22:20竹芝桟橋発の東海汽船に単身乗り込み三宅島へ向かう。昨夜、関東地方を通過した台風17号の影響による余波が心配だったが定刻通り出港した。到着予定時刻は翌日の早朝5:00。船中泊である。乗船者は少なく指定されたベッドのまわりは空いており、どの乗船客も暗黙の了解で指定番号を無視して、適度に距離をとって各々の場所を寝床とした。荷物を置いて甲板に上がると、船はちょうどレインボーブリッジの下を通過するところだった。東京タワーにスカイツリー、そして無数のビル群がきらめく東京の夜景に目を奪われ、しばし眺める。そしてそれはゆっくりと確実に音も無く小さくなっていった。船首の先に目をやると闇が広がっている。この黒い海のむこうに三宅島がある。風が強くなったので甲板を後にし、ベッドに潜り込むとすぐに消灯時刻23:30となった。途中、夜中に一度背中が波のうねりに押される感覚を覚え目が覚めた。東京湾を出で外海に出たのだとぼんやりと理解した。
船という乗り物は、静かにゆっくりと確実にその土地から離れていく。この乗り物は単なる移動手段ではない。人にとって安定し住み慣れた陸から、不安定で不慣れな海へ。身体的にも精神的にも別の世界へ連れていってくれる乗り物である。三宅島へ向かう船中泊は“陸で生まれ育ち、全てが当たり前であり、常識となり、それを疑わない、自らにこびりついた陸の感覚”を捨て去る儀式のように感じた。
早朝4:55。辺りはまだ暗い。月明かりの中、三宅島に無事到着した。
三宅島は東京から南へ180㎞。伊豆諸島のほぼ中央に位置する島で、直径8㎞、周囲38㎞、面積55.5㎢のほぼ円形をした火山島である。人口は3000人弱。
この島に来た理由は、三宅島大学の講師として“そらあみ”づくり体験講座を実施すること。
三宅島大学の説明を簡単にすると、(以下ホームページより)「三宅島大学」とは、三宅島全体を<大学>に見立てて、さまざまな「学び」の場を提供する仕組みです。それは、自然との長い関わりについて考え、私たちの「想う力」を育む場です。学校教育法上で定められた正規の大学ではありませんが、<大学>の講座やプログラムを通じて人びとが出会い、のびのびと語らう「学び」の場をデザインし、コミュニケーションの誘発を試みるプロジェクトです。詳細はこちら→www.miyakejima-university.jp/
自分は昨年行われたリサーチプログラムに参加し、その時、三宅島で出会ったベテラン漁師さんに漁網の編み方を習った。一週間ほど滞在期間、他のリサーチャーが島を回る中、自分は毎日ベテラン漁師さんの番屋に通い、ひたすら網を編み続けた。ベテラン漁師さんを「じい」と呼ばせてもらい、1から網の編み方を教えてもらった。じいは網を編む師匠である。そして、じいからならった網づくりは、その後“そらあみ”となる。
“そらあみ”は、みんなで空に向かって大きな漁網を編み上げていくという作品で、京都の舞鶴や、岩手県の釜石市の仮設住宅などで展開し、地域の方の手によりそれぞれの“そらあみ”が完成した。
三宅島からはじまった物語を、報告も兼ねて一度、もどしてみようということである。