沙弥島滞在48日目。明日の完成式と内覧会に向けて、今日が作品の最終調整日。朝8時から沙弥島海水浴場(西の浜)で、午前中いっぱいかけて、細かい調整作業を行い、どうにか明日の準備は整った。
今日も沙弥島の漁師さん達との協同作業。完成が近づき、明らかに漁師さん達のテンションが上がってきているのを感じた。
夏、この浜は海水浴場となる。その時、海の家で使用する、良い雰囲気の木でできた長ベンチがあったので、そらあみを眺めるのに良さそうなポイントに置いて、休憩がてら皆でそこに座ってみた。自ずと会話は盛り上がる。
「おお、この風景はええの。そらあみがあって海と空が見えるでな」
「この網に入った夕日は、どないな感じに見えるやろな。網と重なっておもろいやろな。見てみたいもんやな」
「しかし、このベンチはええ。五十嵐さん、ここに置くのは正解や。デートスポットやな」
「このベンチは、うちらがずいぶん前にこしらえたんやで。そんなら、ここにずぅ〜と長く(60m)ベンチをこしらえるのもええの(笑)」
「しかし、今までは目のそろった網がええと思ってたんやけど、目が違うのもええもんやな。(目の大きさの違いで絶妙な曲線を描いた網のラインを指差しながら)こうたっぷっりと腹が出たような形も魅力的やの」
「自分も藝術大学に行こうかな(笑)」
などなど、
これら、出てきた言葉は、自分たちが作ってきたものを、そして自分たちが大事にしてきた風景を、これから大勢の人に見られるという意識から生まれる発想である。それは、出会った時の編みはじめの頃から比べて、ものをつくるということ、それを誰かに見てもらえるという、表現の根本として、誰しもの中にある気持の部分における、大きな意識の変化があったことを示していた。
明日はそんな同じ体験をしてくれたであろう、他の4つの島の漁師さん達も集まって、そらあみを完成させる。5つの島の同じように網を編んだ人がそろって、何が、どんな化学反応が起きるのか、非常に楽しみである。どんな発見があるのだろう。楽しみであり、すこし怖くもある。
午後は、坂出市長の粋なはからいで、瀬戸大橋の橋脚の一番高い所まで連れて行ってもらった。その高さは175m。なかなかできない体験である。ヘルメットをかぶって、軍手をして最上ポイントまで辿りついた先にあったのは、眼下に広がる多島海の絶景であった。
西に向かって視線を遠くに移すにつれ、島々の影はグラデーションで薄くなりながら遥か遠くまで広がっており、そんな島々を縫うように流れる海は、神々しく光り輝いていた。この海を行ったら、いったいどんな世界に辿り着くのだろう?そう思わされるほどに、穏やかで美しい他の海にない景観がそこにはあった。
そして、南北に目を動かすと、一緒に網を編んだ5つの島が一望することができた。真下の橋は南北に延び、5つの島をつないでいた。
上から橋を眺めていると、最近よく眺めていたものに似ているものを発見した。それは吊り橋である瀬戸大橋を吊っている、とんでもなく太いワイヤーケーブルである。それが何に似ているかと言うと、そらあみを吊っているロープに、その描き出すラインが、とても良く似ているのである。
瀬戸大橋のワイヤーケーブルは、橋脚と橋脚をつなぐように垂れている。というか引っ張っている。そらあみのロープは支柱から支柱をつなぐように引っ張られ、というか垂れている。この重いものを吊った細長い形状のモノが、ある緊張感をもって垂れている様子がとてもよく似ているのだ。まあ、そんな風に見えるのは、ここ数日の最終調整でロープのたるみを気にし続けていた自分くらいなのだろうが、、、(笑)。
想いのこもったそらあみを吊るロープも、重い橋を支えるワイヤーケーブルも、空に描き出す緩やかな曲線は非常に良く似ている。そして、その2つの線は、まるで同じように5つの島をつないでいる。瀬戸大橋のワイヤーケーブルは物理的に島から島へ渡っていくように見える。そしてそらあみのロープは各島で編まれた網を精神的につなぐように、島から島へ渡っていくように見える。
瀬戸大橋の一番上に立った時、 仮に自分が小さくなって、そらあみを吊り上げる支柱の上に立ったとしたら、こんな風景に、物理的にも精神的にも見えるのだろうと想像した。今日の瀬戸大橋の最上部分へのツアーは、自分にとっては、そらあみの支柱の上に立つのと同じ風景を眺める体験となった。
明日、13時、西の浜に5つの島の人が集う。瀬戸大橋がつなぐワイヤーケーブルの線。そらあみがつなぐロープの線。明日は2つの線が重なる日となる。
イスに座って想いを語る
ロープの線。この線の下に明日は5つの島の漁師さんが集う
北を向くと、与島、岩黒島、櫃石島が見える。みなさんの顔が浮かぶ。
南を向くと、瀬居島と沙弥島が見える。そこにも会いたい人がいる。
西を向くと、どこか別の世界に連れていかれそうになる。
ワイヤーケーブルの線。この一番上から見える景色は、そらあみの支柱の上から見える景色でもある。