カイコウラ24日目。ニュージランド、カイコウラの空に〈そらあみ〉が上がった。今回、使用した5つの色、青、緑、黒、赤、白はカイコウラでのリサーチを通じて選んだものである。青はカイコウラに広がる冷たい海の色。緑はカイコウラを包む静かな山の色。そして、黒、赤、白の3色はマオリ文化にまつわる色を意味している。黒は全ての創造のはじまりである闇の色。赤は種・誕生を意味する命の色。白は調和・純粋さ・成長を意味する光の色。この5色の糸が、マオリの人、ヨーロッパ系の人、アジア系の人といった地元の人たちと偶然に出会った旅行者たちの手によって約1ヶ月かけて編み上げられ、カイコウラの風景を捉えた。
〈そらあみ〉を眺めながら、地元の人が語りかけてきた。「おめでとう。よく見ろ。〈そらあみ〉のまわりに広がる、この海と山の風景こそ、まさにカイコウラを象徴する風景だ。本当に美しい、、、ありがとう」自然と握手を交わした。旅行者にとってはカイコウラの魅力に出会う入り口として、地元の人にとっては自身が暮らす土地と文化を見つめ直すきっかけとして機能していると感じる出来事だった。
最終日、〈そらあみ-カイコウラ-〉はマオリの人たちより“祝福の儀式”を受ける。伝統的な彫刻の施された杖を持ったマオリ男性がマオリ語でのスピーチに続き、ハラキキという植物で編まれたカゴに入れた貝殻や植物を使って、言葉を唱えながら〈そらあみ〉に優しく触れ、何かお祓いをしてくれているような動きの後、最後は、下唇からアゴにかけて刺青の入った1人のマオリ女性の歌をきっかけに、みんなの声で歌が送られた。今回の滞在中に何度か耳にした歌だったので、自分も自然とみんなの声に自分の声を重ねるように歌った。言葉にするのが難しいくらい、非常に感動的な出来事だった。作品に対して祝福を受けたのは人生で初めての出来事で誇らしくも思えたが、それ以上にみんなの歌声が〈そらあみ〉に送られている状況に胸がじんわりとあたたかくなり、目頭が熱くなった。マオリの人たちが永い時間かけてカイコウラの自然と向き合い育んできた伝統と文化に〈そらあみ〉が祝福され受け入れてもらえたのだと感じた。
光を浴び、風にそよぎ、カイコウラの美しい海と山と空を捉え、この地の文化と共に〈そらあみ〉があった。
今回のニュージーランドでの仕事は、東日本大震災とニュージーランドの地震が繋いだもの。災害と恵みをもたらす自然と、人はどのように向き合っていくのか?これこそ文化の本質であり、アートの成すべき仕事である。自然環境も違うし体つきや考え方も違うのだから、自然との向き合い方として生まれる文化は当然違う。その違いこそ魅力である。しかし日本もニュージーランドも同時代を生きる者どうしがやるべきことは同じだ。古に学び、恊働を通じて未来へと創造する。今回、マオリ文化に出会い多くのヒントがあると感じることができた。とりわけ、声を重ね、歌を送り歌を受取る、まるで魂の交換のような歌のあり方が深く印象に残った旅となった。
地元の皆さんが設置に協力してくれました。
歓声と共に空に上がりました。
テンションが上がってみんな海に飛び込んで泳いでいます。笑
この1ヶ月を振り返ります。
この白い海岸の岩もカイコウラの特徴。
カイコウラの空と〈そらあみ〉
桟橋に設置されたキャプション。
そらあみ-カイコウラ-
祝福を受け、歌を受けとった〈そらあみ〉
朝日を浴びて
古に学び、恊働を通じて未来へと創造する。