海風開幕

どうにかこの日を迎えることができた。当日の朝まで一緒に走ってくれた仲間や、ボランティアサポーターの海風クルー、美術館のみなさん、施工の職人さんたち、各施設の関係者の方たちなど、関わってくださった、皆さんに心から感謝しています。

 

いろんな人と協働する日もあったし、1人孤独に制作する日もあった。1人で黙々と制作している時は、これまで46年のあいだに出会ったいろんな人の顔が浮かんできた。

 

とんでもなく大変だったし、とても楽しかったとも言える。個展は作家を成長させるという話を聞いたことがあるが、自分は成長には適度なプレッシャーが必要だと考えており、今回のそれは十二分な圧力だったように思う(笑)

 

しかし、まだ終わりではない。アートプロジェクトは生き物である。かつての海の上である埋立地に新たな文化をつくる展覧会「海風」は日々出会い変化し成長していく。

 

今日、辿り着けた風景がある。そして、ここからはじまる新しい風景を目指す。


いも太郎

 7月13日に開幕する展覧会「海風」に向けて、打ち合わせや制作などで毎日、千葉県立美術館に通っている。自宅も美術館も50年前につくられた、いわゆる埋立地に立っている。今回の展覧会のテーマは「かつての海の上である埋立地に新たな文化をつくる」とした。

 では、文化はどのようにしてつくることができるのだろうか?20年近くお世話になっている太宰府天満宮の先代宮司は「未来の子どもたちにどんな風景を残したいか、思いを馳せることが大事。今は自分の目の前のことしか見えていない人が多い時代だからこそ、尚更に思いを馳せることが重要」とおっしゃっていた。

 私はアートには人の心を動かす力があると考えている。そしてその本質は人と自然の関わりの術と捉えている。では人工物である埋立地に、人と自然の関わりはないのだろうか?この展覧会を機に、これまでの自分を振り返ってみると、残したい風景を探して遠くの豊かな自然や人との関係性を求めてずっと旅をしてきたのだと理解した。

 5月中旬、小学1年生の長女が公園で捕まえた芋虫を4匹連れて帰ってきた。大きさは4匹まちまちだが、全員「いも太郎」と名付けられた。いも太郎たちは毎日モリモリ葉っぱを食べる。すぐになくなってしまうので、餌取りの手伝いに公園のみかんの木まで連れていかれる。こんなところにみかんの木があったなんて!彼女はどうして知っているのだろう?「ここに、いも太郎がいたんだよ」と教えてくれる。私は彼女のおかげで自宅から一番近いみかんの木の場所を知った。

 ところがすぐに関心がなくなり、結局、妻が世話をすることになるのだが、「うんちの大きさが違う」とか「体の色が黒から緑に変わったよ!」とか、日々のいも太郎の変化をとても楽しそうに妻はみんなに伝え、時間があれば何かと虫かごを覗き込んでいた。

 いも太郎たちはそれぞれのタイミングで蛹になり、最初の1匹は夜に羽化し立派なアゲハチョウの姿を見せてくれた。長女がその姿を描く。「動いて見えにくいから持っていて」と頼まれ、終わるまで虫かごを見やすい位置で持つ助手を務めた。翌朝、ベランダから逃すと、手を離れ空に舞い上がった瞬間、大きな鳥がパクッと咥え飛び去ってしまった。「、、、いも太郎、絵にしておいてよかったね」「うん」。

 次に羽化した1匹は、花の蜜を吸うことなく死んだ1匹のようにならないよう、登校前に公園に連れていって花に乗せ逃した。「ちゃんと花の真ん中にしないと蜜が飲めないよ」と伝えると、「これ以上強く持って引っ張れない!羽、取れちゃいそう!」長女は指先でアゲハチョウの繊細さを感じ取っていた。無事に逃したあと、手についた鱗粉を気持ち悪そうに必死に払っていた。残りの2匹は蛹のまま死んだ。

 いも太郎たちと過ごした1ヶ月、我が家には自然のたくましさや残酷さなど、美しい瞬間がたくさんあり、その関わりの中にいた。残したい風景は、自然との関わりや、心を動かす出来事は、遠くの豊かな自然や暮らしにしかないのだろうか?

 この世界を楽しもうとする感受性と眼差しさえあれば、埋立地にも文化をつくっていくことはできるのではないだろうか。


くすかき二十二日目。くすのかきあげ。

くすかき二十二日目。くすかき最終日。朝6時半、境内に過去最高の80名の掻き手が集い、静寂に包まれた天神広場に樟の木漏れ日が注ぐ中、令和6年〈くすのかきあげ〉を無事に納めることができました。昨年は雨だったので、2年ぶりに気持ちの良い最終日となりました。

 

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朝5時、天神広場集合。暗い中、皆で落ち葉を移動。6時半、当日参加者含め、掻き手全員集合。7時、〈くすのかきあげ〉開始。9時、〈くすかき終了奉告祭〉催行。9時半、記念撮影と締めの挨拶。10時、落葉と柵の撤去。12時半、直会昼の部(15時、表彰式)。19時、直会夜の部(20時、スライドショー。20時半、上映会)。

 

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今年度の〈くすかき〉も無事に会期(令和6年3月23日〜4月13日)を終えることができました。15年という年を重ね 〈くすかき〉は太宰府の季節の風物詩と言っていただけるようになりました。

 

今年のくすかきを一言で振り返るなら「かわる」。まず、樟の木が変り年でした。通常、葉 枝 花 実の順で落ちてくるのですが、今年は葉と一緒に実が落ちました。15年間で初めてのことで、急変する自然環境の影響を意識しました。また、全体的に落ち葉のサイズが小さく、色味も薄い印象でした。毎年、観察を続けることで見えてくることがあります。

 

そして、担う役割が代わる年となりました。私が都合上、会期中10日ほど太宰府を離れた際、関係者がそれぞれに役割を担うことで、新しい〈くすかき〉の形が生まれました。〈日々のくすかき〉の集大成が、その年の最終日〈くすのかきあげ〉なので、当然その中での役割も、代替りしたような印象がありました。この先の50年、100年を想像すると、継承の第一歩として、記念すべき年となりました。

 

朝6時半からの〈日々のくすかき〉には連日30〜40名の参加があり、会期を通じての述べ参加人数は944名となりました。また、天神広場での〈日々のくすかき〉や鬼すべ堂での〈くすのこうたき〉だけでなく、山かげ亭での〈奉加帳のお礼の品の制作〉もプロジェクトを構成する重要な役割を担っており、中には制作のみの参加という方もおり、〈くすかき〉に関わる新しい入口として機能する様子に可能性を見出しました。

 

そして今年から新たな協力協賛が2つ加わってくれました。「森をツナグ」は疲れた心身の整体、「株式会社コリッコ」は雨の朝の新しい過ごし方を、それぞれご提供くださいました。その人らしく、その企業らしく、〈くすかき〉と関わる形を互いに楽しみながら育んでいく仲間がまた増えた年でもありました。

 

こうして、今年の春を振り返ると、人と人の関わりの成長とともに、〈くすかき〉というアートプロジェクトが、この先の10年、50年とじわじわと育っていく姿をイメージした年となりました。

 

〈くすかき〉

 

新芽に押されて落ちてくる
新芽の数だけ落ちてくる
千年樟のその場所で
千年分を掻いてみる
千年樟のその場所で
千年樟を描いてみる
去年が今年に生え変わる
その瞬間に落ちてくる
新芽に押されて朝がくる
新芽の数だけ朝がくる

 

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第15回「くすかき-太宰府天満宮-」
[会期]令和6年 3月23日(土)〜4月13日(土)
[会場]太宰府天満宮 境内
[行事]松葉ほうきつくり・くすかき成功祈願祭:会期初日 3月23日 開催
日々のくすかき:期間中 朝6時半より 土日のみ夕方16時からも 開催
くすのこうたき:期間中 毎週土日 開催
くすのかきあげ・くすかき終了奉告祭:会期最終日 4月15日 開催
[参加人数]893名
[奉加帳賛同者]175名/寄付総額440,000円

 

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くすのかきあげ各当番

[掻き出し]杉本八海
[水当番]五十嵐靖晃 黒野瑞姫
[新芽当番長]江藤実花
[赤ほうき]さくら/納戸繭子 江藤応樹 木下光之助
つつじ/納戸慶蔵 松村真紀子 石田美羽
ふじ/井原功介 飯冨彰明 岸摩衣華
[舟当番]納戸瑠輔
[門当番]佐藤信二
[太鼓]陽山英樹
[呼出]大里武史

 

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[特別協力]太宰府天満宮
[協力・協賛]株式会社中川政七商店/株式会社梅園菓子処/福田屋染物店/寿し栄/ありがとう農園/

森をツナグ/株式会社コリッコ/油機エンジニアリング株式会社//株式会社ムーンスター

[企画・監修]五十嵐靖晃
[プロジェクトマネジメント]米津いつか
[デザイン]河村美季
[映像]仲信達也
[写真]三迫太郎
[アシスタント]黒野瑞姫
[芳樟袋縫製]納戸繭子
[松葉ほうき制作]原口葵
[デジタルアーカイブ]須之内元洋
[スペシャルサンクス]太宰府のみなさん

 

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くすかき二十一日目。くすのかきあげ。

くすかき二十一日目。くすかき最終日。雨の朝6時半、境内に64名の掻き手が集い、朝の静かな絵馬堂にて令和5年〈くすのかきあげ〉を無事に納めることができました。14年目にして2度目の雨となった〈くすのかきあげ〉。2年前の初めての雨は“避けたい雨”でしたが、今年は“雨を迎える”ことができました。

 

〈日々のくすかき〉の集大成が、その年の〈くすのかきあげ〉です。今年は会期中に4回、雨で中止の日があり、雨には雨の〈くすかき〉があることを意識するようになりました。そこから、自分の都合通りにならなくても“それ以外”の時間をイメージし、向き合い、受け止めることの大切さを学びました。今の時代は特に“目の前の出来事以外を想像する力”が必要なのだと思います。

 

雨の朝は大抵、雨でも来てくれた人と絵馬堂でお話しをする時間を過ごしました。その時間が、晴れとはまた違った趣のある“新しい〈くすのかきあげ〉のかたち”の誕生につながりました。

 

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朝5時、天神広場集合。暗い中、雨音が響く絵馬堂を皆で設える。6時半、当日参加者含め、掻き手全員集合。7時、〈くすのかきあげ〉開始。9時、〈くすかき終了奉告祭〉催行。9時半、記念撮影と締めの挨拶。10時、絵馬堂片付け、落葉と柵の撤去。12時半、直会昼の部(15時、表彰式)。19時、直会夜の部(19時半、スライドショー。20時、上映会)。

 

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今年度の〈くすかき〉も無事に会期(令和5年3月25日〜4月15日)を終えることができました。14年という年を重ね 〈くすかき〉は太宰府の新たな春の風景になってきました。

 

今年のくすかきを一言で振り返るなら「迎える」。たくさんの人をお迎えし、余裕をもって春を迎えることができた年でした。

 

朝6時半からの〈日々のくすかき〉には連日40〜50名の参加があり、会期を通じての述べ参加人数は1054名となりました。参加者が多いと、向き合える樟の木の数が普段の石灯篭の3本から、絵馬堂前の2本、天満宮幼稚園前の1本、回廊の1本と増え、広く天神広場を〈くすかき〉することができました。すると当然、集まる葉っぱの量も増え、掻き山の大きさも過去最大となり、これまでにないような存在感が生まれました。また現場に余裕ができると、私自身が状況をより広く深く捉えることができるようになり、人に丁寧に伝える時間や新たな発見に出会う機会が増えました。特徴的だった出来事としては“雨”の可能性を広げることができたことです。

 

どんな物事に対しても“迎える”意識を持つことの大切さを知りました。よい準備をして、余裕をもって、その人を迎えにいくこと、春を迎えにいくことができることの豊かさを実感しました。でもそれは支えてくれる仲間がいるからできることに他なりません。14年の春を共につないできた、たくさんの一人一人に感謝しております。

 

そして、迎えることの大切さに気づけたことと同じくらい、うれしい出来事がありました。それは“直会の復活”です。新型コロナウイルスの影響で2020-2021-2022年と3年間オンライン開催だったので、3年ぶりにみんなで顔を合わせて、今年の〈くすかき〉を振り返った時間は本当に素晴らしいものでした。

 

12時半からの〈直会/昼の部〉には50名(内7名子ども)が参加。参加回数を集計発表し優秀者に賞品を贈呈した〈表彰式〉は賑やかに盛り上がりました。19時からの〈直会/夜の部〉には65名(内8名子ども)が参加。スライドショーや上映会に向き合うみんなの熱量は言葉に換えられないものでした。

 

そこには今年初参加の人もいて、地元太宰府の人はもちろん全国各地から集った人の姿もあり、それぞれがそれぞれに〈くすかき〉を通じて“この春の自分を確認する時間”になっていました。そこには、うれしさも悔しさも、労いも反省も、各自ありました。でもこの時間こそが、それぞれに“次の自分へと向かう最初の一歩”となります。自分1人ではこの場は決して生まれません。自分1人ではこの自分に出会えません。

 

こうして、みんなと一緒に次なる春を迎えるために、次なる自分へと向かえることに、心から感謝しております。本当に良い春でした。

 

〈くすかき〉

 

新芽に押されて落ちてくる

新芽の数だけ落ちてくる

 

千年樟のその場所で

千年分を掻いてみる

 

千年樟のその場所で

千年樟を描いてみる

 

去年が今年に生え変わる

その瞬間に落ちてくる

 

新芽に押されて朝がくる

新芽の数だけ朝がくる

 

五十嵐靖晃

 

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第14回「くすかき-太宰府天満宮-」

[会期]令和5年 3月25日(土)〜4月15日(土)

[会場]太宰府天満宮 境内

[行事]くすかき成功祈願祭:会期初日 3月25日 開催

日々のくすかき:期間中 朝6時半より 土日のみ夕方16時からも 開催

くすのこうたき:期間中 毎週土日 開催

くすのかきあげ・くすかき終了奉告祭:会期最終日 4月15日 開催

[参加人数]944名

[奉加帳賛同者]169名

 

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くすのかきあげ各当番

[掻き出し]五十嵐靖晃

[水当番]木下光敏 佐藤真理

[新芽当番]納戸瑠輔

[赤ほうき]さくら/黒野瑞姫 納戸繭子 江藤幹太

つつじ/納戸慶蔵 井原ひかる 天賀來星

ふじ/井原功介 松村真紀子 杉本八海

[舟当番]江藤幹太

[門当番]佐藤信二

[太鼓当番]陽山英樹

[進行]江藤応樹

 

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[特別協力]太宰府天満宮

[協力・協賛]株式会社中川政七商店/株式会社梅園菓子処/福田屋染物店/寿し栄/

油機エンジニアリング株式会社/ありがとう農園/株式会社ムーンスター

[企画・監修]五十嵐靖晃

[プロジェクトマネジメント]米津いつか

[デザイン]河村美季

[映像]仲信達也

[写真]三迫太郎

[アシスタント]黒野瑞姫

[芳樟袋縫製]納戸繭子

[松葉ほうき制作]原口葵

[デジタルアーカイブ]須之内元洋

[スペシャルサンクス]太宰府のみなさん

 

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雨の〈くすのかきあげ〉。松葉ほうきを上に向けているのは、今日は掻かないというメッセージでもある。

 

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【くすの葉と振り返る】[全員]※今年の落ち葉は去年の若葉。自分の拾ったくすの葉を手に一年を振り返る。

 

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【くすの葉替え】[全員]※同じ干支の人と自分の葉っぱを、去年がどんな年だったかをお互いに話しながら交換する。

 

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【くすの葉、舟に乗る】[全員]※干支の順で入れ替わりながら大樟香舟に一礼してから、くすの葉を乗せる。

 

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みんなの一年が舟に乗っていく。

 

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【くすの香り、舟に乗る】[舟当番]舟当番が大樟香舟をつくる。そのあいだに全員で干支順に並んで輪になり海原をつくる。

 

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【くすの香り、海原を渡る】[全員][舟当番]※舟当番が子年の手のひらに大樟香舟を乗せ、受けとった人は隣の人に受け渡しながら、人の手の海原を渡る。

 

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どんぶらこっこ、どんぶらこっこ。大樟香舟は今年の春の香りを乗せて、人の手の海原を渡っていきます。未年で転覆しかけました(笑)

 

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今年の樟の葉の香り(去年の記憶の結晶)も楽しみながら。

 

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亥年の最後の手のひらまで到着したら、太鼓の合図で舟当番が一礼して吊り上げて台に乗せる。(拍手)

 

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令和五年の大樟香舟。

 

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連なる松葉ほうきは波のイメージでインスタレーションしました。

 

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くすかき終了奉告祭へ向かう。

 

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諸々を終えて、最後の連絡。

 

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掻き山の葉っぱは、今年も「ありがとう農園」の田んぼに鋤きこまれます。

 

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雨も上がって、最後はすっきり。

 

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直会のワンシーン。豊かな時間。

 

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翌日はお礼の品の発送作業。全国から寄付してくださったみなさんに太宰府からの春の香りをお届けします。

 

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仮殿建設中の珍しい風景。

 

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いつもの場所に戻ったけど、この春の分、何かが変わった。14年目の春を迎えることができました。


くすかき二十日目。どこでもないどこか。

くすかき二十日目。6:30〜〈日々のくすかき〉(参加者33人)。10:00-18:00〈山かげ亭での制作・直会準備・柵設置〉(参加者22人)。

 

昼から雨。天気予報では明日も一日中雨。どうやら今年の〈くすのかきあげ〉は雨になりそうだ。

 

東京、大阪、新潟、大分、宮崎、鹿児島など全国各地から、明日〈くすかき〉最終日に行われる〈くすのかきあげ〉に向けて人が集ってきている。地元太宰府、福岡のみんなの緊張感やドキドキワクワク感も伝わってくる。

 

各地の人とこの地の人が混ざることで、ここが“どこでもないどこか”になっている。

 

明日はいよいよ令和5年の“かき(掻き・描き)あげ”です。

 

“どこでもないどこか”から“目には見えないもの”を描き出す、年に一度の朝が来ます。

 

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昼から雨予報なので、今朝で掻き納め。

 

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今年は松葉ほうきを持つ日が少なかった。それだけ、参加者が増えて自分はまた少し広い視野でこの場にいることができました。

 

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ここはいつしか掻き手たちのあいだで“聖域”と呼ばれるようになりました。会期終盤の場と向き合う緊張感は見ていて気持ちがよいです。

 

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掻き山の大きさと存在感がピークを迎えました。高さは1.3m程度になります。内側に積層された葉の密度と、キリッと立った頂きが見るものを圧倒します。

 

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朝7:30、もうすでに怪しい空模様。

 

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令和五年の整った場と、令和五年の掻き山と、令和五年の樟若葉と。

 

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雨の中、約10名が集ってくださったので、17:00-18:00の短時間で無事に柵設置完了。

 

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明日の直会での上映会に向けて、映像編集作業も佳境を迎えております。

 

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制作チームもラストスパート!

 

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明日の直会の準備もバッチリです!ほんとこれらの写真にはおさまっていない、素晴らしい仲間たちがいて、誰1人欠けても今年の〈くすかき〉にはなっていない。毎年違う、人と自然が織りなす“今年の〈くすかき〉のかたち”が本当に面白い。


くすかき十九日目。寒さで体は縮こまる。それでも感覚は若葉のように開いていく。

くすかき十九日目。6:30〜〈日々のくすかき〉(参加者36人)。10:00-16:00〈山かげ亭での制作〉(参加者3人)。最低気温6度、最高気温24度。冷え込んだ朝。かなり寒く感じた。

 

寒いと体は縮こまる。それでも感覚は若葉のように開いていく。ここは人の五感を開く土地。

 

自分は2006年に太宰府に出会った。その前の年、2005年は太平洋航海をしており海の上にいた。水平線だけが広がる世界にいると、刺激が少ないせいか人の感覚は開いていく。逆に都市部に行くと開いたままの感覚でいると強すぎる刺激に耐えられないため、無意識で感覚を閉じていることを知った。自分を守るために身体が自然と行っていることなど、それまで知る由もなかった。

 

朝の境内にいると海の上を思い出す。古代、油分が多く水をはじき虫がつきにくい特性から樟が丸木舟として大陸行き交っていたからだろうか。神道に於いて、神様が天上と地上を行き来する時に乗られた鳥磐櫲樟船櫲(とりのいわくすふね)だからだろうか。樟はまるで船のようだ。

 

ここは人の五感を開く土地。朝の光に包まれ、静寂の中、若葉が風で揺れる音がしている。

 

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朝6:30。気温6度の半ズボンコンビ。6:20に目が覚めて走って来たとのこと。ふくらはぎに若さが弾けている。

 

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今までで一番うまくできたかも!とのこと

 

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朝の光に包まれ、静寂の中、若葉が風で揺れる音がしている。

 

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軍手を洗って干していると、まだ終わっていないのにすでに来年をイメージしている。

 

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昇華で現れた樟脳の結晶。今年一番大きい結晶とのことです。葉脈みたいです。


くすかき十八日目。〈くすかき〉は縁をつなぐ。

くすかき十八日目。6:30〜〈日々のくすかき〉(雨のため中止)。10:00-16:00〈山かげ亭での制作〉(参加者11人)。9:30-15:30〈水蒸気蒸留装置の解体と洗浄〉(参加者4人)。最低気温10度、最高気温19度。

 

人との出会いには意味がある。〈くすかき〉をしているとそう感じる。14年続けていると、本当にいろんな出会いがある。基本的に自分の意志で、1人でやってくる人しかいないので、やらされている人は1人もいない。故に〈くすかき〉には気持ちの良い人しかいない。個性はそれぞれに強烈にあるのでキャラクターは濃い人ばかり、しかも毎年新たな人が登場するので飽きることはないし、毎年出会う仲間も毎春リセットする感があるので新鮮な気持ちで出会い直すようなところがある。

 

その年に集った人がそれぞれにできることをする。それでその年の〈くすかき〉が形になる。14年の出会いのかたちが、今の〈くすかき〉そのものだ。そこにはたくさんの人の人生がある。だから楽しくて仕方がない。人と樟を重ね、成長や変化をともにすることができるのは本当に豊かなことだと思う。

 

昨年(2022年)の5月、〈くすかき〉がきっかけで静岡から太宰府に引っ越して来た人がいる。初参加は2015年。9年目の〈くすかき〉は太宰府住民として迎えた。出会った頃より明らかに、いい顔をしている。

 

〈くすかき〉は縁をつなぐ。

 

最終日4/15〈くすのかきあげ〉まで残り3日。雨予報の天気は気になるところだが、楽しみしかない。

 

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今年は雨で中止は4回目。それでも今朝も3人が集い絵馬堂で話をした。

 

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まずまずの落葉。

 

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9時には晴れて、水蒸気蒸留装置の解体と清掃作業。

 

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頼もしい背中。

 

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一番大変なところで加勢してくれる。

 

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来年に向けて準備万端整いました。道具には魂が宿ると感じています。

 

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山かげ亭では昇華がはじまりました。純度100%の樟脳の結晶。葉っぱの記憶が宿っているかのような結晶の形に毎年息をのむ。

 

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芳樟袋のこより札も手作りです。この豊かさがちゃんと届く関係性を広げていきたい。


くすかき十七日目。くすの木にはそれぞれ性格がある。

くすかき十七日目。6:30〜〈日々のくすかき〉(参加者29人)。10:00-16:00〈山かげ亭での制作〉(参加者9人)。最低気温12度、最高気温24度。

 

樟の木の一本一本に個体差がある。個体差と言うより、性格の違いと言った方がしっくりくる。観察をしていると木によって落とす葉の色や形の違いがあることに気づく。

 

そして14年目と17日目の今日、新たに気がついたことがある。それは、葉っぱを落とすタイミングも、一本一本違うのだ。早く落とす木もあれば、ゆっくりな木もある。ほぼ気温や風、日照時間、同じ自然条件でも違っている。いったいなぜだろう?それはまるで性格の違いのようである。

 

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奥の樟はほぼ若葉に入れ代わった。すぐとなりの手前の樟はまだ若葉も小さく、これから落ちてくる葉がたくさんついている。

 

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通学前の〈くすかき〉。

 

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人にも性格があるように、樟にも性格がある。

 

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芳樟袋に入れる樟の葉。天満宮幼稚園前が適したサイズのものが多い。

 

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境内最高齢、樹齢1500年の大樟はもう花芽が出ている。


くすかき十六日目。今年最後の樟脳回収。

くすかき十六日目。月曜日の6:30、〈くすかき〉はお休みの日だが、樟脳回収のみ行った。今年最後の樟脳回収。

 

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今年の樟脳は油分が多く、ネバネバしているものが多く採れている。匂いは間違いなく樟脳。

 

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ホースにもけっこう樟脳が結晶化して詰まっている。

 

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時を超えている。

 

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樟若葉と袴の朱のコントラストも美しい。


くすかき十五日目。移ろいが少ないと早く感じる。

くすかき十五日目。6:30〜〈日々のくすかき〉(参加者39人)。10:00-15:00〈くすのこうたき〉(参加者24人)。16:00〜〈日々のくすかき〉(参加者24人)。最低気温7度、最高気温19度。

 

桜が終わり、ツツジが咲きはじめ、藤は花芽を膨らませています。虫たちが動き出し、それを食べる鳥もここ数日で増えて、樟に限らず生命が爆発しています。全22日間の会期も残すところあと7日。はじまるとすぐに終わりがくる。樟の落葉や花の開花に移ろいが少ないせいか、特に今年は早く感じる。

 

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朝日の影がのびる。

 

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掻き山の頂点にこだわる2人。

 

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今朝の掻き山は、いつにも増して先っちょが尖って美しい三角錐。

 

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樟脳回収。あれ?!ない!!!

 

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回収タンクではなく蒸留装置の方で結晶化していました。うまく水蒸気が回収タンクまで流れていないようだ。

 

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樟脳の収穫量は問題なしです。

 

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人生初の薪割り体験。やりながら少しずつかたちになっていきます。

 

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新兵器「ゾウさん」すごすぎる。

 

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友とともに炎に風を送る。

 

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夕方のくすかき。

 

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樟若葉のパワーがすごい。