ワイタンギ・デーにマラエ(マオリの集会場)で編む

カイコウラ9日目。今日2月6日はワイタンギ・デーというニュージーランドの祝日。いったい何の日かというと、1840年2月6日に北島のワイタンギという地でマオリとイギリスの間で条約が結ばれたのを記念した祝日。いわばニュージーランド建国の日というわけだ。

 

しかしこの条約に問題があって、当時マオリの人たちは英語がわからず、マオリ語に条約は翻訳されたのだが、何とそこに誤訳があって、マオリ側は「すべての土地は自分たちのもの」と捉え、イギリス側は「ニュージーランドはイギリスの植民地」と認識していた。それがきっかけとなって12年にも及ぶイギリスとマオリの戦争となる。

 

そもそも1700年代後半からヨーロッパ人の入植者が増え、マオリの人たちと土地を巡る諍いが起こるようになり、それを沈静化するためイギリス政府がニュージーランド統治に乗り出し、このワイタンギ条約が結ばれたというのに、そこに誤訳があって12年続く戦争のきっかけになるなんて。

 

しかもマオリは敗北し、問題は未解決のまま、何と100年も放置された。その後1975年に条約の再審議がはじまり、一部の土地がマオリに変換され、マオリ語が公用語として認められた。しかし今もくすぶっている問題はあるのだそうだ。

 

話だけ聞くと、当時のおそらくイギリス側から提示されたであろう翻訳にどうしても意図的なものを想像してしまう。マオリの酋長を納得させ条約にサインさせるにはこの方法しかなかったのだろう。しかし今から1000年前にマオリの人たちはポリネシアからカヌーで渡ってきて、ヨーロッパ人が入ってくる前の約700年もの間ずっとこの地で暮らしてきたのだから、何とも理不尽な話に思えてしまう。

 

とはいえ、現代のニュージーランド国民のほとんどは、夏の国民の祝日を楽しみにしている。ここカイコウラでは、先日〈そらあみ〉の糸の染色を行ったマラエ(マオリの集会場)が開かれ、マオリの人々がイギリスの人たちを受け入れるのを模したような式典が開かれた。おそらく歴史的なものを振り返りつつ、外来者をマラエに招き皆で過ごす日としているのだろう。

 

その会をオーガナイズしているのが、何とカイコウラ初日から4日間宿泊させてもらったセリスト(西川口に英語教師として1年住んでいた経験がある)だったからビックリ!ということで、今日は午前中セリストの手伝いをして、午後からマラエの式典に参加させてもらい、その流れでそのままマラエで〈そらあみ〉をさせてもらえることになった。

 

式典では、マラエの中でも最も重要なファレヌイ(内側に部族の歴史や伝説の彫刻が施された集会所で内部撮影禁止)で来訪者を正式に迎え入れる儀式「ポウフィリ」に深い感動を覚えた。

 

まずは建物の外の敷地への入口で、マオリの最年長女性が来訪者へ呼びかけ(入場を許可する合図)。これに来訪者の女性が応答する。次に来訪者は女性グループ、男性グループの順にゆっくりと静かに敷地内を歩き、途中、足を止め亡くなった先祖へ黙祷を捧げファレヌイの中に入る。

 

マオリの人たち50人ほどと来訪者50人ほどが向き合って座り、それぞれの年長者がスピーチをし、スピーチの後に互いに歌が送られる。この歌の合唱が、その送り合いがとんでもなく感動する。歌を送り、歌を受け取る。そしてまたお返しで歌を送り、受け取ってもらう。しかも自分も含め、皆の声が重なっている。ファレヌイの空間内に何とも言葉にできない一体感が生まれた。緊張の出会いから、互いを受け入れ混ざっていく感覚。歌を受け、自分も歌を歌うことで、どこか魂が裸になってマオリの皆さんに、先祖も含めたその歴史に自分の魂を晒しているような感覚になった。力強く、でもどこか悲しく優しい歌声に心が震え、目頭が思わず熱くなった。歌にはこんな力と役割があるのか。そう思った。

 

儀式の最後にはホンギという、鼻と鼻を合わせる挨拶を交わす。近すぎてちょっと恥ずかしいが、ここまでできたら仲間の証といった感じで、受け入れてもらった感覚が強くなる。そして、その後はマオリの人たちが用意してくれた食べ物を全員で食べて、音楽やカラオケといった時間を過ごす。その時間の中で一部スペースを借りて〈そらあみ〉をやらせてもらった。大人から若者、子供まで、みんな興味を持って参加してくれ、良い雰囲気で編むことができた。そこには肌の白い人、褐色の人、黄色の人が混ざって編んでいる風景があった。

 

ワイタンギ条約が結ばれた1840年2月6日から179年後の今日2019年2月6日は、〈そらあみ〉がマオリデビューをした記念日となった。ニュージーランドの人は祝日で祝ってくれるし、忘れなそうだし、〈そらあみ〉的には最高のマオリデビューを飾った(笑)

 

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今日のカイコウラの朝日。南極からの冷たい南風が吹き、日本で着て来たダウンを着るほどに、かなり寒い1日となった。

 

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ワイタンギ条約の当時の様子を描いた絵。

 

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ファレヌイに初めて入ってマオリからの歓迎を受けました。写真撮影禁止のため、中の様子はお見せできませんが、とにかくポウフィリの歌に感動しました。

 

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みんなで編んでいます。奥の旗は左がマオリの旗。右がワイタンギ条約が結ばれた当初のニュージーランドの旗。

 

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子供たちは網に絡まって遊んでいました。笑。

 

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マオリの女性たち。編んでいる姿がなんとも様になります。

 

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集中して、赤い一段を編みました!

 

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最後まで編んでいってくれました。

 

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今日でまた〈そらあみ〉がのびました。

 

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赤いひげ、なのだそうです。笑

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〈そらあみ〉がマオリコミュニティにデビューした記念日になりました。