いつしか恒例行事となった「くすかき日程表」づくり

太宰府滞在5日目。くすかき10日前。今日も昨日に引き続き大雨が降ったり止んだりと、落ち着かない天気だった。

 

しかしながら、今年の太宰府は暖かい印象だ。太宰府は冬の間、福岡に比べて2〜3℃気温が低い。しかも滞在先のレジデンスである山かげ亭は川の横にある木造の建物なので朝夕はぐんと冷える記憶が残っている。しかし今年は今のところそれほど冷え込む日がない。とはいえ油断大敵。これまでの経験通りなら、きっとまた心が折れそうなほどに冷え込む日が来るに違いない。用心しよう。

 

天気の影響もあり、今日も一日室内でいろいろな事務作業を行った。そんな中でも今日は、いつしか恒例となった「くすかき日程表」づくりを行った。大きな板状のものに紙を貼り、左から右へ時系列になるように線を引き、日付と曜日と主要な行事を書き込む。そして、空いたスペースに、細かいスケジュールややるべきことを付箋に書いて貼り込んでいく。頭の中にある予定や、動きの中で出てくるやるべきことを“見える化”して整理すると共に、現場で情報共有をするのに機能する。

 

パソコンやスマートフォンのスケジュール管理も便利なのだが、画面のサイズがある性質上、予定全体が見通しづらい。また、書き込んだデータが見えづらくて見落とされていそうな気がしてしまう。それに比べて持ち運びなんかには全く向かないが、ぱっと全体感を目で捉えることができ、6週間という滞在全行程の中で今は前半・中盤・後半のどの辺りなのか、目で見て体調との調整ができるからプロジェクトの動きと自分の体力のペース配分がつかみやすい。また、すべきことが多い日は付箋が多いから、その日の付箋を整理すれば効率的に動けるといった利点がある。

 

そしてやっぱり何より、付箋を貼ったり剥がしたり、触れるのがいい。様々な都合で予定通りできなかったら、付箋を剥がして翌日以降に貼り直せばいい。更には付箋が反って飛び出して板に影が落ちるから、なんだか一つ一つの予定に存在感が出るのもまた好ましいポイントである。

 

いつからこのスタイルになったか覚えていないが、振り返ると初年度からすでにこうしていたような気がする。どこでこの方法を学んだかはもう思い出せない。とはいえ一回で毎年使い切りなので贅沢な予定表である。

 

板面の上の方には主に仕事のスケジュール。下の方には、遠くからやってくる方々の山かげ亭滞在スケジュールなんかを付箋で貼っていく。これから後半に向けて、上の方の付箋はスッキリ整理されていてもらいたいが、下の方の付箋が重なるように増えていってもらいたいものである。

 

そういえば、今年の最初の日記にも書いたが、今年はくすかきデジタルアーカイブというものをしている。現場の仕事量とのバランスもあるので今回は日々の写真をネットワーク上のリソーススペースにアーカイブしていくものに限定しているのだが、アーカイブの最終的な価値の1つは、例えば、ずっと未来の人が、もう一度くすかきを最初からやってみたいと思った時に、どうやって成立させていったかを調べる手がかりとなる部分にある。そういった考えからアートプロジェクトのアーカイブを考えると、今日つくった「くすかき予定表」ようなものこそ、未来の人にとって重要な要素になるのではないだろうか。いわゆる表にはなかなか出て来ない予定や、やるべきこと、といった生々しい内容が記してあるからである。例えば、松葉ほうきづくりでお招きする職人さんへの電話のタイミングや、参道店舗の方々にチラシを渡すベストな時間帯といったものまで記してある。

 

アートプロジェクトを残す方法は、アーカイブすることが1つ。もう1つはやり続けることである。お手本を例えるならば、スペインのサグラダファミリアや、伊勢の式年遷宮といったものである。完成させることではなく、循環させることが重要なのである。毎年落ちて来る樟の葉を掻き、存在しない千年樟を毎年描く、再構成と解体を樟のリズムという自然の流れの中で繰り返すのである。それでも完成度を上げて行かないと感動はなく、感動がなければ続けたいというエネルギーは生まれない。五年目にしてプロジェクトの骨格はしっかりしてきた感じがする。でもまだまだ完成度が足りない。

 

造形の世界には「ディティールに神が宿る」なんて言葉があるが、完成度を上げるには想いが必要である。想いを持った人が多く集うことが、くすかきの完成度を上げていくことになるのだ。「それは、くすかきじゃない」「くすかきってのはさ」といった熱い会話が必要なのだ。まだまだ挑戦は、はじまったばかりであるが、人生の残り時間を考えると焦ってしまう。

会期直前はとにかく準備がたくさんあるのだなと付箋を見て思う。