芸術作品作っとるんじゃ

沙弥島滞在10日目。今日は瀬居島の西浦でのワークショップ。瀬居島にある3つの地区(竹浦・西浦・本浦)の中では、昨日の竹浦に続いて西浦は2つ目になる。ワークショップを開催する島と地域は、沙弥島・瀬居島(竹浦・西浦・本浦)・与島・岩黒島・櫃石島の全部で7カ所。まだ1回目のワークショップをしていない地域は、残す所、与島(2月7日予定)と本浦(2月8日予定)の2カ所のみ。

 

進み具合はというと、想定よりも圧倒的に早い。それは参加者のほとんどの人が元々網を編めるからである。その参加者のほぼ全てを占めるのは漁師さんであり、島の人である。2月2日にワークショップをはじめてから今日を含めると4日間で70人以上の漁師さんと網を編んできた。そう考えると当然のことなのかもしれない。とはいえ、毎日、漁師さんには驚かされている。

 

漁師さんは強面でぶっきらぼうでどこか怖いイメージもあるが、実際に一緒に時間を過ごすと、愉快で、ひょうきんで、真面目で、やさしい。真剣であること、状況を楽しむこと、といったことに慣れているのは、巨大な自然である“海”という存在と、日々向き合って生きているからなのだろう。

 

仕事で網を使っている方々に対して、変な言い方だが、柔軟さと真面目さを併せ持ち、個性的で冗談が好きな漁師さんの性分は、DNAがそうさせるのか、集って網を編むことに適している。現在は、皆ではじめから網を編むようなことはないのだが、漁師さんが集って編むと、その場はとても良い雰囲気になる。きっと遥か昔も同じような雰囲気の中で網を編んでいたのだろう。今この現場に来れば、かつての漁村や浜辺の風景に想いを馳せることができる。

 

そして今日、西浦では更にいろいろ驚かされた。集ったのは20人の漁師さん。13時から17時、4時間編んで、なんと長さ5mの網が12反もできたのである。広げると5m×8mくらいの網が出来上がったことになる。一般の参加者が編んだら4・5日かかる仕事量である。2時間経過した15時の時点でいったん終わりにしましょうか、と声がけしたのだが、昨日の竹浦と同様に、やっとコツもつかんで、手も慣れて乗ってきたし、もう腰は動かんぞ、このままやってしまおうということになった。結果それだけの量が編み上がった。半日で編んだ量としては過去最高である。

 

さらに、新たな動きとして気づいたことがある。編んでいる時の漁師さん達の会話から推測するに、島と島、地区と地区それぞれに知り合いがおり、どうやら他の地区からの噂が届いているらしく、櫃石島はどうだったとか、竹浦は昨日17時まで編んで今日もやってるらしいとか、あそこの結びは“かえるまた”らしいけど、ここは“ほんまた”だとか、あそこの島は何人集まって何反編んだとか、だいぶ他の島のことを意識しはじめている。島どうしの競争心のようなものが生まれている。

 

考えてみれば、同業者であるが故に島と島は歴史的に見てもライバル関係にある。それは網を編むことでも同じなのである。そらあみはそうして編まれた網を1つに繋ごうというのである。網で5つの島が1つになるのである。

 

島どうしの競争心で言うと、網目の美しさや完成度までその意識は向きはじめている。そらあみワークショップの現場を通して、漁師さん達の中に、網づくりに対する美意識が生まれてきているのが面白い。それまでは、仕事の道具でしかなかった漁網の見え方が漁師さん達の中で変わってきているのである。

 

今日も「おまえ、すき方(編み方)が上手いな」とか「ぜんぜん目がおうとらん(合ってない)やないか」とか「次は何色にする?」「白の次に黒はいかんやろ、赤にしよ、めでたいしな、俺ももう芸術家やな」とか「こうして、いろんな色で編んでいるだけで、もう綺麗やな」といった具合の会話が展開していた。しまいには、1人の漁師さんに電話がかかってきて、網を編む皆の前で、にこにこしながら「おう、今な、芸術作品つくっとるんや」と嬉しそうに自慢げに話をしていた。半分冗談のような言い方でも、編んでいることと美意識への目覚めは事実である。

 

「網ってこうして編んでみるとおもしろいもんやな」「この技術覚えとけば役に立つしな、この年でも勉強になったわ」「次に芸術祭する時には、五十嵐さんがおらんでも、俺らで勝手にやってるかもしれんな(笑)」という嬉しい声も上がった。

 

今日、瀬居島の西浦で一番最初に5mを編み上げたのは、皆に“おっさん”と呼ばれている現役バリバリの87歳の漁師さんであった。当然、今も船で海に出ている。“おっさん”からすれば集った漁師は全員後輩である。“おっさん”は自分の分を編み上げると、一人一人の手元を見てまわって、編み方の指導をしたり、上手く編めていない箇所の修正をしたり自然と指導役をやっていた。集った40〜60代くらいの漁師さん達からは「おっさんすごいな」「やっぱ、おっさんの編み方の方が進むの早いわ」との声があがっていた。

 

そらあみは、そんな途絶えそうな“手で網を編む”という技術が漁師から漁師へ伝承される現場でもある。

 

今、塩飽の海の漁師の間に、網を編み、競争心が芽ばえ、美意識が生まれている。

西浦公民館の前にあった神社。信仰の対象は岩。海に生きる人々は岩や山といった動かないものを目印とし信仰の対象とする。

最初の話はいつもあまり興味を持ってもらえない(笑)。みなさん網を編む方が興味があります。

漁師から漁師へ

考えるよりもまずは編んでみる。全員が、とりあえず編めるというのがすごいことである。

あたたかくも、迫力の風景

編むリズムが乗ってくると沈黙が広がります

最初に5m編み上げたのは、87歳の現役漁師

教える漁師と教わる漁師

ん?もしもし?今な、芸術作品つくっとるんじゃ

初日で繋ぎはじめたのは西浦が最初。隣りどうしの反物を編んでいます。