浅草では“語り”が必要

浅草神社での制作期間は11月11日まで。残す所、今日を含めて、あと3日。最終日の11日は長く編んだ網を三編み紋の格好に設営する日に設定しているので、網を編むのは今日と明日のみである。今日を終えた時点で、目標の20mまで残り4m。一緒に編んでくれる仲間も増え、三宅島から網専門漁師のクニさんも参戦し、現場はラストに向けて勢いが出てきた。この感じなら明日1日で4m編んで、20mの目標を達成できそうである。

 

クニさんはゴザに座って網を編む。三宅島の漁港の時と同じスタイルだ。そして、ものすごいスピードで編んでいく。普通に編めるようになった人の4倍くらいのスピードで編んでいく。なので、すぐに編み針に巻いた編み紐がなくなってしまう。編み針に紐が無くなると、クニさんは空になった編み針を持って、ゴザに2度「コン、コン」と当て、音を鳴らす。それに気がついた誰かが、まるで弟子のように、クニさんの編み針に編み紐仕込んで持っていく。それでも間に合わないので、いつしか、クニさんのゴザの上に編み紐が巻かれた編み針をたくさんストックしておくというのが現場の共通ルールとなった。

 

クニさんが現場に入ってくれたおかげで、浅草神社の境内は今日も漁村のような風景となった。1400年前の網の物語を持った土地で、1400年前と変わらない“編む”という身体行為を行うことで、その様子は浅草の原風景と重なり、1400年という時間をつないでいる。そして新たに1401年目の新しい浅草の網の物語がはじまっている。

 

「これ、何をしているんですか?」「浅草神社の社紋の三編み紋をつくっているんです」これが現場で定着した最もシンプルな質問と返答のやりとりである。

 

黙ってひたすら網を編み続けるクニさんも、ここ浅草では“説明”を求められる。クニさんは質問があると、本殿の幕に大きく描かれた三編み紋を指差して「あれを作ってるんだよ」と一言だけ説明する。実にクニさんらしい説明のしかたである。

 

説明のしかたには個人差がある。参加日数が多ければ参加者は自分の言葉でそらあみを語るようになる。その違いや変化はおもしろい。そして、地元浅草の人も、人力車の人も、猿まわしの人も、観光ガイドの人も、自分の言葉でそらあみを語るようになった。新名所として皆さんに語られている状況は非常にありがたい。

 

開期のはじめから参加している人も、今日初めて参加した人も、編んでいる人は皆、参道を通る人にとっては同じ編み手にしか見えない。なので、誰が聞かれるか分からないのだが、そこにはどうやら聞きやすさの段階のようなものがあるらしく、集中して編んでいる人よりも、当然、すきがある人の方が話かけられやすい。そして何が起こるかというと、毎日毎日説明し続けてきた開期スタートからの参加者は説明することに飽きてきて、やがて編むことに集中するようになる。そうすると、自然とまだ編む技術が未熟な参加者に質問が殺到する。でも説明も不慣れだから、「あの人が作家さんで、、、網をみんなで編んで、、、」といった風に、おぼつかない説明となる。ところが、他の人が観光客に受け答えしているのを編みながら聞くことで、皆徐々に質問への対応が上手になっていくのである。皆、自分にとっての“そらあみ”を語るようになる。

 

そして、皆自分で語れるようになると、誰が説明するのか、無言のやりとりが行われ、休憩時間や終了後に、こんな会話が生まれる

 

「あの時、観光客に質問されたのに3秒くらい沈黙があって、あれ以上黙ってられなかったから説明しましたよ〜。あの時、僕に無言で説明役を振ったでしょ〜(笑)。しょうがないから説明しましたよ(笑)。だって聞こえてるのに、みんな黙って編んでるんですもん(笑)」

 

ひたすらに編みたい人。説明したい人。いろんなタイプの人が現場で、その人らしく存在し、その関係性が無理のない役割分担となり現場が成立している。自分が理想とする現場のあり方である。

 

夕方、しばらく、皆、それぞれに集中して網を編む時間が流れた。沈黙を破って

 

五十嵐「クニさん。潮風がないから淋しくないですか?」

クニさん「淋しいよ!」

 

現場は笑いに包まれる。非常に良い雰囲気である。楽しそうな現場には当然、人が興味をもってやってくるようになる。プロジェクトが良い回転をしているのが分かる。

 

夜の三宅島大学特別講座「そらあみ報告会」では、クニさんも一緒に話をしてくれ、無口だと思っていたが、以外と語ることができるという新発見があった(笑)。そして、そらあみのこれまでとこれからを整理するとても良い機会であった。舞鶴→釜石→三宅島→浅草と、今回でそらあみは4回目。現場を重ね成長していっているプロジェクトであることを改めて確認した。浅草の現場でも間違いなく新しいそらあみのあり方を毎日の出来事の中から発見している。

 

明日は8時集合で、最後まで編み終えることを目標とする。

残すところ、あと4m

ひたすらに編む人と、感心して眺める人。小学生に編み方を説明する人。

こうして編み針をセットして、ストックしておくのです。それは若手の仕事です。

今日までに、いったい何回、紐は結ばれたのだろう?