沙弥島滞在22日目。今日、櫃石島の〈そらあみ〉は完成した。櫃石島は若い漁師さんも多い活気のある島。ゆえに毎日の漁や消防団の集まりなど若い漁師さんは忙しい。
漁師「これ、今日で仕上げるん?無理やろ。おれ、そない暇やないで」
そんな雰囲気ではじまった櫃石島での最終日。結局午後1時から6時まで、お付き合いくださり見事に完成を迎えた。だがそこはやはり櫃石島。そう簡単には完成しないのである。
漁師A「これどこまで編むん?」
五十嵐「60目です」
漁師A「60目て、みんな目の大きさちゃうで、メートルでいかなあかんわ」
五十嵐「そしたら、6メートルの長さまで編んで欲しいです。」
漁師B「網は広げたら縮むんやで。分かっとるよな?」
五十嵐「はい。いちおう計算では6メートル編んで、つなぎ合わせて開いたら5メートルになる計算です」
漁師B「そんで、どないしてつなぐん?かいてくだけでええか?すく(編む)んか?」
五十嵐「すいてもらいたいです」
漁師A「あんた、これ目の大きさちゃうから、すいたら裾が合わんで」
漁師B「すいてほしい言うてんのやから、すいたらええやろ」
漁師A 「でも仕上がりは5メートル必要なんやろ?目の細かい所とかは裾が足りんところが出るで、せやから6メートル編んだらええんや!」
漁師B「そしたら目の大きな所は長すぎるのが出るやろ。60目編んだらええんや!」
漁師C「そんなもん、どっちにせよ合わんわ。どうでもええんや!ほんまに…」
(さらに揉める)
漁師A「それで、五十嵐さん。あんた、これどうするん?」
五十嵐「…ひとまず…つなぎ合わせましょうかね」
だれ一人として、間違ったことを言っている人はいない。しかし、櫃石島の網の目は、人が個性的な分、大きさも個性的。普段から手だけで編む人は、目板(コマ:網目の大きさを決める物差し)を使わないで編む人も多い。目は明らかに小さいけれど、それがものすごく綺麗に揃っていたりする。この目の大きさが一人一人かなり違うところは、本当に櫃石島らしいし、とても良い。しかし、その分、つなぎ合わせて一枚に仕上げるのには苦労する。型にはまらない人たちが一つにまとまることの難しさに似ている。
そんなこんなで、もめながらも隣どうしがつながり徐々に網の形が見えてくると、一気に仕上げに向けて勢いが出てきた。でも裾はどうなるのか?合うのか合わないのか?短すぎるところ長すぎるところ、いろいろある。
と、ゴールが見えてきたその時、糸が足りなくなった。今日の櫃石島の分は足りるのだが、明日の岩黒島の分が足りなくなりそう。これは困った。漁師さんたちに相談すると、すぐにいきつけの漁具屋さんに電話をしてくれ、すぐにこのまま買いに行くことになった。その漁具屋は、岡山県の下津井の港にある亀仙商店。櫃石島は岡山県にほど近いため櫃石島の漁師さんは岡山の漁具屋を使う機会が多い。
漁師A「車で行くか?瀬戸大橋渡って、児島わかるやろ?そのインター降りてすぐや」
漁師B「いや、船で行った方が早いやろ」
ということで、急遽、船で岡山県は下津井の港にある亀仙商店に糸を買いに行くことになった。時計の針は5時半。時間も時間だったので、糸を買って帰ってくるところまで編んでやる。ということになった。急いで糸を買いに海を渡る。
この、糸を買いに海を船で渡るという発想がなんとも感動的だった。この発想、陸の人間にはない。
漁師の力を感じた。
買い出し時間は往復で約30分。糸を無事に手に入れ、もどると、なんと、あんなに合っていなかった網の裾が合っているではないか!!!いったいどうやって合わせたの???
漁師「網は合うんや!そういうもんや!漁師やぞ…ほんまに…(笑)」
漁師の力を感じた。
若手漁師の孫とベテラン漁師の祖父と。
これ、裾は合わんで〜。
それでも、となり同士をつないでいきます。
糸を買いに船で下津井へ。
瀬戸大橋をくぐりながら夕日を眺める。
お得意さんです。
網は合うんや!漁師やぞ(笑)
お見事!