くすかき二十二日目「くすのかきあげ」

くすかき二十二日目。くすかき最終日。早朝6時半、境内に62名の掻き手が集い、朝の美しい光と静寂の中、平成三十年「くすのかきあげ」を無事に奉納することができました。

 

朝5時、天神広場集合。夜明け前だが、二十二日間をかけて体はすっかり朝型になっていて問題ない。暗い中、皆で落ち葉を移動。6時半に当日参加者含め、掻き手全員が集合し、各当番長と流れを発表し、組み分け。7時〈くすのかきあげ〉開始。9時〈くすかき奉告祭〉催行。天神広場で記念撮影をして、女性陣は山かげ亭にて直会準備。男性陣は落葉と柵の撤去。12時半〈直会(昼の部)〉開始。15時半各賞の発表。17時〈直会(昼の部)〉終了。19時〈直会(夜の部)〉開始。20時〈平成三十年記録映像鑑賞〉。22時〈直会(夜の部)〉終了。その後、残った人で深夜まで直会は大盛況。昼の部は大人24名、子供14名。夜の部は大人36名、子供11名。述べ人数にして直会には85名が集いました。

 

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今年度の〈くすかき〉も無事に会期(平成三十年三月三十一日〜四月二十一日に開催)を終えることができました。九年目という年を重ね “朝の太宰府天満宮の過ごし方”として、新たな入口になりつつあります。

 

くすかき

 

〈くすかき〉は太宰府天満宮の樟の杜を舞台とした参加型アートプロジェクト。平成二十二年にスタートし今年で九回目を迎えました。

樟の杜は、毎年春になると、新芽が古葉を押し出して、一斉に葉を落とします。お宮の方々は幾世代にもわたって、その葉を掻いて、新芽を見上げ、樟の木と向き合ってきました。そんな境内の天神広場には、今日の樟の杜を形づくる巨大な木々と同様に長く大事にされてきた、樹齢千年ともいわれる一本の樟の木が存在しました。

〈くすかき〉は、この地で千年続く樟の落ち葉を“掻く”という毎日の行為を通して、人々が出会い、語らう場をつくり、会期最終日「くすのかきあげ」に集まった掻き手によって、かつて存在した千年樟の姿を“描き”出そうという試みです。それは“目には見えないもの”“見えないけれど大切なもの”を感じるという、日本人が元来持っている特有の感性のあり方を伝えていく、年に一度の出会いと再会の場となっています。

 

朝の太宰府天満宮

 

〈くすかき〉の会期は、樟の落葉時期に合わせるので、毎年決まって四月最初の三週間。毎朝六時半に境内に集まって約三十分ほど樟の落ち葉掻きをみんなで行います。今年の参加者は延べ人数にして八百二十八名。小さなお子さんから大人まで、地元太宰府の方を中心に、福岡市内や遠く東京からも参加がありました。地元の方は通学や通勤前に心と体を起こして清々しく一日をはじめる早起き習慣に、旅行者にとっては福岡・太宰府観光の新しい時間の過ごし方として好評です。

これだけたくさんの人を惹きつける魅力は朝の境内の特別な空間にあります。年間八百五十万人以上の参拝者が訪れる境内は朝九時にもなるとたくさんの人で賑わい“観光地”としての色味が強くなります。おそらく多くの人が知っている太宰府天満宮はこっちの姿でしょう。それとは逆に朝六時半の境内はまさに“聖地”。ここが神域であるということを体感することができます。

辺りは静寂に包まれ、冷んやりとした空気が、自然と背筋をピンと伸ばしてくれます。朝日を浴びた樟は、まだ薄く柔らかい若葉が光を通し白く輝き、太い幹の影と相まって神々しい光景を作り出します。千年以上、変わらずそこにある時空を超越した世界がそこには広がっていました。この凛とした場に身を置き、朝日を浴び、胸いっぱいに朝一番の新鮮な空気を吸う。この朝の境内という特別な時間に美しさを見出す人が増えてきています。

 

美は見出すもの

 

会期最終日に行われる「くすのかきあげ」は、三週間かけて集めた樟の落ち葉を使って、千年樟がかつて存在した場所に落葉風景をつくることで、その姿を一年に一度、その日の朝に想像してみようというもの。見えないものを想像するのは簡単なことではないのですが、それは見えない神様を想うように、見えないものを大切にする心と向き合う機会でもあります。日本人はこれまで、自然と人との調和の中に“神様”であり“美”を見出してきました。そう、神様と同様に美しさとは見出すものなのです。これは美しいもの、これは価値あるものといった形で、何かと解答しか提示されない現代社会ではありますが、本来は美しいモノやコトがあるのではなく、それをきっかけにして自分の中にある美しく感じる心、眼差しに出会うのです。いうなれば自分の中からしか“美”は見出すことはできないのです。

神様を想うこと、見えない樟を想像すること、その背景には、美しさを見出すという日本文化の本質があるのだと思います。

来年、〈くすかき〉は節目となる十年目を迎えます。若葉が芽吹き、虫たちが動きはじめる生命輝く樟の杜で、“見えないものを大切にする心”を、また次なる一年へとつなぎます。春の朝の境内で自分の中にある美に出会いに是非いらしてみてください。

 

 

〈くすかき〉

 

新芽に押されて落ちてくる

新芽の数だけ落ちてくる

 

千年樟のその場所で

千年分を掻いてみる

 

千年樟のその場所で

千年樟を描いてみる

 

去年が今年に生え変わる

その瞬間に落ちてくる

 

新芽に押されて朝がくる

新芽の数だけ朝がくる

 

五十嵐靖晃

 

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第九回「くすかき-太宰府天満宮-」

[会期]平成三十年 三月三十一日[土]〜四月二十一日[土]

[会場]太宰府天満宮 境内

[行事]くすかき成功祈願祭・松葉ほうきつくり:会期初日 三月三十一日 開催

日々のくすかき:期間中 早朝六時半より 土日のみ夕方四時からも 開催

くすのこうたき:期間中 毎週土日 開催

くすのかきあげ・くすかき奉告祭:会期最終日 四月二十一日 開催

[参加人数]八百二十八 名

[奉加帳賛同者]百十一 名

 

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くすのかきあげ各当番長

[掻き出し]五十嵐靖晃

[水当番]陽山英樹 川村知子

[新芽当番長]杉本九龍

[当番長]佐藤信二 米湊咲希 江藤応樹 杉本八海 大里武史

[副当番長]黒野瑞姫 井原功介 高木麻衣 上村隆一郎 米湊五郎

[舟当番]宮原陽菜

[太鼓当番]五十嵐靖晃

 

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早朝5時。まだ暗い中、かつて千年樟があった場所に落ち葉を広げて、落葉風景をつくります。

 

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〈葉っぱを落とす〉新芽になって古い葉を押し出します。子供たちの役割です。

 

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〈根っ子をつくる〉参加者全員で、根っ子の形を描き出します。

 

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まわりの樟をよく観察して、大きなコブをつくっています。

 

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今年の根っ子の形。毎年違うのが面白い。

 

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〈幹をつくる〉当番長と服当番長で、根っ子から幹へと形を変えていきます。

 

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今年の香り。芳樟袋に入った樟の葉と、樟香舟に入った樟脳。これも会期中にみんなで制作しました。

 

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〈香りを届ける〉香りを乗せた舟を舟当番が竿を使って、無事に掻き山の上に乗せることができました。未来に向けて荒波を越えていくかのような姿です。

 

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〈くすかき奉告祭〉御本殿にて、天神さまに今年の香りを無事に届けることができました。


くすかき二十一日目。舟当番の感性。

くすかき二十一日目。ほどよく冷え、清々しい晴天に恵まれた春らしい朝。朝のくすかきには大人17名、子供14名の合計31名が集った。明日は、くすかき最終日の“くすのかきあげ”が行われる。そのため、日中は連日の芳樟袋や樟香舟の制作に加え、前日準備として直会の買い出しから仕込み調理、柵設置などやることも多く、平日ではあるものの可能な限り集まってもらい、フル回転で“くすのかきあげ”に向けて動いた一日となった。

 

昨夜の当番長会議で今年の「舟当番」が決まった。舟当番というのは、くすのかきあげに於いて、“香を届ける”という場面で、一人で掻き山(葉っぱの山)の頂点に、その年の香りを乗せた大樟香舟(樟葉の匂い袋である芳樟袋や、樟脳を包んだ樟香舟などを乗せた舟)を届ける役割を担う。香を届ける場面は、くすのかきあげのクライマックスであり、その年のくすかきを象徴するようなもの。上手く乗るかどうか、これがなかなか緊張感がある。

 

その「舟当番」は、当番長会議によって決まる。その選考基準は“芽吹き度”で決まる。樟若葉のように、その年に最も芽吹いた人、最も成長したと思う人が選ばれる。いわば、年男や年女のような、その年の顔である。なので、大人も子供も関係なく、会議では名前が出る。

 

だが面白いことに、ほとんどの年が満場一致で子供に決まることが多い。この時、ほんとみんな良く見てるなぁと関心する。春を迎えた樟の微細な変化を観察するように、くすかきに集っている人の微細な変化を本当に良く観ているのだ。今年は、宮原陽菜(小学五年生)にすんなりと決まった。

 

今年は新たに、掻き手をまとめる当番長五名の内に中学生二人、米湊咲希と杉本八海が選ばれた。くすかきでは中学生以上は大人という扱いなので、認められれば役を担う。若く頼もしい存在である。

 

更に、当番長を補佐する副当番長に、静岡から毎年参加してくれている黒野瑞姫が選ばれた。推薦理由としては、まず今年はすごく頑張っているし、地元以外の人がこういった役割を担うことができるというのが、今後、新たに くすかきに関わってくる人にとって希望となる。というものだった。こういった意見が当番長会議で出てきたのも大きな収穫だった。

 

さて、舟当番に決まったことを、朝のくすかきで直接本人に伝えるのだが、これがなかなか伝えづらいもので、タイミングを計っていると、なんと本人から「そういえば、明日、くすのかきあげだよね。どんなことするんだっけ?」と逆に質問が!さすが今年の舟当番に選ばれただけのことはある。感度が違う。おかげですんなりと伝えることができた。

 

本人は「緊張する、、、舟が落ちたらどうしよう、、、」とのことだったが、「大丈夫。接着剤、つけとくけん(笑)」とまわりの大人が冗談混じりでサポートし、笑いが起きる。小さな男の子は「今年の舟当番は“陽菜”だってー!」と少し羨ましそうにみんなに知らせる。

 

役を担う人、そうでない人、いろんな人がいる。役割は違えど一人欠けても今年のくすかきはない。さて明日、どんな“くすのかきあげ”になるのか、平成最後の“くすのかきあげ”楽しみである。

 

 

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今年最後の朝のくすかき風景。

 

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葉っぱを掻いた後は、波打ち際のように見えます。

 

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柵の中にも良い緊張感があります。

 

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会期後半になって俄然やる気になってきた少年たち。

 

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朝日を背に枝取りします。彼らの中に、この朝の記憶が残るだろうか。

 

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縞模様を入れて場所を整えます。

 

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すっかり大きくなった掻き山。

 

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会期前半暖かい日が続いたので、後半の落葉量を心配したものの、まったくそんなこともなく、会期後半まで安定して落葉し続けました。見た感じはほぼ若葉に入れ代わりました。

 

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毎日使っている松葉ほうき。ピシッと紐でまとめて気持ちがいいです。

 

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毎日使っているチリトリ。きれいに並んで仲が良さそうです。

 

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明日にくすのかきあげを控えた掻き山。

 

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くすかきにはいろんな参加の入り口があります。日中の山かげ亭では、午前中に芳樟袋パッケージを折る作業をしました。生後数ヶ月の小さな人たちもいます。彼らもいずれは松葉ほうきを持って、くすかきデビューするのが楽しみです。

 

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お昼は作っていただき、みんなで美味しくいただきました。

 

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夕方、学校から山かげ亭に帰ってきて宿題をしています。宿題が終わらないと くすかきのお手伝いできません。いや、みんなと遊べません(笑)

 

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芳樟袋の制作作業も佳境を迎えました。奥では宿題をしています。

 

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台所では、明日の直会の準備中です。豚汁、おにぎり、餃子、唐揚げ、鍋、なんと50人前です!!!包丁まな板持参で来てくださった頼もしい女性陣に感謝!!!

 

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男性陣は柵設置無事に完了です。明日は早朝5時に集合し、ここに落葉風景をつくるところからはじまります。


くすかき二十日目。先輩は背中で語る。

くすかき二十日目。今朝も息が白くなるくらい冷えたが、清々しい晴天に恵まれ日中は気温が上がり、暖かく穏やかな日となった。朝のくすかきには大人17名、子供14名の合計31名が集った。日中は、山かげ亭(会期中の滞在先)で芳樟袋と樟香舟の制作。同時進行で樟脳の昇華作業を行った。

 

いつも通りに朝のくすかきへ。会期のはじめ暖かい日が多く落葉も多かったので、後半は落葉がなくなってしまうのではないかと言っていたが、まったくそんな心配をする必要はなく、今朝もたくさん落ちてきていた。

 

不思議なことに、ほとんどすべての落葉はこっちに向かって背中を向けていた。

 

風が強かったりすると裏表いろんな向きで落ちているのだが、風がほとんどなく自然に落ちると、なぜか樟の葉は空に向かって背中を見せる格好となる。

 

樟というのは譲葉(ゆずりは)で、新芽に押されるように落葉する。なので、その落葉は去年の若葉ということになる。いわば、落葉たちは、今年の若葉たちの一年先輩にあたるわけだ。

 

先輩たちは地面の上で背中を向けて、一年間の経験を何か語っているようにすら思える。しかし、一つ下の後輩である今年の若葉たちは、太陽に向かって上へ上へと成長し、まったく先輩たちの背中を見ようとしない。この状況がなんだか人間とよく似ている。

 

くすかきでは、日々、松葉ほうきを動かしながら地面の落葉を見つめ、時折、立ち止まって若葉を見上げる。足元にある落葉という過去が、今を生きる自分のまなざしを通じて、空にある若葉という未来へとつながっていることを、くすかきのみんなは知っている。

 

いよいよ明後日に迫った会期最終日のくすのかきあげ。三週間かけて集めた、落葉という過去から描き出す、かつて存在した千年樟の姿は、見えないけれど大切なものを大事にする、千年先の未来へとつながっている。

 

あと2回寝たら、くすのかきあげです。

 

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ほとんどの落葉が背中を向けています。

 

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一年間の経験を背中で語る先輩たち

 

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もうほとんど落ちてしまったかと思ったら、まだまだ落ちます。

 

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過去と現在と未来と

 

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大きな樟に抱かれて、朝日を浴びる彼らの影に時間を超えた世界を見た。

 

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葉っぱが落ちてくる場所を整える。

 

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あっというまに20日目を迎えました。朝のくすかきは明日が最後。

 

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山かげ亭にて。昇華で出来た樟脳の結晶を観察。

 

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見て、香って、触って。「…ほんと葉っぱみたい…どうしてこんな形の結晶になるんだろう?しかも、こんなにフワフワなんだね。知らないことだらけだよね」誰かが言った。確かにその通りで、毎年発見があるのが、このくすかきというものの魅力なのだろう。観察を通じて発見がある。ひとつひとつ、ひとりひとり、一日一日、ちゃんと向き合って、ゆっくり向き合って、自分の中と自分の外に、はじめて気がつくことがある。


くすかき十九日目。布団から出たくない朝は、落葉も少ない。

くすかき十九日目。今朝は少し冷えたが、晴天となり日中は気温が上がり、昼過ぎには体を動かすと半袖でもちょうどよいくらいの天候となった。朝のくすかきには大人13名、子供11名の合計24名が集った。日中は、鬼すべ堂にて水蒸気蒸留装置の解体、同時進行で山かげ亭(会期中の滞在先)で芳樟袋制作と樟脳の昇華作業を行った。

 

寒い朝のくすかき会話。

 

「今朝は冷えたねぇ」

「ほんと寒くて布団から出たくないよね」

「樟の葉っぱも一緒だろうね」

「そうだよね。寒い朝はあんまり落ちてないもんね」

 

“布団から出たくない朝は、落葉も少ない”←くすかきあるあるでした(笑)

 

あと3回寝たら、くすのかきあげです。

 

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今日の朝のくすかきは芳樟袋に入れる落葉拾いからスタート。

 

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袋に入るくらいの大きすぎない葉っぱを選びます。

 

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ほんのり赤味を帯びた樟葉と地面の関係が美しい

 

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斬新な変貌を遂げた くすかき参加カード。もはや日付は関係ないけれど、来た回数分の積み重ねた葉っぱはあります。

 

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どっしりとそこにある。

 

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恒例となった会期最終週の水曜日に行う水蒸気蒸留装置解体作業。

 

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やはり積み重ねた経験が違う。さすがです。磨き上げてピッカピカに!「仲間の背中を流すようなもんだからね」その一言に自分も釜を磨く手に力が入ります。

 

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解体中、樟脳の香りに連れられて、今年もアオスジアゲハがやってきました。樟の葉っぱを食べて育つ蝶です。

 

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道具たちはみんなきれいに磨かれて、すっきりとした表情。磨いた自分も気分がすっきり。また来年よろしくお願いします!

 

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鬼すべ堂の後ろの相撲場の藤棚が咲く頃に、毎年くすかきは会期の終わりを迎えます。

 

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くすかきで太宰府滞在中は、まるで週替わりで花が入れ替わっていきます。梅の咲き終わりにやってきて、桜が咲いて、ツツジが咲いて、藤が咲いて、会期を終えます。今年はツツジが遅くて、藤と一緒に咲いた年になりました。


くすかき十八日目。失われない記憶。

くすかき十八日目。今日の天気は、朝は曇っていたが、午後から雨となった。朝のくすかきには大人17名、子供15名の合計32名が集った。日中は、山かげ亭(会期中の滞在先)で芳樟袋制作と樟脳の昇華作業を行った。

 

昇華をすることで、樟の葉を水蒸気蒸留してとれた樟脳から不純物を取り除き、純度を100%にする。

 

昇華作業は、今日が初日。昇華をはじめると滞在先の空間が、あっというまに樟脳の香りに包まれる。この匂いに包まれると、いよいよ今年のくすかきも終わりが近づいて来たなと思う。

 

樟脳というものは、固体か気体か、そのどちらかの状態でしかいられない。液体の状態は存在しない。

 

この性質を利用して昇華をする。器に入れた樟脳を下から熱する。その器に氷水を入れた皿で蓋をする。すると、固体から気化した樟脳が皿の底に付着し結晶化する。器には不純物が残るといったやり方。

 

この皿の底で結晶化した純度100%の樟脳を見るのが毎年の楽しみでもある。

 

なんと、その結晶一つ一つが、不思議なことに葉っぱの葉脈のような形をしているのだ。

 

葉っぱだった頃の記憶が残っているのだろうか。

 

葉っぱから抽出され、気化して形を失っても、失なわれない記憶。

 

忘れなければ、もう一度、思い出すことができる。

 

思い出せれば、その人の中にあり続けることができる。

 

最終日に描き出す、かつて存在した千年樟も、一年に一度思いを馳せることで、我々の中にあり続ける。

 

最終日のくすのかきあげまで、あと四日。

 

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今朝の落葉は少しだけ。

 

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もう終わりかと思うけれど、まだ落ちそうです。薄い緑が若葉。濃い緑が古葉(去年の若葉)。

 

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いつか自分も、、、。

 

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タグづくり完了!ひたすらのこより、本当にお疲れさまでした!

 

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失われない記憶。

 

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昇華作業風景。1段目の皿の底で熱せられた樟脳が、2段目の皿の底で結晶化し、不純物のみ1段目の皿の底に残ります。

 

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芳樟袋にタグをとりつけていきます。


くすかき十七日目。樟脳回収五回目。

くすかき十七日目。本日、月曜日はくすかきは定休日なのだが、昨日のくすのこうたきで水蒸気蒸留した樟脳を回収するために朝六時半に来られる人だけ集まった。大人4人で今年最後の樟脳回収を行った。

 

結晶の粒は前回同様に大きく、収穫量は平均的な量。今年、全部で五回おこなった〈くすのこうたき〉は、全て平均上の量の樟脳を収穫することができた。

 

このあと、樟脳は昇華というプロセスを経て、不純物を取り除き、純度100パーセントとする。それを和紙でパッケージし樟香舟と名付けて、プロジェクトへ寄付してくれた方へのお礼の品として発送する。

 

さていよいよ、くすかき最終日のくすのかきあげまで、あと5日。

 

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最後の最後まで蓋を開けてみないと分からない樟脳の収穫量。結晶も大きくたくさんついていて安心しました。

 

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今年最後の樟脳回収。

 

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二つを合わせるとカップ一杯分。今年は五回全部、ちゃんと平均的な量を収穫できました。


くすかき十六日目。地面に広がる星空。

くすかき十六日目。今日は日曜日。朝のくすかきは雨のため中止。10時からのくすのこうたき(土日のみ)には大人14名、子供6名の合計20名。16時からの夕方のくすかき(土日のみ)は大人11名、子供14名の合計25名が集った。

 

朝目覚めると、雨音が聞こえていた。予報では7時頃には止むと出ている。朝のくすかきを中止するかどうか、判断が難しい。判断するポイントは葉っぱを掻いた時に泥が混ざるかどうかという点。ざんざん降りの雨なら判断を悩むこともないが、今朝のような雨は実際に現場に行って地面を見てみるしかない。

 

朝5:21天神広場に到着。小雨が降っている。辺りはまだ夜の暗さに包まれている。普段くすかきをしているあたりに目をやると、地面にいくつもの光る点を見た。まるで夜空の星のようだった。

 

よく見ると、樟の落ち葉が雨に濡れ、それに街灯の光が当たって反射していたのだとわかった。

 

雨の朝にこんな風景との出会いがあるなんて。やっぱり、そこに行ってみないと出会えないものがある。身体をさらすことで発見するものがある。

 

地面に広がる星空をしばらく眺めていた。

 

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朝5:21楼門前。地面で光る葉っぱの様子は暗すぎて写真に収めることができなかった。

 

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昨日、水蒸気蒸留した樟脳の回収。今年4回目の樟脳回収は結晶の粒が大きい!

 

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粒が大きいと落としやすく回収が難しいとのこと。集中して作業しています。

 

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今年最後のくすのこうたき(水蒸気蒸留)。これで5回目です。回収用タンクに水をかけて冷却中。

 

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空き時間にタケノコ掘り。大中小に極小まで。

 

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今年最後の薪割り。残りの薪を全て割っています。疲れ知らずの中学生。本当に頼もしい。

 

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砕けた葉っぱなど、細かなものも全てきれいに掃除して、燃やして終わります。

 

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夕方のくすかき。天気は午後には完全に回復し、半袖で過ごすような暖かい日差しとなりました。

 

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最後は地面に縞模様を入れて仕上げです。

 

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回廊の白と赤と黒。樟若葉の緑。空の青。春色のコントラスト。そしてくすかき参加カードを首から下げたまま、満面の笑みでピース。


くすかき十五日目。太宰府の朝を価値化する。

くすかき十五日目。今日は土曜日。朝のくすかきには大人20名、子供11名の合計31名。10時からのくすのこうたき(土日のみ)には大人15名、子供4名の合計19名。16時からの夕方のくすかき(土日のみ)は雨のため中止。17時から山かげ亭での芳樟袋制作作業には大人3名が集った1日だった。

 

今年のくすかきは、朝は平均して約30名くらいの人が参加してくれている。これは過去一番多い。そんな中には、くすかき目的の旅行者もいる。

 

今朝は、太宰府天満宮の近くにあるゲストハウス「阿蘇び心(あそびごころ)」のスタッフの方が、大阪からの観光客の方を連れてきてくれた。

 

ゲストハウスの方に話しを聞くと「去年とか、最終日のくすのかきあげに参加するために、うちに宿泊してくれた方とか何名かいましたよ。一人の方は博多の方に住んでいるのですが、くすかきは朝早いから太宰府に前日入りされたみたいです」

 

くすかき目的で太宰府に宿泊する人が出てきていることは、少ないとはいえ、正直にとてもうれしい。

 

その方たちは、くすかきをきっかけに太宰府天満宮の朝の時間を過ごしに来ている。

 

観光地として名高い太宰府天満宮は、9時頃には全国や世界各地からの観光客でいっぱいになる。平日も参道を行き交う人は途切れることなく、休日ともなれば、参道が人で埋まるように賑わっている。

 

多くの観光客は太宰府天満宮のこの姿にしか出会うことはできない。しかし、自分は最もこのお宮が美しい時間帯は朝だと感じ、その時間にくすかきをしている。

 

昼は観光地の顔をしているが、朝は聖地の顔をしているのだ。

 

静寂と、凛とした空気、そこにそそぐ神々しい朝日。混ざり気のない、荘厳な空間が広がっている。

 

太宰府天満宮近辺には宿泊施設がほとんどない。今は梅が枝餅屋さんとお土産屋さんがほとんどとなった参道両脇の店舗は、かつて全て宿だった。西郷隆盛や坂本龍馬も宿泊しに来ていたそうだ。参道に宿泊していた彼らは太宰府天満宮の朝を知っていただろう。

 

ここでの朝を過ごすと心身ともに元気になる。日本の未来を考えるにはもってこいの場所だろう。

 

これからは、太宰府天満宮の朝を過ごすことが価値ある体験になるに違いない。

 

9年間ずっとプロジェクトを支えてくれている太宰府天満宮。くすかきもその魅力を伝えるひとつのきっかけになれたら、こんなに嬉しいことはない。

 

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ゲストハウスの方と大阪からの観光客の方と地元太宰府の子供たち。普通の旅行ではなかなか地元の人と出会う機会も、ましてや一緒に作業をして交流する機会もありません。でもこれが一番心に残る太宰府との出会い方なのだと思います。

 

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鬼すべ堂でくすのこうたき(水蒸気蒸留)を行いました。まずは樟葉を細かく砕きます。

 

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静岡から参加してくれているプロジェクトスタッフ。人生初の薪割りです。苦戦しながらもみんなに教えてもらって、ちゃんと割れました!

 

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水蒸気蒸留装置の火の管理をする小学新二年生。その背中にはもう風格が漂っている(笑)

 

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奥の銀筒に砕いた樟葉が入っており、下で湯を沸かして水蒸気が発生させ、熱で溶け出した樟脳成分と一緒に管を通って手前のタンクに押し出します。冷やされて水蒸気は水に樟脳成分は樟脳に結晶化します。

 

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水滴の表面に白く見えるのが樟脳です。

 

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あたりに樟の匂いが漂っています。

 

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水蒸気蒸留装置の窯で焼く、恒例の焼き芋。

 

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たいへんだー!小学生が叫ぶ!火力が上がってタンクのビニールが水蒸気でパンパンに!みんなで水をかけて冷却して一安心。

 

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一安心したら、ちょうど芋が焼けました。

 

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最高の焼け具合。みんなで食べると美味いです。

 

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夕方のくすかきは雨のため中止。


くすかき十四日目。四年越しの参加。

くすかき十四日目。朝のくすかきには大人20名、子供15名の合計35名が集った。日中は、山かげ亭(会期中の滞在先)で芳樟袋制作ワークショップを大人10名、子供3名で行った。

 

今日はうれしい参加があった。その方は東京から来てくれた。

 

参加のきっかけは四年前、東京にあるアーツ千代田3331というアートの発信拠点に行った際に、くすかきかわら版(ポスター型チラシのことで、手から手へ受け渡されていくメディアとなるイメージを込めて、こう呼んでいる)を見つけて、デザインもすごく気に入っていたし、内容にも興味があって、行ってみたいなぁと思い、なんと!それを四年間大事持っていたというのだ。

 

そして念願叶っての今日の参加となったとのことだった。

 

四年越しの参加。なんともくすかきらしく広報活動が実ったエピソードである。

 

ずっとこのくすかきかわら版をデザインしてくれているデザイナーを誇りに思う。デザイナーとは、大量に配布したりして捨てられるものではなく、少量でも確実に伝わって大事にずっと持っていてもらえるものにしようと常々話しをしている。それがちゃんと実った1つの出来事だった。

 

そして、そのかわら版を毎年戦略を立て、丁寧に足を運んで、人に会って話しをして、大切に広げていってくれている広報活動をしてくれている仲間とも、この出来事を一緒に喜びたい。

 

小さく、細く、長く、でも確実に、まるでまだ若い樟の木のように、このプロジェクトが伝わり、成長していっているということを実感した朝だった。

 

「くすかきに来てよかった。太宰府のこの朝の時間が本当に気持ちよかった」そう言ってくれた。

 

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葉っぱより左側は整えられた地面。葉っぱより右側はそのままの地面。見え方が違う。場所を整えるということは、場所をつくるということ。

 

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立て看板に設置してあるのが、今年のくすかきかわら版。全国各地で評判の良いデザインです。紙質にもこだわりがあります。

 

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四年越しの参加。

 

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この時期は、神職さんも巫女さんも樟の葉を掻きます。

 

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生後4ヶ月の赤ちゃんと一緒に芳樟袋制作中。

 

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同時にタグをこより中。

 

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お昼もつくっていただき、みんなで食べました。太宰府の女性は子育て、裁縫、料理と同時になんでもできて、元気があって、個性的で、素敵な人ばかりです。子供も地域コミュニティで育てていて、大きな家族か親戚のようなイメージです。

 

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午後はお宮に芳樟袋に入れる樟葉を拾いに行きました。

 

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たっぷり収穫。色が美しい。

 

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芳樟袋に葉っぱを詰めます。一袋に20枚入れるのですが、自分はカウントしていると話ができません。ですが、やはり女性はカウントしながらも、話もをして、手が止まりません。さすがです。


くすかき十三日目。芳樟袋ステッチワークショップ。

くすかき十三日目。朝のくすかきには大人18名、子供12名の合計30名が集った。30人でくすかきするのにちょうどよいくらいの落葉のあった朝だった。

日中は、山かげ亭(会期中の滞在先)で芳樟袋ステッチワークショップを大人8名で行った。

 

芳樟袋とは、くすかきで集めた1年間の記憶を宿す樟の葉を布で包んだ匂い袋。太宰府天満宮の案内所や宝物殿で販売したり、くすかき奉加帳という一口2,000円の寄付制度に参加してくださった方へのお礼の品としてお渡しする。

 

色とりどりの美しい麻生地は中川政七商店さんからご提供いただいている。昨年までは袋状に縫製するところまでプロジェクトスタッフが行っていたのだが、今年からは地元の方に縫製するところからお願いしている。やがては地元太宰府の女性陣を中心に楽しみながら制作するものになっていくといいなと考えている。今年はその第一歩。

 

今日は、今後一緒に制作する人が少しずつ増えていくように、知り合いに声掛けしてもらい、みんなで袋にステッチを入れる作業を行った。

 

自分も参加させてもらった。よく考えると、芳樟袋は9年前の初回から制作しているが、自分自身でステッチを入れるのは、はじめてだった。小学生以来の家庭科の授業のようで、これがなかなか、まっすぐに同じ間隔で並縫いをするのは難しい。思わず無口になり、黙々と手を動かしていた。

 

しかし、なんとすごいことか、集った女性陣はみなさん手を動かしながら、ずっとお話しをしているではないか、どうしてこんなことができるのか。自分はしゃべるとどうしても手が止まってしまう。2つのことが同時にできないのだ。女性はやはり特別な才能を持っているのだろう。

 

天気もよく、縁側の先に見える新緑がそよ風に揺れ眩しい。時折、鳥の鳴き声がチュンチュン、チッチと聞こえている。

 

この山かげ亭という静かな空間で、チクチクと縫い物をしながら話をしている時間が、なんとも穏やかで、心豊かな感覚になる。

 

みなさん是非、この時間を過ごしにいらしてください。

 

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昨日までの落葉を集めた掻き山と、昨日から今朝までに落ちた落葉。

 

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今年はサッカーワールドカップイヤーの影響か、サッカーボール持参が多い。去年までは独楽(こま)だった。

 

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その場所に関わった分だけ、その場所が自分にとって大切な場所になっていく。

 

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学生服、スーツ。くすかきをしてから学校や会社に行くと、車のアイドリングみたいなもので、頭や体が温まった状態になるので、普段に比べ、勉強や仕事がはかどるそうです。

 

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どうしても根っこの周りの落葉が気になる人たち。

 

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会期直前に右手を骨折してしまい、ベストな状態でくすかきできないけど、やれることをしに来てくれます。ここに来てくれるだけでうれしい。そこにいるということが、全体の空気感の1つをつくっている。

 

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芳樟袋をステッチ。

 

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手を動かしながら、話に花が咲きます。

 

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技術指導中。

 

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人生初の芳樟袋ステッチ。どこか不格好ではありますが、自分が縫うと特別な愛着が湧きます。