ブラジルは予定通りにはいかない

ブラジル3日目。今日は、本当はレシフェから南へ1時間ほど移動した先にある漁師町「ガイブ」というという所に行って、町のロケハンをして漁師さんを紹介してもらう予定だったのだが、仲介してくれるというアンダーソンさん(まだお会いしたことがないのでどこの国の人か分かりません)の都合が悪くなったということで週末に延期になった。なので、1日予定がすっぽり空いてしまった。

 

現地の人は言う「ブラジルはさ、予定通りにはいかないからさ、焦っても仕方ないよ」。まあ、こんな日もあっていいだろう。こっちにいるとなんとなく分かる。みんな自分のペースがそれぞれにはっきりとある感じだ。よく口笛を吹いている人がいる。さりげなく腰を振って踊っている人がいる。大きな声ではっきりとしゃべる。よく笑う。豆が好きな人が多い。美人ほど対応が冷たくてツンケンしている。外国人だと分かってもほとんどポルトガル語でごり押し。何かと行列が多い。レジやATMで行列ができても急がないし、ある種そのことを諦めている。地元チームのサッカー中継に異常なほど興奮する。ゲイも多い。一言で言うと、みんな開けっ広げなのである。

 

そんなブラジルで「そらあみ」をするにあたって、土地勘もなく言葉も分からないので、全く宛てもなく動くのも危険なので、現地で相談に乗ってもらったり、人をつないでもらったりと、とてもお世話になっている方がいる。柳澤さんという方だ。アンダーソンさんもその方の知り合いである。

 

柳澤さんは大学の先輩にあたる方で、東京藝術大学の建築科卒業後、オランダで2年半建築を学び、イタリアで2年半建築事務所で仕事をし、7年ほど東京藝術大学にもどり助手をされて、今はイタリアで出会った奥さんの出身地であるブラジルのレシフェで3年ほど住んで建築事務所に務めている。ブラジルには自ら設計した家を建て、6歳の女の子がいる。他にもいろいろ話を聞かせてもらったが、素直にすごい人生だなと思う。「何で外国に出て行こうと思ったのですか?」と聞くと、「小さい頃からあんまり日本が合わなかったんだよね。前世の問題かな(笑)」と言っていた。

 

藝大ではサッカー部の部長をしていた。自分も小学生の頃から高校卒業までサッカーをしていたので、気が合うと勝手に思っている。話をしていても、その感覚にはどこか異国を感じる。日本語、英語、イタリア語、ポルトガル語を話す。「夢は何語で見るんですか?」と聞くと、「夢に出てくる相手によるな、五十嵐くんが出てきたら日本語だよ」とのこと。外国の人との恋について聞くと、「感情の幅はあっても女性は基本的に同じだよ」と言っていた。

 

同じ大学なのだが、実はここレシフェで初めてお会いした。きっかけは自分の恩師であり来週にはレシフェ入りする東京藝術大学教授であり日本サッカー協会の理事を務める日比野克彦さん。日比野さんもこっちで活動を展開する。日比野さんの活動のテーマの1つに「サッカーとアートの融合」がある。自分もこの感覚には同意する。

 

サッカーとアートは似ている。「イメージを形にする」というところが似ている。サッカーは例えばフィールドで、アートは例えば白い紙の上でイメージを形にする。サッカーではチームメイトでイメージを共有したスペースにパスという線を引く、絵を描く時はイメージを持ったら白い紙のスペースに絵筆で線を引く。どちらもまずイメージをして身体を動かして形をつくるのである。アートは1人でやるイメージがあるが、自分のやり方は、「そらあみ」でもそうだが、参加型の共同作業をする。1人でボールを蹴っているのも良いが、誰かと一緒にやるのも伝わることが実感できて楽しいからである。

 

その理由は、表現とは、伝える側と受け取る側のあいだにあるからである。極端に言うと伝わらなければ表現ではないとも言える。少なくとも表現としては機能していない。サッカーで言うパスが通らないのと同じである。伝わらないと感動は起こらない。

 

誰かに伝えたいことがあるから表現をする。故にコミュニケーションツールとしてアートを捉えると、1人で漁網を編んでも網はできあがるが、一緒に編んでイメージを共有することもできる。なので、自分はボールを蹴るように網を編む。最初は1人でも誰かがそこに来ればパスが出せる。パスが通るかどうかは相手と自分とそこに集った人次第なので、ほんとのところはやってみないと分からない。

 

ファベーラと呼ばれるスラム街に小さなサッカーコートがあった。そこに網はかかっていなかった。

 

今、こっちに来て思うことは、海辺で漁師と網を編んで、それをビーチに立てて、ゴールネットに見立てて最後に一緒にサッカーをしたい。そして、そのまま網はビーチにずっと残って、やがてそのゴールネットを使ってサッカーをして育った子どもが、プロサッカー選手になる。そんなことを考える。

 

海辺のファベーラには漁師もいる。サッカーブラジル代表にはファベーラでサッカーをして育ち夢を叶えた人もいる。貧困層から抜け出す唯一の開かれた方法なのかもしれない。

 

ブラジル人がサッカーをする理由はなんだろう?あんなにも熱狂する理由はなんだろう?同じサッカーでも日本とは違う。サッカーに込められた意味や想いや社会状況が違う。

 

でも、まだまだ何も分からない。ブラジルに来て3日目。飲む水も食べ物も吸う空気も、だいぶ身体に馴染んできた。身体が日本からブラジルに入れ代わり土地に浸透することで見えてくることがあるはずだ。

 

ブラジルでの「そらあみ」、その網目は何を、どんな風景を、どんな背景を捉えるのだろう。

 

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ブラジルの定番料理フェイジョアーダ。塩漬け肉と黒豆を煮込んだドロッとしたスープ。これが旨い。