くすのかきあげ

太宰府30日目。くすかき22日目。くすかき最終日。早朝6時半の境内に40名もの掻き手が集い、朝の美しい光と荘厳な空気の中、今年も無事に「くすのかきあげ」を奉納することができました。

 

早朝4時起床。顔を洗い、身支度を整え5時に天神広場へ。まだ暗い中集った仲間で落葉を移動し、千年樟の落葉風景をつくる。6時半に掻き手が集合し、各当番長発表と《くすのかきあげ》の流れを伝え、組み分け。7時から《くすのかきあげ》開始。8時半に朝拝に全員で出席。9時から御本殿で《くすかき奉告祭》を行い。天神広場で記念撮影をして、女性陣は山かげ亭で直会の準備、男性陣は落葉と柵の片付け。12時半から山かげ亭で直会開始。3時から各賞の発表を行い。4時から今年のくすかきのドキュメント映像の鑑賞会をして、直会(一次会)解散。その後、残った人で深夜まで直会(二次会)は盛り上がった。

 

今年の《くすかき》は、《日々のくすかき》も《くすのかきあげ》も早朝6時半から開始することで、「朝の時間」を手に入れた象徴的な年となった。“朝とくすかき”は非常に相性が良い。

 

《くすのかきあげ》も6時半開始にしたことにより、早朝の暗い中で落葉を移動し、朝陽が差すと同時に千年樟の存在が浮かび上がるようなイメージを持つことができた。

 

こうして全体が6時間早くなったことで直会も12時半とお昼の時間からはじまり、今朝早起きだったので眠る子どもや大人がいたり、コマを回して遊んでいたり、お酒を飲んでいたり、まるで休みの日に親戚が集まったような、ゆったりとした時間が流れ、ただの飲み会ではない非常に温かな空間となった。また子どもたちからも、「くすかきの人達と会えるのはくすかきしてる時だけ、こういう普通にみんなで過ごす時間がずっとほしかったから嬉しい」という声もあった。

 

そして、くすかきの何が面白いのかという質問に「くすかきしてると友だちができるから」という答えが、去年も今年も多くあった。これもまた本当にその通りで、子どもたちに限らず、自分を含めた大人同士もまた、くすかきをすることで友だちをつくっているのだと再確認した。くすかきへの入口は“松葉ほうきで落葉を掻く”という大人も子どもも関係なく同じ関わり方をする。そこには社会的立場も会社や学校でのあり方も関係ない。“自分らしくいられる”場所なのである。くすかきの中で勇気を出して、自分らしく、自分の意志で、自分の居場所を見いだすことで、それまでの自分から自由になり、その結果、人としての成長がある。これもまた大人も子どもも関係なく、くすかきに関わる全ての人に起こりうることなのである。

 

直会で、あるお母さんからこんな話を聞いた。「うちの子、学校ではどちらかというと静かで下を向いているような目立たない方の子なんだけど、くすかきに関わることで、ずいぶん変わったの。そのことに一番驚いてる。自分の意志で、くすかきのお手伝いに行ったり、学校にくすかきチラシを掲示してもらえるように校長先生に話しに行ったり、そんな意志をはっきり持って動くタイプではなかったから、ほんとうにどうしたのかなって思って、、、。でも嬉しかった。あの子のそういう姿が見れて。成長したな〜って。一年間、くすかきのこと本当に楽しみにしてたから、、、。来年、大丈夫かしら(笑)」

 

この話は、正直以外だった。なぜなら自分は、その人のくすかきでの姿しか知らなかったからだ。とてもしっかりしているし、くすかきしている時も全体がよく見えている。頼もしい掻き手である。そして何より強い意志を感じる人だったからだ。

 

くすかきをしていると、毎年、急成長を遂げる人と出会う。そして掻き手の皆でこんな話しになる「今年は◯◯の年やったね〜」。○○はもちろん人の名前だ。皆、毎日共に掻いているから分かるのである。《くすのかきあげ》はその人の晴れ舞台でもある。そしてまた他の人を思い起こし「あいつはまだまだやった」とか、「あいつもあと2、3年の間にくるやろ?」といった会話にもなったりする。人の成長に立ち会うことほど豊かで感動的なことはない。くすかきは6年目にして、関わる人が“自分らしく成長を遂げる場所”に確実になってきている。

 

くすかきは、毎年、どんな《くすかき》になるのか、はじまるまで分からない。どんな人が集まるのか、どんな落葉になるのか。その年に集った人と樟、それ次第なのである。

 

平成二十七年、今年も見事な千年樟が描き出されました。今年も良い、くすかきでした!また来年、樟の葉が落ちる頃に、太宰府天満宮の樟の杜で会いましょう!お疲れ様でした!!!

 

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第六回 五十嵐靖晃「くすかき-太宰府天満宮-」

[会期]平成二十七年 四月四日[土]〜二十五日[土]

[会場]太宰府天満宮 境内

[行事]松葉ほうきつくり:会期初日 四月四日 開催

日々のくすかき:期間中 早朝六時半より 夕方十六時より 開催

くすのこうたき:期間中 毎週土日 開催

くすのかきあげ:会期最終日 四月二十五日 開催

[参加人数]六百五十一 名

[奉加帳賛同者]百三十五 名

 

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くすのかきあげ各当番長

[水当番]江藤応樹 井原功介 佐藤信二

[新芽当番]松大路信昌

[根っこ当番]飯高左智江 米湊五郎 大里武史 天賀友加利 陽山英樹

[幹当番]根っこ当番と同じ

[目立て当番]飯高左智江 米湊五郎 大里武史

[舟当番]掻き山:米湊咲希 奉告祭:天賀來星

[ほうき当番]井原功介 宮本市郎

[太鼓当番]五十嵐靖晃

 

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[特別協力]太宰府天満宮

[協力]中川政七商店/福田屋染物店/株式会社ムーンスター

[Project Staff]飯高左智江

[Photograph]前田景

[Film]仲信達也

[Design]河村美季

[SpecialThanks]太宰府のみなさん/油機エンジニアリング株式会社/ありがとう農園/太宰府CAT/百花堂/猪股春香/米津いつか/

[松葉ほうきつくり]原口葵

 

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最後に、静岡からの参加してくれた大学生からメールが届きました。メールでのやりとりを一部紹介します。くすかきのみんなとの別れ際、スーツケースを引きながら涙を溜めていたのが印象的でした。おそらく帰りの新幹線で号泣したことでしょう(笑)

 

こんにちは。◯◯です。先日は「くすかき」に参加させていただいたこと、山かげ亭に滞在させていただいたこと、本当にありがとうございました。「くすかき」は本当に参加できてよかったなと感じています。太宰府に行ったこと・くすかきに参加したことにより、いろいろな面で成長できましたし、成長とは違う、何か「いいもの」がわたしの中にたくさん積もったような気がします。4日間という長いような短いような時間を太宰府ですごすことができて本当によかったです。また来年も、ぜひ参加させてください。

 

メールありがとう。五十嵐です。今、あなたの中にくすかきのみんながいるように、くすかきのみんなの中にもあなたがいます。また来年、樟の葉が落ちる頃に、太宰府天満宮の樟の杜で会いましょう。

 

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早朝5時。天神広場集合。落葉の移動。顔が見えないけど、声で誰か分かる(笑)。

 

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実は掻き山に飛び込んだりしていいのは、一年に一回、この時間のみ!みんなダイブしてました(笑)

 

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早朝5時半。空が明るくなってきました。境内に朝日が差すと同時に、かつて存在した千年樟が落葉したであろう風景が現れる。

 

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太宰府天満宮の開門の瞬間。初めて見ました!!!皆、手を止め、しばし眺める。

 

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平成二十七年度「くすのかきあげ」開始。第一幕「葉っぱを落とす」。平成二十七年四月二十五日の朝の落葉風景をつくります。子どもたちは新芽当番。新芽が古葉を押し出します。

 

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第二幕「根っこをつくる」。掻き手全員参加。5つの組みに分かれ、松葉ほうきを使って千年樟の根っこを描き出します。

 

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今年の根張りは去年に比べて、細長く複雑に広がっており、繊細な仕上がり。不思議なもので、これも毎年形が違って、見える印象が変わるのです。

 

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第三幕「幹をつくる」。今年の掻き手の顔だった当番長五名のみで、根から幹へと全ての落葉を掻きます。当然くすかきの心技体が揃っている五名はみんなの憧れです。柵の外から、いずれあの役割を担うべく虎視眈々と若手が見つめています。

 

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第五幕「落葉の落ちてくる場所をつくる」。今年から登場した特大松葉ほうきを使って、目立て当番三名が縞模様を描き出します。また来年、千年樟の落葉が落ちてくる場所を整えます。

 

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第六幕「香りを届ける」。一幕は子どもたち。二幕は全員参加。三幕は五名。四幕は三名と徐々に柵の中に入れる人は減っていき、一番最後に唯一入れるのは、大樟香舟を掻き山の上に乗せる舟当番の一名のみ。一年間の記憶を結晶化した香りとみんなの想いを大樟香舟に乗せて、高くなった掻き山の頂点へと、その先の天(そら)へと届けます。その大役は今年一番成長した人が担います。今年の舟当番は文句無しで米湊咲希(小学5年生)。一年間この瞬間を目指して彼女はくすかきに関わってきました。そして見事にその大役をやりとげました。驚いたのは、緊張してるかな〜?と、直前に話しかけると、掻き山に乗せる大樟香舟の向きを天神様(御本殿)の方に向けていいでしょうか?という相談が!!!もちろんそうしてくださいと答えました。鳥肌が立ちました。ちゃんと「見えないけれど大切なものを想う心」が伝わっているんだと思えた瞬間でした。来年以降、この風習は恒例となるでしょう。彼女が、くすかきに新たな歴史をつくった瞬間でした。

 

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第六幕「くすかき奉告祭」。大樟香舟を御本殿に運び、天神様に奉納します。この役は天賀來星(小学五年生)が勤めました。彼もまた、今年のくすかきの顔の1人。来年の更なる成長を期待する声も多い。

 

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くすかき奉告祭で御本殿に上がるまでの待ち時間。緊張した面持ち。でもこの時間が大事。

 

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直会にて、第一回くすかき杯表彰式の様子。くすかきに参加すると押してもらえるスタンプの数上位三名と、朝一番に来た回数が多かった「一番乗り」の称号を称えます。手前から一位:天賀來星(36個)。二位:松大路昌暉(35個)。三位:米湊咲希(34個)。そして「一番乗り」の称号は松大路昌暉。なんと松大路昌暉はダブル受賞でした!!!笑顔すぎてほっぺたが落ちそうに見えました(笑)。

 

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10日は雨でお休みの日。全出席で40回。そのうち36回とはすごすぎる!

 

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それでも、受賞者の中から「くすかきは回数ではなくて、良いくすかきができているかどうかが大事だし、このスタンプはその思い出です」と素晴らしい話しを聞けたので安心しました。

 

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早い時間にくすのかきあげをする効果は直会にも現れる。コマを回す人。酒を呑む人。話す人。寝る人。まるで親戚が集ったお休みの日みたいです。こんなにも豊かな時間が流れるとは。みんなくすかきをきっかけにここにいる。大きな大きな家族です。今年もほんといいくすかきでした。また来年、どんなくすかきになるのか、終わった瞬間から話しが盛り上がりました(笑)。みんなとの再会と、それぞれの成長と、新たな出会いが楽しみです。平成二十七年くすかき無事に奉納できました。応援してくださった皆様ありがとうございました!

一年で一番早起きで健康的な一ヵ月です。くすかき暮らしのおかげで心身ともにすっかり清められ、エネルギーに満ちています。太宰府を離れても、一日でも長く早寝早起きを続けたいのですが、どうなることやら、、、(笑)

 

ではまた来年