沙弥島滞在8日目。昨日の櫃石島でのワークショップに続き、今日は午前9時からに岩黒島、午後13時から沙弥島と2つの島でワークショップを行うというなかなかハードな1だった。
そして、今年の瀬戸内国際芸術祭参加作家の内、がっつり長期滞在をして制作活動をするタイプの作家として現地入り一番乗りのせいなのか、今日はとにかくメディア取材が多かった。地元広報誌2社に新聞1社、そしてテレビ3社という状況には驚いた。
正直、1日でこんなに多くのメディア取材を受けたのは初めての経験で、たいがい同じ質問をされる。「香川県や沙弥島の土地や人の印象は?」「なぜ沙弥島を選んだのか?」「なぜ5つの島で1つのものを作るのか?」「作品を通して伝えたいことは?」「どんな作品にしたいか?」といった感じである。
もちろん取材は1社ずつそれぞれのタイミングで行われる。答えるのは自分1人、あまりに同じことを何度も聞かれ、同じような内容を話し過ぎたので、途中から自分が誰にどこまで話をしたのか、頭の中がこんがらがってしまうほどであった。いや〜、今日は語った。たくさん語ったおかげで、メディアが聞きたいことも分かってきたし、だいぶ説明が上手くなったように思う。
朝8時、海の家集合で先発隊は岩黒島へ向かった。後発隊である自分は、8時30分から沙弥島集会所で行われる総会(沙弥島在住の36世帯のほとんどの家の方が集まる会)に出席し、はじめの10分程度のみ時間をいただいて、まだお会いできていない沙弥島の皆さんに、網づくりへの参加と、これから沙弥島で生活させていただくご挨拶とお願いをさせてもらった。
30畳ほどの畳に敷かれた座布団の上にずらりと並んだ沙弥島のみなさんの、よそ者を定める視線に緊張しつつ、昨日、櫃石島で編まれた網を集会所に広げると、近くに座った年輩男性陣は網を興味深そうに手に取り観察していた。作品について話をしても、壁際に座った女性陣が、ちゃんと話す内容にうなずきながら真剣に話を聞いてくださり、良い初顔合わせの時間になったように思う。
どこの土地に入る時でも、会うまでは不安である。なにはともあれ、ちゃんとこっちのアクションに反応してくださって、ほっと一安心したのであった。最後に「今日の午後13時から海の家で行われる網づくりに是非ご参加ください。もしくは是非覗いてみてください」と呼びかけ、沙弥島の皆さんへの最初の挨拶と説明を終え、その場を離れ、岩黒島へ向かった。
瀬戸大橋へ上がると、時折強風で車が揺れた昨日に比べ、全然風もなく、良く晴れており、たくさんの船が海に出ている姿があった。岩黒島の漁師さん達は前回の打合せで、偶然にも港で会って説明を終えていたので、更には、参加してくれそうな同世代の漁師の方も数名いたので、「先日はどうも」といった雰囲気で、再会しに行く感覚で島へ向かったのだが、海上の船数といい、天気が良いから皆さん漁に出ているのではないかと不安になった。ところが、すぐ後に岩黒島の漁師さんに聞いて分かったのだが、天気の良い日曜日は釣り船やレジャー船がたくさん出てきてしまい漁をするにも仕事にならないので、こんな日は海には出ないんだそうだ。
先発隊が準備を整え、先に9時からワークショップをはじめていた岩黒島集会所に、20分くらい遅れて駆け足で到着し扉を開けると、そこには、既に10名近い方が網を編んでいる姿が飛び込んできて、ほっと胸をなで下ろした。プロジェクトスタッフの塩野谷くんが嬉しそうに一言「五十嵐さん。今日も自然と編みはじめてくれたんですよ」。その一言でなんとなく状況を把握した。
全体に目をやると、前回の打合せの際、港であった漁師さんの姿はもちろん、その奥さんであろう女性、おばあちゃん達、中学生くらいの女の子、小学生男子など、バランス良くいろんな世代の方が集っており、日和も良く、窓から日光が差し込み、なんとも温かな空気感があった。ご挨拶と簡単に作品説明をして、すぐに自分もその場に加わった。そうこうするうちに人はどんどんやってきてくれ、結果20数名で網を編む時間となった。岩黒島の方は15人くらい来てくれていただろう。はじめて編む人、一人一人に丁寧に編み方を伝えた。
岩黒島の男性に「おい。その、おばあちゃんに教えてやってくれ」と言われ、「はい、もちろんです。」と、すぐ横に座って網の編み方を伝える。まず足が悪いから膝を伸ばさないと座れないというので、座布団を3枚重ねて敷き、その上に腰を下ろしてもらった。
五十嵐:「網を編むのはじめてですか?」
おばあちゃん:「うん。はじめてじゃないんやけど」
ベテラン漁師さん:「その人は“ゆきちゃん”っちゅうんや」
五十嵐:「じゃあ、自分も“ゆきちゃん”って呼んでいいですか?」
その会話にみんなが耳を傾けていたので、ゆきちゃんは少し恥ずかしそうに「え、あ、はい」
ベテラン漁師さん:「ゆきちゃん、なに恥ずかしがっとんのじゃ(笑)」
ゆきちゃん:「なんか、ちと、こういうの久しぶりでの」
若手漁師さん:「五十嵐さん。ゆきちゃんは、自分の網の編み方の師匠やよ。」
ゆきちゃんは、昔、網を編んでいた。漁をしていた息子さんが海に潜って貝を取り、獲った貝を入れる“すかり”と呼ばれる網袋やエビ網を編んだりしていたそうだ。それで若手の漁師さんはゆきちゃんに網を習ったりしていたということだ。しかし、15年ぶりくらいに編むということと、編み方が少し違うということで、そらあみのやり方に合わせてくれたのだ。
ゆきちゃんは、「懐かしい。昔の記憶がよみがえる。でも今はあまり上手く手が動かんけどなぁ」と言いつつも、網を編むためのポイントは熟知している。手が覚えている感覚を頼りに、確実に網を編んでいった。実際のところ、ゆきちゃんに自分が教えることなどほとんどなかったのだが、一緒に編むというのはこういうことなのである。昨日の櫃石島の25人全員漁師という豪快な雰囲気とは、また違って、岩黒島のそらあみはとても穏やかで、親戚が集まったお盆や正月のような安心感がある時間が流れた。2度目の来島に関わらず、懐かしさすら覚えたのであった。
11時過ぎ、手を止め今日の時間でどれくらい編みが延びたのか品評会を行った。これが盛り上がった。一番は漁師でもある中村自治会長。たった2時間弱の時間でなんと5m編み終えてしまった。五十嵐:「今までのところ一番編むのが早く、かつ網目が美しい!だんとつのトップです!」。皆さんから歓声と拍手が起こる。おばあちゃんの1人が言う「じゃあ2番は誰やろ?」といった流れで、編んだ長さ、網目の美しさ、色の選び方、編み姿などへの感想コメントを五十嵐が入れ、「こっちのも褒めて〜」といった声に反応しながら。ワイワイと盛り上がった。
また別のおばあちゃんが一言:「あんた、こういうの、司会させたら、うまいのぅ」
五十嵐:「ありがとうございます!」
こうして、終始穏やかに進んだ岩黒島でのそらあみを終えた。最後にその場で中村自治会長を介し、皆さんに相談して次回の約束をした。次、岩黒島で行うのは2月9日(土)9時〜である。再会が楽しみな人が増えたワークショップとなった。
13時からは沙弥島のワークショップがはじまる。滞在先の島なので、瀬戸大橋を渡って、ある意味ホームの島へもどる格好となった。眼下に広がる瀬戸内の海には相変わらずたくさんの船が出ていたが、帰りは全てレジャー船や釣り船であることが分かっていた。岩黒島へ向かう時は漁船に見えていたのが不思議なくらいであった。
昼食はうどん屋さんでさっと食べて、会場となる沙弥島の海の家へ到着。13時の開始時間に向けて準備を整えた。埋め立てられ、車で入れる地続きの島ということもあり、小えび隊などボランティアスタッフの姿も多かった。だがしかし、13時を過ぎてもなかなか沙弥島の方の姿はなかった。テレビが3社も来ているし、少し不安であった。しかし、30分ほどすると、高尾自治会長を筆頭に、ゆっくりと沙弥島の方々が姿を見せてくれた。朝から始まった総会は実は新年会も兼ねていたそうで、みなさん良い感じに頬を赤らめて来てくれた。それで一気に場が和やかになり、3台のテレビカメラにも負けない雰囲気となった。島に暮らす人が来て、ワークショップの空間に島の時間が注入された感じであった。
沙弥島のおじいさん達もやはり編めるのだ。高松の方からやってきた若手ボランティアの方などもおり、島の人と島以外の人が入り交じり共に編み、教えたり、会話したりと交流が生まれる場となり、陸続きの島である沙弥島ならではのそらあみとなった。2時間が経過し15時を過ぎても手が止まらずに網は編まれ延びていったのであった。次回の沙弥島は2月9日13時からに決まった。また、沙弥島の海の家は自分達の滞在先でもあるので、沙弥島の方などが、時間ができたら、いつ来ても編めるような準備をしておくことにした。
結果、2月9日(土)は今日と同じで、午前中は岩黒島、午後は沙弥島と今日と同じ流れとなることとなった。
そして最後に、海の家に洗濯機がないことを知った沙弥島の藤田さんが、去年まで新潟へ仕事で行っており、その時使っていた洗濯機が1つ余っているから貸してもいいと言ってくれ、なんと海の家に洗濯機がやってきました!藤田さんありがとうございます!これで洗濯ができます!やはり、まず出会うことが大切である。洗濯はもちろん、一度出会い挨拶することができた沙弥島の皆さんとのこれからの島暮らしが楽しみになったのであった。
ゆきちゃんとの出会い、藤田さんとの出会い、そらあみの現場には、他にも日記に書き切れないほどのたくさんの出会いがある。さらに自分以外のみんなもそれぞれに出会っているからもっとたくさんの出会いがある。出会うと何かが動き出すのである。そらあみは、それを編みつないで形になっていくのである。
明日は13時から瀬居島の竹浦地区でワークショップを行う。
瀬戸大橋を渡って岩黒島へ向かう
教える人、やってみる人、眺める人
受け継がれていく風景
ゆきちゃん
温かな光を感じながら
興味あり。岩黒小は全校生徒が20人弱。5年生は2人です。先生は9人。
一目一目、丁寧に丁寧に編んでくれました。
紐を綛(輪)を広げる。紐を巻く。編み針に編み紐を仕込む。チームワークばっちり
沙弥島でのメディア対応
沙弥島の海の家の窓のむこうには瀬戸大橋がどーんと見えるのです。
実は酔ってます。でも編めます。
坂出市海の家に来てから、玄関にこんなに靴がいっぱいになったのは初めてです。