DAY9 AM / Brown Base(ARG)に上陸。
DAY9 PM / Leith Coveに上陸。
航海中に、船と南極で組んだ組紐を使って凧揚げをするため、風を待つが、ほぼ無風のため諦める。
今日は一日、PARADISE BAYと呼ばれる海にいた。なぜパラダイスかというと、周りを島や山に囲まれて、ほぼ波がなく、水鏡のように南極の風景が見えるからである。当然、風もない。まるで世界の時間が止まっているかのような光景が広がっていた。
自分のプロジェクトを成立させるには厳しい条件だが、晴れて風がなく美しい氷の世界が広がる今日のような日は、他のアーティストにとっては待ちに待った自然条件でもあった。誰かのプロジェクトが成立する自然条件なら誰かのプロジェクトは成立しない。南極ビエンナーレは船で動きながら、自然条件に対応しながら、トライを繰り返し、ひとつずつ作品を成立させていく。
ポイントを変えて1日に2回、約2時間半の上陸のチャンスがある。自然環境はみるみるうちに変化していく。ロケーションは上陸してみないと分からない。一人のアーティストがトライするチャンスは、作品内容にもよるが、基本は1〜2回。全員が自分にとっての最高の瞬間を狙っている。インスタレーションが終わるとすぐに、世界中の新聞や美術のライター、哲学者、科学者たちが上陸して鑑賞する。
ゾディアックというゴムボートに乗る優先順位は、まずはその時にトライするアーティストとサポートチーク。次にドキュメントチーム。その後に記者やライターたちといった順番で上陸するのだが、細かい部分は早い者勝ちなので、皆できるだけ早く上陸したいというのもあって、乗船通路はいつも直前に混雑する。
我々アーティストは、朝食や昼食の際に発表されるのを待って、すぐにゾディアックに乗り込んでインスタレーションやパフォーマンスができるよう、常に万全の状態で用意をしておく。
また、自分のイメージや条件といった要求をオーガナイズチームに伝えイメージ共有をしておくのも重要なのだが、特に事前のミーティングが用意してあるわけではなく、自分で伝えにいく必要がある。その時に重要なのが、食事の時間であることに途中で気がついた。席は特に決まっていないのだが、食事の時間は関係性を築く時間でもある。ただ楽しく食べていても何の問題もないのだが、誰の横に座って話をするか、伝えたい相手や内容がある時は、その人の横や正面の席を狙って座るようにする。するとその場はミーティングとなる。
食事での交渉を重ね、昨日、今日と合わせて3回連続で一番のゾディアックに乗り、凧揚げにトライしてきたが、まさかの南極での無風状態が続いていた。ここ数日、胃が痛い。自然条件なので、どうしようもないのだが、毎回サポートチームが編成され、気合を入れて上陸し、何もできないと、徐々に精神的には追い込まれていく。
いつしか、みんなが「カイトは上がったか?」「風は吹いたか?」「次のロケーションはきっと風が吹く」「次はお前の番だ」と、声をかけてくれるようになっていた。
また、南極ビエンナーレチーム以外にも、ゾディアックを動かしたりするカナダの会社ONEOCEANのクルーたちも、それぞれの持つ時間を一本の糸の子午線に見立てて、皆で組んだ組紐を使って凧揚げし、時間を束ねるというコンセプトである自分のプランを、いつも世界中の人が南極に集まってくるこの船の航海にとても合っていると気に入ってくれており、いつしか自分のプロジェクトは、この船に乗るみんなが成立させたいものに成長していると感じるようになってきた。
朝食の際、マイクを借りて、「いい風が吹いたら、みんなで糸を持って凧揚げをしよう」とつたない英語で伝えたら、皆真剣に聞いてくれ、あたたかくまた力強い拍手に包まれ、まるで船のみんなが一体となっているような、感動する瞬間だった。
明日は3/25、明後日3/26からはまた外洋に出て、アルゼンチンのウシュアイアへ向かう航路につく。いよいよ明日がラストチャンス。成立していないプロジェクトはいよいよ自分の凧だけになってしまった。
明日、風が吹くことを祈る。PARADISE BAYを離れ、外洋が近づき船は再び大きく揺れはじめた。
アルゼンチン南極基地
だいぶゾディアックの乗り降りにもみんな慣れてきた。
モロッコ出身ニューヨーク在住のアーティストのイト・バラッダ。
船で出た食材から色を抽出し染色。
イトとはどこか気が合う。設置のサポートを頼まれた一緒に布を配置した。
ドイツ人アーティストのトーマス・サラセーノの作品。太陽光でバルーン内が温まり上昇する。
エクアドル人アーティストのポールの作品。カカオの木を南極に持っていくプロジェクト。
トーマス・サラセーノのバルーンは高く上がった。
氷の青が美しい。
調和を感じる神秘的な場所。しばし氷の音を聞く。
PARADISE BAYのAkademik Sergey Vavilov号
時間が止まっているようだった。
ドイツ在住日本人アーティストの長谷川翔くん。スケート&光のドローイングへの挑戦を繰り返す。
長谷川翔くんとポールでスケート。
アレクサンドル・ポノマリョフと特別な場所にて