カイコウラリサーチ

カイコウラ2日目。カイコウラのリサーチを行った。〈そらあみ〉を実施するためには、まずは土地のロケハンをしながら自然環境や歴史や文化を学びつつ、作品設置場所やワークショップの開催場所を選定。そして自分を知ってもらい、共に編む仲間を探して、地域コミュニティとつながる扉をたたきに人に会いにいく。プロジェクトはそこからはじまる。今日は、言うなれば「土地へのあいさつ」をした日となった。

 

Shared Lines: Kaikōura Arts Festivalのディレクターで全体をオーガナイズしているリンダと、これから数日は行動を共にする。事前に何度もここに足を運んでいる彼女が場所や人と自分を最初につないでくれる。

 

1日の前半は町歩き。日本で言う公民館のような場所にあたるコミュニティスペース、文房具屋やチーズ屋やカフェやバーといったメインストリートの店舗、観光案内所や博物館、地元の高校、マオリの伝統模様を入れる刺青屋や額縁屋などをまわり、リンダはそれぞれにアートフェスティバルのプラン紹介や協力依頼をしつつ、〈そらあみ〉と五十嵐の紹介をしてくれた。その後ホームセンターで必要資材の確認をし、気がつけば16時。

 

16時だが、まだ全然明るい。日本の昼過ぎといった感じだろうか。そして日差しがとても強い。湿度は高くないのでベタベタすることはないが、刺すような陽射しを避けるのに自然と日陰を求め、時折吹き抜ける海風が心地よく感じる。さてここからが1日の後半戦。

 

地元でサポートしてくれるカイコウラ在住のエイドリアンと博物館前で合流。彼の車で町中以外のカイコウラ全体のロケーションを案内してもらった。最初は丘に上がって町を含めた全体像を見せてくれた。カイコウラは山を背にし、海に突き出た半島で、半島の付け根の海辺の平坦な土地を中心に町が形成され、半島の先に向けて丘になっている。その丘はトレッキングコースになっており、丘の上から海や海岸線の雄大な風景を望むことができる。オットセイのコロニーもこの海岸にある。

 

その後、漁師さんたちが多く住んでいる地域に連れていってくれ、彼の知り合いの漁師さんと挨拶。そのまま別れ、半島を対岸まで1人で1時間ほどトレッキングし対岸でピックアップしてもらった。エイドリアンは海側から半島を空撮した写真を指差して「ここの一番高い丘が125,000年前、その次の丘が40,000年前、そしてこの海岸線が1,000年前に地殻変動によって押し上げられて作られた」と話してくれた。そして、次に海を指差して「2年前にできたのがあの辺りだよ」と海に浮かぶ小さな岩礁を指差して笑った。2016年にマグニチュード7.8の大きな地震があったのだ。最後のはエイドリアンのジョークかもしれないが、こうして、永い永い時間をかけて地殻変動で海側から押し上げられて、この地は出来上がってきた。そして今も動いている。

 

かつてはマオリの部族間でこの地をめぐって戦いがあったそうだ。海産物を含め食べ物がたくさんとれたからだ、今は観光地としてではあるが、自然豊かなこの地に永く人類が引き寄せられ続けてきたのがよくわかった。自然災害と豊かな恩恵は表裏一体。地殻変動に地震に火山、そして海に囲まれた島国、やはり日本と自然環境としての共通点が多い。それでもマオリをはじめこんなに違う形で文化が育っている。自然との向き合い方、その眼差しの違いなのだ。〈そらあみ〉を通じて、その眼差しを重ねてみたい。

 

その後、〈そらあみ〉の設置候補地を確認した時点でもう夜の8時。やっと日が暮れてきた。そのまま夕食を一緒に食べて帰宅。かなり長い1日だった。

 

出会った人々は基本的にみんな穏やかで明るく親切な印象だった。植民地として入ってきたイギリス系白人の人と原住民であるマオリの人も血が混じっているので、白人っぽい外見のマオリもいるし、いわゆる褐色の我々がイメージするマオリの人もいる。見た目では判断できない。それもあってか、人種や見た目での偏見は今のところ感じられない。車も右ハンドルで左車線なので日本人としては違和感なく、町には緑も多いし公衆トイレも清潔だし、ニュージーランド自体が暮らしやすい印象。特にここカイコウラはそれらに加え海が美しいので、海が好きな自分としては、すでにとても気に入っている。

 

一日中動き回って体も頭もクタクタ。追い打ちをかけるように、顔と首の後ろと両腕がヒリヒリと火照って痛い。明日は絶対に日焼け止めを塗ると誓う。

 

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〈そらあみ〉設置候補地。

 

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Shared Lines: Kaikōura Arts Festivalの紹介記事が地元の新聞に掲載されていました。

 

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チーズ屋で挨拶しつつプロジェクトの話をするリンダ。

 

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カイコウラ博物館。上の階は図書館や地区のカウンシルがあったり、いわゆる文化複合施設。

 

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博物館内に展示してあった写真。捕鯨拠点としての歴史もある。

 

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ありました!網針!この形は世界中同じ。縄文時代にはもうデザインが完成していたらしい。素材は国ごとに違く地元によく生えている木を使う。これまで〈そらあみ〉を行ったことのある国だと、日本は竹や樫(かし)の木が多く、ブラジルは木の名前まではわからなかったが白い木で、ここニュージーランドはManuka Woodを使っている。あの人気ハチミツのマヌカハニーの木。

 

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額装屋さんが考えた、地震シェイク。なかなかブラックだけどポジティブな発想してます。笑

 

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額装屋さんと展示パネルについての打ち合わせ中。

 

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エイドリアンに連れていってもらった町を見渡せる丘。

 

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名物の伊勢エビ漁の船。でかい!

 

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たまたま港にガソリンを入れに来ていた、エイドリアンの知り合いの漁師さんと話をしています。

 

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半島の入口にて、MAUI(マウイ)というマオリの神様に遭遇。ニュージーランドの南島を釣り上げたという伝説がある。

 

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MAUIの釣り針の素材は、自分の母親のアゴの骨を使っているという昔から伝わる伝説を聞いた。

 

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半島の先を1人トレッキング。とんでもない風景に目の縮尺がおかしくなる。

 

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1人歩く。草原と道と空。体が茶色で頭が黄色い小さな鳥がチョンチョンと跳ねながら、ずっと道案内してくれた。

 

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草原と牧場と海と山と空。

 

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草原と海と空。あまり経験のない風景。

 

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半島の先に広がっていた世界。

 

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エイドリアンは海側から半島を空撮した写真を指差して「ここの一番高い丘が125,000年前、その次の丘が40,000年前、そしてこの海岸線が1,000年前に地殻変動によって押し上げられて作られた」と話してくれた。そして、次に海を指差して「2年前にできたのがあの辺りだよ」と海に浮かぶ小さな岩礁を指差して笑った。

 

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海岸まで降りて少し歩くとオットセイのコロニーがある。日光浴しながら気持ち良さそうに寝ていた。

 

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巨大な貝の化石。こんなのもゴロゴロある。

 

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夕方18時半。漁師たちがクレイフィッシュ(伊勢エビ)漁にやって来ました。オットセイとの距離が近すぎる。親から子へ漁を教えている姿もあった。

 

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〈そらあみ〉設置候補地。でもここは普段から漁師の船の水揚げ場なので交渉が難航しそう。

 

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これでまだ20時半。ほんと1日が長い。