業したそうだ。

 

中桟橋を挟んで反対側は縦横無尽に張り巡らされたロープが海面に浮かび、見たことのない光景が広がっていた。かなりの衝撃を受けた。こんなことが台風の日の港で起こっているなんて!知らなかった。

 

そして、雨がみるみるうちに強く降り始めた。編むこともできないので、塩野谷くんを車に乗せて、島内を案内して一周した。海に囲まれた三宅島だが、高台に登っても雲の影響で海が見えないほどの天気であった。

 

夕方、“そらあみ”を吊るしているワイヤーと電線が台風の強風で擦れないようにと、指導を受けた。高所のため自分たちで作業できないので、急遽、設置作業をしてくれた北川電気のキタガワさんに連絡。忙しく、台風も来ているのに、すぐに対応してくださり、若い社員の方が作業しに来てくれ、問題解決。とても助かりました。若い社員の方にお礼をし、キタガワさんにも電話で感謝の意を伝えた。自分と塩野谷くんは傘を差して作業を見守っていただけなのに、パンツの中までびしょ濡れになったほどの雨であった。

 

この後、台風はマサルさんの言った通り、夜から朝にかけて通過したようで、尋常じゃない風が吹き続け、三宅島大学本校舎の食堂にある大きな窓ガラスが風で押され、一瞬膨れたのが分かったので、急いで雨戸を閉めた。木と建物を揺らす音が一晩中響いたのだった。

係留ロープの張り具合を調整するマサルさん

船の四方からロープを効かせている

そらあみもお休みです

海面を張り巡らされたロープ

この白い灯台も波しぶきで見えなくなるそうです