くすかき二十日目。先輩は背中で語る。

くすかき二十日目。今朝も息が白くなるくらい冷えたが、清々しい晴天に恵まれ日中は気温が上がり、暖かく穏やかな日となった。朝のくすかきには大人17名、子供14名の合計31名が集った。日中は、山かげ亭(会期中の滞在先)で芳樟袋と樟香舟の制作。同時進行で樟脳の昇華作業を行った。

 

いつも通りに朝のくすかきへ。会期のはじめ暖かい日が多く落葉も多かったので、後半は落葉がなくなってしまうのではないかと言っていたが、まったくそんな心配をする必要はなく、今朝もたくさん落ちてきていた。

 

不思議なことに、ほとんどすべての落葉はこっちに向かって背中を向けていた。

 

風が強かったりすると裏表いろんな向きで落ちているのだが、風がほとんどなく自然に落ちると、なぜか樟の葉は空に向かって背中を見せる格好となる。

 

樟というのは譲葉(ゆずりは)で、新芽に押されるように落葉する。なので、その落葉は去年の若葉ということになる。いわば、落葉たちは、今年の若葉たちの一年先輩にあたるわけだ。

 

先輩たちは地面の上で背中を向けて、一年間の経験を何か語っているようにすら思える。しかし、一つ下の後輩である今年の若葉たちは、太陽に向かって上へ上へと成長し、まったく先輩たちの背中を見ようとしない。この状況がなんだか人間とよく似ている。

 

くすかきでは、日々、松葉ほうきを動かしながら地面の落葉を見つめ、時折、立ち止まって若葉を見上げる。足元にある落葉という過去が、今を生きる自分のまなざしを通じて、空にある若葉という未来へとつながっていることを、くすかきのみんなは知っている。

 

いよいよ明後日に迫った会期最終日のくすのかきあげ。三週間かけて集めた、落葉という過去から描き出す、かつて存在した千年樟の姿は、見えないけれど大切なものを大事にする、千年先の未来へとつながっている。

 

あと2回寝たら、くすのかきあげです。

 

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ほとんどの落葉が背中を向けています。

 

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一年間の経験を背中で語る先輩たち

 

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もうほとんど落ちてしまったかと思ったら、まだまだ落ちます。

 

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過去と現在と未来と

 

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大きな樟に抱かれて、朝日を浴びる彼らの影に時間を超えた世界を見た。

 

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葉っぱが落ちてくる場所を整える。

 

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あっというまに20日目を迎えました。朝のくすかきは明日が最後。

 

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山かげ亭にて。昇華で出来た樟脳の結晶を観察。

 

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見て、香って、触って。「…ほんと葉っぱみたい…どうしてこんな形の結晶になるんだろう?しかも、こんなにフワフワなんだね。知らないことだらけだよね」誰かが言った。確かにその通りで、毎年発見があるのが、このくすかきというものの魅力なのだろう。観察を通じて発見がある。ひとつひとつ、ひとりひとり、一日一日、ちゃんと向き合って、ゆっくり向き合って、自分の中と自分の外に、はじめて気がつくことがある。