昨日より今日、今日より明日。網の成長と共にプロジェクトは盛り上がりを見せる。朝10時、道具のセッティングを終え編み始めると、さっそく面白い出来事が起こった。韓国人観光客の一団が現れ、おもむろに“そらあみ”に近づき、いきなり編み針をコマ(網目のピッチを決める道具)を手に取り、自然と編みはじめたのだ!これには本当にビックリした。今まで、舞鶴、釜石、三宅島と“そらあみ”を行ってきて、地元の漁師さんが突然編みはじめたケースはあったが、外国人のケースは初めての出来事だった。自分はハングル語は分からない。彼らも日本語は分からない。でも網は編めるのである。韓国人観光客の方々の職業が漁師だったのかどうかは分からない。ただ、韓国にも普通に編める人がいるということだ。
国内有数の観光名所である浅草には多種多様な外国人がやってくる。今日までに一緒に編んだ外国人の国名を挙げると、インド、ドバイ、アメリカ、フランス、そして韓国といったラインナップである。
インドの人は、糸はいくらで買えるのか?という質問と、網で落ち葉を集めて畑に撒き肥やしにするという話を聞かせてくれた。ドバイの人は、観光先である日本文化に触れているといった楽しみ方をしていた。アメリカの人は、ケンタッキー州から来たそうで、そこには海はないが川があり、川は海とつながっている。その川では網で魚を獲る。だから網も世界とつながっている。この作品はピースだ!と言っていた。フランスの人は、熟年のマダムといった落ち着いた雰囲気の方で、丁寧に細かい編み方のディティールを気にしながら、小鳥のさえずりのように聞こえるフランス語で何やら語りながら編んでいった。ここまでの皆さんには編み方を伝えた。だが、韓国の人は、既に編めたのである。この事実との出会いは大きい。
この世界には大陸も含め、大小様々な島があり、それらは海でつながっている。どこかで考え出された網という文化は、魚を獲って生きるために海伝いに広がってきた。自分は日本の三宅島で網の編み方に出会い。その後、そらあみとして、網を編むということを各地で行ったが、どこの漁師さんも基本的には同じ編み方をしていた。言葉を交わすこともなく網を編んだ韓国の方との出会いによって、日本海のむこうの国とつながった感覚を得た。世界中に網があることはイメージできる。ただ、ほんとうに一緒に編むということは、また全然違った感動がある。これは1つの共通言語のようなものである。韓国の方が編むのを見ながら「おう!おう!ちゃんと編めるじゃん!」思わずそう思った。網を編むという行為は世界に通用するコミュニケーションツールであることの証明だった。言葉で通じないから伝えたい想いを乗せて、絵にしたり、踊ったり、音楽にしたり、様々な方法で国境を越える表現がある。世界の空と、世界の土地の風景と、世界の人と言葉にならない想いを交わしに“そらあみ”と一緒に世界に行くことができる。
ここで1つ報告がある。なんと“そらあみ”来年の「瀬戸内国際芸術祭2013」への出品が決まりました!瀬戸内の漁師さん達との出会いが今から楽しみである。そして、これはきっと世界への前哨戦となるだろう。
日本海を渡った瞬間
この空も世界とつながっている
早稲田大学に通う学生2人。1時間以上編んでくれました。「またこの場所に来て編みたい」その言葉が嬉しかった
網のインパクトで人が引き寄せられます
今日は夜も少し編んでみました。ライトアップされた浅草神社とそらあみ
むこう側には浅草寺。そらあみ越しに1400年前に網にかかった観音様をイメージします
夜の境内とそらあみ