今日は明日のワークショップ初日に参加してくれるという漁師さんに会いに行き、その後、ヒミングアートセンターで《そらあみ》のための会場設営を行った。
朝、目覚めると部屋の空気と自分の顔が冷たいのが分かる。下半身を布団に入れたまま石油ストーブのスイッチに手を伸ばす。スイッチ横に表示されていた室内温度は3度。「うぅ…」となんとも言えない声が出てしまった。部屋が温まるのを待って、意を決して一気に着替え、顔を洗って出発。
レジデンスのドアを明け、外に出ると辺りは真っ白。昨夜、雪が降ったのだろう。身震いする寒さである。15分ほど車で移動し、約束していた朝8時に薮田漁港の番屋へ到着。緊張しながら番屋(漁師さんの詰め所であり、作業小屋であり、食事や宿泊スペースといった機能がある)の戸を開けた。
10畳ほどの空間の中央にプロパンガスから直接つないだお手製のガスコンロ。上には金網が乗っており、魚か何かが焼かれた跡が白く残っている。壁面には神棚、大漁祈願の旗、カレンダー、若い女性のヌードポスター、漁や水揚げに関する書類、網針、はさみ、などなど。部屋の壁沿いにぐるりと回したイス兼机の上には一升瓶、缶ビール、缶コーヒー、灰皿、懐中電灯、などなど。男の隠れ家といった感じで、最初はもちろんどこに座っていいのか分からないのだが、一度座ってしまうと、なんとも居心地が良い空間である。
小杉(氷見には大小様々な形で45箇所ほど定置網が設置されており、網組〈あみぐみ〉と呼ばれる組織でいくつかの定置網をまわって漁をする。小杉もその内の1つ)の船頭の崎田さんと若手漁師の奥原さんが待っていてくれた。早朝3時半に出港して漁をし、魚市場への水揚げを終えた彼らからしたら、朝の8時ではあるが仕事帰りのタイミングである。雪がなければ日が暮れるまで網の修理などで仕事はありつづけるが、この時期は雪で屋外仕事ができないため漁を終えた朝8時前には仕事を終えるしかないそうだ。2人とも、ご挨拶をして話をしているととっても優しい人であることが伝わってくる。
崎田さん「明日は、良い機会やし、俺と、うちの若いの連れていくから」
五十嵐「ありがとうございます。よろしくお願いします」
崎田さん「あと、鍋の具材がいるんやろ?漁に出てみたかったら事前に連絡くれたら船乗せたってもええよ」五十嵐「ありがとうございます。その時は、また連絡させてもらいます」
「そらあみ−氷見−」では、毎週土曜日に大漁鍋をふるまう予定。その鍋の具材まで気にしてくれたのだ。本当にありがたい。
番屋でのご挨拶を終えてヒミングアートセンターへ移動。明日からワークショップがはじまるので、会場設営を行った。
ワークショップにおける場所づくりは、とても重要な要素だと考えている。ドアを開け会場に入った時の第一印象、人の動線、視点の流れ、道具を置く位置、分かりやすさ、入りやすさ、居心地の良さ、などなど、いろいろなことを考えモノを配置する。
そして最も重要なことはその場所の持つ特性を味方につけることである。
ヒミングアートセンターは古い倉をリノベーションした空間で、展示用の白い大きな壁面があり、カフェスペースとしても機能する。床は土間のような雰囲気で、立派な梁や、以前から倉にあったであろう桶や石臼なども置いてある。これらの要素を活かせるかどうかが毎日のワークショップであり、プロジェクトの雰囲気づくりの1つのカギとなる。
そして今回初めて挑戦したのは、壁面に毎日の記録(参加者の名前、写真、出来事など)をスタートからゴールまでの時間軸をカレンダーのようにつくって残していき、どのタイミングで初参加してもプロジェクトの流れを追いかけることができるようなしつらえにしてみた。そして、終了後はその記録がそのままアーカイヴとしての役割を果たし、仮に別の場所で《そらあみ》を展示することになっても、網と記録がセットで見ることができ、アートプロジェクトという生もののような物語を、時を経ても当時の現場をイメージすることができる。これもまた室内であり大きな白い壁面があるというヒミングだからこそ実現した方法である。
いよいよ明日から「そらあみ-氷見-」はじまります。
ヒミングアートセンターのまわりも真っ白。
番屋の倉庫から海を眺める。
蔵の道具を駆使して場づくり。
壁面の板の中に毎日の記録(日付・出来事・参加者名・写真など)をしていきます。