そらあみ21日目。今日は4人で編んだ。朝、レジデンスからヒミングアートセンターへ向かおうと、玄関で靴ひもを結んでいると、自分の息が白いのに気が付いた。ドアを開けると、雪が降っている。というか、雪が真横に流れるように吹雪いていた。氷見では咲いた桜の花に雪が積もる時があるそうだ。そして、こうしてもう一度ぐっと冷えてから桜がやっと咲き始めるそうだ。
《そらあみ》の方は、2枚目もほぼ全てつなぎ終え、あとは最終調整しつつ、結び目やつなぎ目の仕上げなど細かいメンテナンスを残す程度となった。
いろんな方が編んだ網なので、コマ(網の目の大きさを一定にするための道具)を使って編んでも、結びの強弱などで、網の目の大きさは変わるものである。これもまた多くの手を介して作られた手跡だと思うと、何んとも味わいのあるものだが、網の目が四角形(ダイヤ型)でなく三角形や五角形になっているものがあると、うまく隣同士がつながらず1枚の網になれない。なので、ところどころ修復が必要となる。だが、ほんとのほんとを言うと、網は広げてみないと分からないという。
《そらあみ》を編んでいるヒミングアートセンターは石蔵をリノベーションした場所にある。その石蔵のオーナーの堀埜さんは、定置網の船頭(せんどう=船を操る頭[かしら])でもある。堀埜さんの話では、定置網は海に入れてみないと分からないという。それこそ潮の流れの影響を受けたりするから、ぴったりなサイズのものを陸でつくって海に入れてもイメージしていた形より小さくなったりする。だから遊びを余分にとっておいて、その遊び分も計算して定置網を設計するというのだ。
広げてみないと分からない網を、海の中で広げた分も頭の中でイメージできる船頭という存在のすごさはいうまでもない。だが、そんな船頭の中にも“伝説の船頭”と呼ばれた人がいたそうだ。
聞いた話だが、その伝説の船頭が関わる定置網には、いつもたくさんの魚が入っており、古くて魚が獲れず、誰も使わなくなった定置網へとその人が行くようになると、再び魚が入るようになるという。行くところ行くところ魚が大漁となるのだ。大げさかもしれないけど、その人の頭の上には魚を追う鳥が群れているように思えるほどだったという。ある時、東京から友人が来た時にすごい船頭が氷見にはいると話をしたところ、乗って来たタクシーを降りてすぐに、港を歩いている人を見て「あの人でしょ?伝説の船頭」と言わしめるほどの雰囲気を持った方だったそうだ。
その伝説の船頭は、《そらあみ》に毎日参加して支えてくれている荒川商店(船具屋さんの旦那さん)の荒川さんの親戚だそうだ。荒川さんに、なぜその伝説の船頭さんには魚が集まってくるのか聞いてみた。
荒川さん「運やな」
五十嵐「え?運だけですか?それはそれですごすぎる」
荒川さん「まあ運もあるんやろうけど、何より定置網や漁に関して研究熱心やった。とにかくあれこれ試して、どうやったら魚がたくさん獲れるか常に考えている人やった」
そうなのだ。伝説の船頭は、ただただ運の良かった人ではなく、定置網について研究と実験をし続けた挑戦者であり、その飽くなき挑戦の結果、魚が大漁に網に入る確率が上がったということなのだろう。誰よりも魚を獲ることを考えた人のところにこそ、魚はやってくるのだ。
そして、その挑戦は、時を経て、人々の間で「あの人の行くところに魚が寄ってきた」「あの人は“伝説の船頭”や」と呼ばれるようになったのだ。
4月21日にオープンする漁業交流施設「魚々座」。全体が定置網をモチーフに空間演出されており、入口の垣網部分を《そらあみ》が担う。このポールに設置される予定。
「魚々座」の内装。イカ釣り用の照明がぶら下がる。
定置網の構造が分かるようなつくりになっている。
雪が降ってきました。まだまだ氷見は寒い日が続きます。
網を挟んで両側でつなぎます。
あれれ?!おかしなところを発見!メンテナンスせねば!
名ドクターのオペがはじまりました。助手も完璧な仕事です。