ブラジル8日目。今日から3日間SUAPEという海沿いの小さな町の漁師に弟子入りする。朝6時半、バスに乗ってRODOVIARIA(ホドビアリア)という駅に行き、アンダーソンと再会。アンダーソンにはフェルナンドと直接会って顔をつないでもらうところまでお願いしてある(一昨日はフェルナンドには会えなかった)。なので、今日もレシフェ市内からSUAPEまで2人旅。一昨日は電車とバスを乗り継いで2時間〜3時間かかった。行き方も覚えたし、時間がかかりすぎるということで、今日のアンダーソンはバイクで登場。渋滞の影響を受けず、待ち時間もないバイクなら1時間半で行ける。とアンダーソンは言う。ヘルメットをかぶり2人乗りでブラジルの悪道を南へと向かった。行き交う車をすり抜け、凸凹道を越える時は自ずと車体を掴む手に力がこもった。途中ガソリンスタンドで休憩し、大西洋が見えるとアンダーソンが以前に彼女と来て幸せな思い出があるという岬に立ち寄り、赤い大地の先にエメラルドグリーンの遥かな大西洋が広がる風景をアンダーソンの思い出と共に堪能。ブラジルでのバイクの2人乗りに慣れた頃にSUAPEに到着。
町の入口にバイクを止めると、大きな男が現れた。Fernando(フェルナンド)だった。握手をして挨拶を交わす。なんだか温かい海に居着いた四角い白クマのような印象である。アンダーソンの仕事はここまで。「チャオ」と言って去っていった。あっさり帰ってしまったので少し驚いたが、残っていても仕方がないので、賢明な判断だろう。
そのままフェルナンドの家へ。フェルナンドも漁師だが、一昨日見た素朴なラマルティーニの家とはちょっと違うようだ。家の雰囲気が独特である。ヤシの実の殻を器にした蘭(らん)をたくさん吊るして育てていたり、乾燥した魚の尾びれがモビールのように吊るしてあったり、部屋の真ん中にハンモックが吊るしてあったり、奥には洗濯物が吊るしてあったり、家の第一印象としては、とにかくいろいろ吊るしてある家である。家を囲む大きな木々はパパイヤやマンゴーなどといった食べられるものが多く、彼が育てている。屋根に登るハシゴがあり、上がると海が見える。そんなちょっと変わった家はフェルナンドの手作り。そして、「ここを使っていいよ」と、一部屋を自分のために用意してくれていた。全体は薄暗く、壁と屋根の隙間から光が差している。窓はない。大きなベッドが1つ、低い木の机が1つ、壁には大きな波にサーフィンをしている色が暗くて不気味な絵が壁面を埋めるようにかかっている。一部屋自由に使えるのはありがたい。が、蚊が半端でなく多い。足元を見ると既に5匹はくらいついている。さっそく虫除けを塗る。
部屋に荷物を置くと、フェルナンドはすぐに話をはじめた。自分のルーツやブラジルや南米のルーツ、自分が最近考えていることや、宇宙のことまで、話は止まらない。途中から、ちょっとやばい感じの人かな?と思いはじめる。その間、フェルナンドは大きな体で小さなパソコンの前に座ってFacebookをしている。時折、電話が鳴ると話を止め、パソコンの前から離れハンモックに腰掛けながら電話で話をする。それの繰り返し。バイクの移動で疲れて弱気になっていたのもあるが、ここでの滞在で大丈夫だろうか?と不安になる。
一休みというか、ひとしきりフェルナンドの話を聞き終わると、お昼になったので、食材を買いにフェルナンドと一緒にSUAPEの町に出た。歩いていると皆がフェルナンドと挨拶を交わす。時折、フェルナンドは声をかけ、小さな子どもを笑わせ、軒下のベッドで横になり一日中通りを眺めている上半身裸の太ったおじいさんに「日本人が来たよ」と説明し、八百屋で値段の交渉をし、スーパーマーケットのレジのおじさんに「僕の友人だ」と言って紹介してくれた。町の人との関係性を見て、この人は大丈夫だ。と思った。そしてSUAPEは田舎の小さな良い町である。人との距離感が近く温かさが伝わってくる。
フェルナンドのイメージを例えるなら、映画バックトゥーザフューチャーのドクという博士に似ている。強烈に自分の話をする出会いにはたじろいだが、ちょっと変わってはいるものの、町のみんなに愛されているような印象である。
フェルナンド「今日はリラックスしよう。ナチュラルフードを作ってそれを食べよう。ブラジルのナチュラルフードは漁師の食事だよ。そして昼過ぎにラマルティーニが来るから、その時に明日の漁の話をしよう。」ということになった。
カボチャを煮てココナッツジュースを混ぜてつぶし、奇妙な粉をかける。ついていたカボチャの種を炒ってつまみにし、前菜のように間食する。その後、タマネギやジャガイモやロブスターを焼いて食べた。大きな身体で、キッチンに少し前屈みになって手際よく料理をする姿は愛らしく、見ていると思わずニヤけてしまう。自分はフェルナンドの料理の手伝いをした。これまでブラジルで食べた料理の中で1番美味しかった。フェルナンドは料理上手である。そして作って食べることが好きなのが見ていて分かった。彼が大好きなカシャーサと呼ばれるサトウキビの蒸留酒も登場し2人で乾杯。彼は大酒飲みでもある。でも身体が大きいせいか、ガンガン飲んでいるのに酔っぱらっているようには見えない。
食後、喉が乾いたらレモンジュースを作って飲む。水を入れたペットボトルにレモンを絞って入れるだけなのだがこれがまたスッキリとして旨い。「レモンは胃の調子を整えるから特別な果実なんだ」。「レモンを選ぶ時は目で見て輝いているものを選べ」と言われた。他にも、「タマネギは血をきれいにする」など、1つ1つの食材について解説してくれた。フェルナンドは本当によく話をする。ちなみに自分とフェルナンドは英語でやりとりしている。
夕方、ラマルティーニが訪ねてきた。一昨日ぶりの再会。握手を交わす。フェルナンドも含め3人で話をし、明日の朝7時に船で海へ出て漁をすることに決まった。
その後、「ついてこい」と言われたので、そのままフェルナンドの家を出て、ラマルティーニについていった。ポルトガル語しか話せないラマルティーニとポルトガル語が分からない自分との2人になると、ぱたりと静かになる。互いに伝えたいことはあるのだが、言葉が詰まって、、、目を合わせ、2人で笑ってうなずいて、あとでフェルナンドのいる所で話をしようかね。となる。
海沿いの森を抜けると、小さな湾の岸から離れた海の中ほどにいくつか船が錨を下ろして停泊してあった。ラマルティーニが指を差す。どうやら明日はその船で漁に出るようだ。白い船体に青い線が入り、真ん中にマストが立っている。長さは5mほどの小ぶりで良い感じの船である。
ラマルティーニが一言「マルージュ」。自分も船を指差して「マルージュ?」と聞き返す。ラマルティーニはうなずく。どうやら船の呼び名らしい。
次に再び森の中へ、木でできた柵の扉を開けて、誰かの敷地に入る。黄緑色の壁に青い柱に赤い屋根の家。ラマルティーニの長男の家だった。声をかけ、早速紹介してくれた。名前は「Lamartine Jr.(ラマルティーニジュニア)」。父親似ではなく、色白である。母親の血の影響だろうか。ブラジルはいろんな人種の混血だらけなので、色に例えるなら日本が単色ならブラジルはグラデーションの幅が広い。
漁の道具を色々見せてくれた。木でできた長さ2mほどのシンプルなオール。直径10㎝、長さ15㎝ほどのプラスチックの筒に糸を巻き、重しと釣り針だけを付けたシンプルな釣り道具。40㎝四方ほどのエンジンに2mくらいの長いシャフトの先にペラのついた船外機。どれも明日使うのだろう。そして、再び少し歩いて行った先には、大きな木に投網が吊るしてあった。おお!網だ!思わずテンションが上がる。まず、その木から吊るす保管方法に驚いた。近寄って結び目を確認する。やり方はほぼ同じだ。網の編み方は世界中同じと分かっていたけど、頭で分かっているのと実際に手にとり目で見て確認するのとは、やはり違う。自分の中で何かがちゃんとつながった気がした。これで言える「ブラジルは日本と同じ網の編み方だったよ」と、、、。
日が暮れていく中、森の中の同じ道を通って、フェルナンドの家に帰った。夜は3人で食事をし、軽くお酒も飲み(ラマルティーニは少し前にお酒をやめたそうだ)。フェルナンドはパソコンの前に座ってFacebookをしている。そして、ラマルティーニはどこからかロープを持ってきて、突然ロープワークレッスンがスタートした。見たことのない結び方を色々見せてくれ、大興奮。ラマルティーニはドヤ顔である。ロープを渡されるので挑戦しても、とても真似できない。それを繰り返すうちに眠くなり解散。「また明日」と握手をしてラマルティーニは家に帰っていった。
夜の会話で聞いて驚いたのは、なんとフェルナンドは60歳でラマルティーニは56歳ということだった。見た感じラマルティーニの方が年上かと思っていた。でもよく考えると、2人のポルトガル語での会話を観察していると、話を丸め込まれるようにフェルナンドに黙らされるラマルティーニの姿が何度かあった。歳の差の関係もあったし、性格も関係しているのだろう。
例えるならフェルナンドは大家さんといった感じ。もっと南のバイーア州という所の出身で30年前にSUAPEに来て、30年近く漁師をしている。2人の子どもを育て(2人はレシフェ市内で仕事をしている)、奥さんはすぐ隣りのビーチGAIBUに住んでいる(どうやら別居している)。今は現役の漁師は引退し、蘭を育てて出荷して収入を得て、時折、ラマルティーニと一緒に海に出るといった感じで、1人で暮らしているらしい。一方、ラマルティーニは現役の漁師で、しかも専門は海中に潜って銛で魚を突くスタイル。2人の息子がいる。GAIBUに家があり、奥さんとサーファーの次男と孫と一緒に住んでいる。船はSUAPEに停泊してある。今日分かった2人のことはこれくらい。
部屋に移動し、シャワーを浴びるが、水しか出ない。まあ仕方がないか、、、。ハフハフ言いながら水を浴び、ベッドに横になり蚊に刺されないようにシーツに包まり眠る。長い一日だった。
「お前はラッキーだ。初めてのブラジルで、ここに辿り着くやつはいない。ここは本当にいいところだからね」フェルナンドの言葉が頭に残っていた。
アンダーソンの愛車はHONDA。ブラジルのバイクではHONDAが1番とのこと。
アンダーソンが以前に彼女と来た思い出の地で、遥かな大西洋を望む。建物は昔の灯台。
かつての灯台は、コンドルの住処になっていました。
フェルナンドの家の屋上から見えるSUAPEの景色。
魚の尾びれのモビール。フェルナンドは思いつきでやってみたと言っていた。
電話がかかってくるとフェルナンドが必ず座るハンモック。
料理をするフェルナンド。
ラマルティーニの後を追いかけ、森を歩く。
ラマルティーニの長男。ラマルティーニジュニアと船のオール。
投網とラマルティーニ。投網はこんな風に木に吊るしてありました。
夜はラマルティーニのロープレッスン。難しすぎて真似できません。