ズレと向き合う

沙弥島滞在46日目。昨日、沙弥島の漁師さん達を約束した朝8時、作品設置場所である沙弥島海水浴場(西の浜)へ。現場に到着すると既に2人の漁師さんの姿があり、一時すると、どこからか1人、また1人と、ぱらぱらと現れ、気がつくと昨日と同じメンバーがそろっていた。

 

「今日は昼から雨や」

 

その言葉をきっかけにするように、作業スタート。今日は、滑車で網を上げた時のロープのたるみが均一になるように調整し、自然な形で網の目が開くように網全体の位置を微調整。そして一番下の網の裾の処理を決めるために、それぞれの島で編んで7つに別れていた網を繋ぎ合わせ、最後に網を吊り上げて全体の見え方の確認を行った。

 

もちろん、昨日の設営作業の終わりで確認したように、北側の棒の前から車の荷台に積まれた網を下ろし、一番南の棒に向かって、ゆっくりと車を移動させながら幅60mに広げていった。こうして網を持って広げてみると、60mはけっこうな距離である。

 

網を上げてみなと分からないのは、ロープのたるみである。その影響を受けて、網の横も縦も長さが変わる。まずはその基準を決めるため、南端の棒の位置にロープを固定し、棒が立っている1スパン毎に、綱引きの要領でロープを引きテンションをかけて、固定しながら位置決めをしていった。

 

すると、思ったよりもロープは伸びて、網の全体が北側に寄っていることが分かった。そこからロープに結ばれた網の目の位置を1目ずつずらしていった。この作業がまた手間のかかる作業だった。なんだか、振り返ると、今日は1日、ズレの修正をしていたような気がするほどであった。途方もない時間に感じたが、皆で協力して、どうにかうまいこと棒の端から端までの間に網がバランス良く修まった。と、同時に隣り同士の網を繋ぎ合わせる作業も完了。

 

「よし!上げてみるか!」

 

滑車を伝って、するすると網は空へと上がっていった。全ての滑車の一番上まで網が上がった所で、全体のたるみが均一かどうか確認。あんなにキンキンにロープを引いて位置決めしたのに、どうしてもたるみに差ができてしまった。難しいものである。そこから上げ下ろしを何度か行いながら、微調整を繰り返すと、なんとか均一のたるみのラインができあがった。これで上の位置は決まり。あとは裾の処理である。

 

だがこの時点でお昼を迎えたので、一度解散し午後から再会することに。昼から雨という話だったが、なぜか雲の間に晴れ間も見えた。なので、やれるところまでやろうということになって、午後に再集合し作業を始めると、ぱらぱらと雨が降り出した。やっぱり漁師さんの天気予報は正確である。漁師さんが「午後から雨」と言ったら、本当に午後になってから雨が降るのである。しかたがないので、今日はこれまで。明日また8時に集まって今日の続きをすることになった。

 

明日は裾の処理と網目の見え方の微調整を行う。でもどうにか、形になってきたので少し安心した。あとは、見せ方の話である。最後の最後までとことん調整を重ねるつもりだったのだが、その気持が伝わったのか、もともと同じ気持だったのか、漁師さんから嬉しい言葉があった。

 

「いろんな人が見に来るやろ、恥ずかしいものは見せれんでな。最後ちゃんとせなな」

 

最後の微調整は本当に細かい作業で大変である。しかし、その小さな差が、やがて大きな違いになるということを今日の作業を通して学んだ。ロープも引っ張れば伸びるし、網の目もだいたいで合わせて行っても決して合わない。ロープをピシッと張って、きちんと網の目を納めていかないと、いつまでも終わらないのである。

 

1㎝のズレも、それを積み重ね、60mとなると、約1mものズレになる。

 

これは、いろんなものごとに言える。小さなズレの積み重ねが大きなズレを生むのである。悪く捉えれば、人の気持の差が生まれるという話のようにも捉えられるが、実はズレにこそ文化が生まれる資質があるのである。でも、文化になるかどうかで重要なのは、そのズレを見つめることであり、擦り合わせることで、そのズレをちゃんと確認することにある。

 

実現したいイメージがあるからズレが生まれる。互いにやりたいことがあるからズレが生まれるのである。想いがあるからこそズレが生じるのである。

 

これからも“ズレ”にしっかりと向き合っていこうと思う。

北側から網を下ろします

綱引きの要領で位置決めをしていきます。

裾の処理。そらあみと漁師と砂浜

ズレと向き合う

明日のための打合せ風景