三宅島大学の“そらあみ”づくり体験講座に、ここ数日の間、キタガワさん、クニさんに続いて、新たな教授が就任した感がある。大洋丸のマサルさんだ。
頭の回転が速く豪快でどんどん前に話を進めることのできるキタガワさん、キタガワさんにはよく地元の漁師さんが話しかける。目が追いつかないほどの手元の動きで黙々と編み進めるクニさん、クニさんには見事な手さばきとその寡黙な姿に惹かれて一般の方が周りを囲むことが多い。そして、その2人とはまた全く違った魅力があるのがマサルさんだ。
マサルさんは、話をするのが上手。そして、編み方を教えるのがうまい。船を停泊させる場所が“そらあみ”の現場にほど近く、漁に出てない時間や、ダイビングのお客さんを眼鏡岩(近くのダイビングスポット)まで送る待ち時間に、編み方の指導をしてくれる。
はじめて編む人が、手をこまねいていると、側に寄ってきてくれて、楽しい会話と共に丁寧に教えてくれるのだ。マサルさんがいると、笑いが生まれ、場の雰囲気が明るくなる。
こういった時、自分は全体を見つつも、黙って編むようにしている。漁師と一般参加者との間に、網を編むことを介してつながりが生まれている瞬間だからだ。
網を編んだり、冗談で笑ったり、三宅島の漁の話を聞いたり、噴火の時の漁の話を聞いたり、交わされる会話の内容は面白いものばかり。島に長く住んでいる参加者も、マサルさんとの会話を通して知らない三宅島に出会うことができる。
今日、マサルさんから聞いたイルカの話をしよう。三宅島のすぐ近くに御蔵島という島がある。三宅島の南南東19㎞に位置する島で、人口300人弱の小さな島、イルカが多い。観光客の流れとしては、イルカウォッチングをしたい人は御蔵島、釣りをしたい人は三宅島といった感じだそうだ。
以前は三宅島の近くにもイルカがいたそうだが、漁で獲った魚を上手に食べてしまうので、困った漁師さん達は、驚かしたりして追い払うようにしていた。そうしたらイルカは御蔵島の方へ移動したそうだ。
60年近く海へ出ているマサルさんはイルカのいろんな姿を見ている。イルカは賢いということは、なんとなく知っていたが、なんと“タコ”で遊ぶらしい。食べているのではなく、遊んでいるそうだ。口にくわえて泳いで、吸盤が引っ付くのが面白いのか、放り投げては、またくわえ、また放り投げる、というのを繰り返すらしい。イルカのタコ投げ遊びである。
他には、浮いているビニール袋などあると、それをヒレに絡めて泳いだりするそうだ。抵抗が生まれるのが面白いのだろうか。イルカのビニール袋泳ぎ遊びである。
あと、イルカのトビウオのつかまえ方を聞いて驚いた。海面から飛び出したトビウオの着水地点を予想して、お腹を上に向け、上下逆さまの状態で上空のトビウオを見ながら泳ぎ、先回りして海面に着水するトビウオを、口を開けてキャッチするそうだ。まるでプロ野球の外野手のようだ。イルカのトビウオキャッチである。上空に勢い良く飛び出し、目をくらませて見られていないと思って逃げているトビウオからしたら、たまったものではないが、イルカ恐るべし。
マサルさんは言う「長く生きてりゃ出会うもんだよ」
“そらあみ”の現場である阿古漁港の中桟橋が場の力を持ちはじめてきている。人のつながりが広がると共に、紐がつながり、網が広がってきている。
マサルさんは言う「俺は、ここで教えんの好き。若いのと話してると、若返るよ(笑)」
マサルさんに編み方を習う
冗談交じりの会話も盛り上がる
夕方、小学2年生のはーくんが編みにきてくれた。差し入れに仮面ライダーチョコをもらった。
前に教えた編み方をよく覚えてくれていた。編むのが楽しいとのこと。「今度、友達も連れておいで」と言うと、「いっぱい来ちゃうかもしれない」と嬉しいコメント。「あと1回くらい差し入れあげれるかもしれない」と言って帰っていった。
広がるつながり