空に向かって立った11本の棒

沙弥島滞在44日目。棒が立った。

 

そらあみに絶対に欠かせないものがある。それは、網を空に掲げるための棒である。過去の現場では、地元の大工さんなどに、長い竹を立ててもらい、そこに網を編み上げてきた。だが、今回のロケーションは風の強い波打ち際であり、そのサイズも過去最大の高さ5m×幅60mである。そして、多くの方が訪れる瀬戸内国際芸術祭という舞台では、安全性が一番の課題となる。

 

よって、スチール(鉄)素材の棒で、建築家の方の強度計算もした上で、11本の棒が立つ。

 

お昼前に、作品設置場所となる沙弥島の現場を見に行くと、すでに11本の棒が空に向かって真っすぐに立っていた。思わずテンションが上がる。その風景は棒だけでも、ある意味、迫力を感じるものであった。すでに沙弥島海水浴場(西の浜)の空間の見え方に変化が生じていた。何かがはじまる感が浜辺を包んでいた。

 

ここに、あの漁師さん達と編んだ網が掲げられるのか、、、。しばらく、棒のむこうに見える瀬戸内海の風景を眺めながら、頭の中で、そこに網を重ねてみた。早く、漁師さん達に見てもらいたい。きっと驚いてくれるに違いない。

 

そらあみは、空に向かって網が立ち上がって、そのむこうの風景と重ねて見るところに醍醐味がある。

 

休憩していた施工屋さんに話かけた。

 

五十嵐:「お世話になっております」

施工屋さん:「お疲れさん」

五十嵐:「順調ですか?」

施工屋さん:「見ての通りやな。順調や。んで、これどうなるん?」

 

ちょっと驚いたが、考えてみたら当然である。施工屋さんは施工のプロ。図面を見て、その通りに施工するのが仕事である。どうなるのかは知らないのである。そこで、一生懸命、そらあみの話をさせてもらった。

 

施工屋さん:「そうか。そんなに漁師おるんか。楽しみやな。んで、編むのは終わったんか?」

五十嵐:「はい。あとは、この棒に掲げるだけです。よろしくお願いします」

 

自分にとっては、施工屋さんは今までの大工さんの立場と重なる。今までの大工さんは一緒にそらあみを作る当事者となって、編むのとは違うがその力を発揮してもらってきた。そこには、編むのとは違うが、空に棒を立てるという醍醐味があるからである。なので、この施工屋さんにも、その楽しさを感じてもらえたら嬉しい。ただの仕事で終わるのではなく、多くの方の想いのこもった網を空に掲げるための棒を立てているのだと。

 

どれだけ伝わったかは分からないが、それを知らずにやるより、知っててやった方が良いものになると信じている。だから説明するのである。心が反応する可能性があるなら、引く必要はない。まっすぐに伝える。それが自分の仕事でもある。

 

明日は、高所作業車が入って、強度を出すためのワイヤーを張る。その時に、強風時に網を上げ下げするためのロープを通した滑車も棒の先端に取付けてもらう。なので、そのタイミングに合わせて、沙弥島の漁師さん達に集まってもらい、一度、実験として網を上げてみることにする。明日9時に現場集合である。

海側から見た11本の棒

陸側から見た11本の棒