酔っぱらいの助言

 

ここ最近で一番暖かい、そらあみ日和の一日だった。日中は半袖の人の姿もあった。暖かい日曜日となると、当然浅草に訪れる人は多い。一日、浅草神社で漁網を編んでいると、全国から、世界中から、そして地元から、といった様に、たくさんの土地であり、それぞれの地方から浅草に訪れた人達に出会うことができる。

 

「これ、なんしよると?」と九州の佐賀から来た人。「これ、なんかいなと思いましてな」と関西弁の独特の言い回しで語りかけてくる人。父が漁師で、子供の頃手伝いをしていて50年ぶりに編んだけど体が動きを覚えていた東北の男性。まっすぐで長い大きな竹に反応するオーストラリアからから来た建築家。漁網の前で少し大げさにポーズをとり、旅の思い出写真を撮る中国人カップル。編み針を手におもちゃの剣のように振り回す褐色の肌をしたどこかの国の子供。七五三に来て、そらあみの前で家族写真を撮る地元の氏子さん。「今日も頑張ったわね。ずいぶん大きくなったじゃないの。また明日見に来るわね」とジュースの差し入れをくれる地元のお母さん。ちょんちょんと触られ、振り返ると日曜日で学校がお休みなので来てくれた浅草小の小学生。そして、会話を交わすまではいかないが、興味を持ってくれた人は、立ち止まって見上げ眺めたり、奥の風景と重ねて見たり、編んでいる手元を観察したり、写真を撮ったり、それぞれにそらあみを楽しんでくれていた。

 

通りがかる多くの人が看板に書かれた作品タイトルを見て「“そらあみ”って言うんだって」と“そらあみ”という言葉を声にして読んでいる。平仮名なので、小さな人も大きな人も声に出して読む。彼らの記憶に乗って、“そらあみ”という言葉と風景が、世界中のそれぞれの地方に旅立っていくイメージが浮かんだ。

 

そして浅草の更に面白い所は、酔っぱらいがやってくるという所にある。暖かい日曜となると、昼から飲みはじめる人も多いようで、少し顔を赤らめ、皆なんだか楽しそうである。地元の方から紹介された煮込みが有名な店の牛メシを食べに、屋台街に昼ご飯を食べに行ったのだが、その雰囲気に思わずビールを注文しそうになるくらい、暖かく良い雰囲気だった。

 

そらあみの現場にも、ワインボトルを片手にぐびぐびやっているおっちゃんがやってきた。「おう!あんたが五十嵐さんかい。これはいいよ。浅草の人はみんなこれ見て“うん”と言うよ。浅草のやつには分かるよ、だってこれ網だもん。三社さんのってな。みんな網好きだからな。もともと浅草は僻地の漁村だよ。だからみんな元々漁師みたいなもんだ。網は西からやってきた。分かるか?瀬戸内海からやってきたんだよ。瀬戸内海は大陸の文化が来るからよ。だから瀬戸内海でやるときは、しっかり頭を下げるんだよ。な?」

 

このおっちゃんが、このあと自分が瀬戸内海の島で、そらあみをすることを知っているわけがない。酔っぱらいは不思議なものである。でも、瀬戸内海でやるときは、しっかり頭を下げようと思う。

そらあみ常連のらいとくん。七五三おめでとう!七五三でも、いつも通り編み針に紐を巻いてくれました

座敷踊りの江戸文化「かっぽれ」の方々が踊りの奉納に来ました。

そらあみの前で七五三の家族写真

一編みすると、健やかな成長と良縁のご利益があるそうです。笑。

さらに延ばしていきます