ガラス玉で物語る

魚々座(ととざ)7日目。一昨日積もった雪がまだ残っているが、道の真ん中から噴水のように吹き出す融雪水のおかげで道路は通ることができる。時折、雪がぱらつく1日だった。

 

今週末1月23日(土)に〈そらあみ〉をお披露目するので、制作時間は残すところ今日を含めて、あと2日。今日は12日から7日間かけて編んできた、高さ3m×幅13mの網が一枚仕上がった。これに、同じサイズの午前中に差し替えた魚々座入り口に設置してあった〈そらあみ〉一枚と、これまで同じ入り口で、それぞれ4ヶ月展示した少し色の抜けた二枚と、魚々座奥の食事スペース近くに設置してあった少し小さめの一枚の合計五枚を明日つなぎ合わせて、高さ3m×幅60mの〈そらあみ〉にする。氷見で編まれた歴代全ての〈そらあみ〉が一枚になる。去年は全長30mだった。1年経って今年はその2倍の全長60m。魚々座という場を拠点に一年かけてプロジェクトが成長してきた証となる。

 

「ひみ漁業交流館 魚々座」には、氷見の番屋や納屋から集めた古い漁具や漁師が実際に暮らしの中で使っていた道具が、たくさん展示されている。そんな無数にある展示物の中に「ガラス玉」がある。昔、定置網の浮きに使われていたそうだ。

 

実は、〈そらあみ-氷見-〉の中心メンバーである荒川さんは、このガラス玉のコレクターで、なんと!7000個ものガラス玉をコレクションしている。7000個のガラス玉って、とんでもない数である。一度見せてもらいたい。7000個も持っているわけだから、もちろんガラス玉に詳しく、面白い話を聞かせてもらった。

 

なんと、このガラス玉コレクター、アメリカにもけっこういるそうで、日本で3000円で取引されるガラス玉がアメリカでは30000円と0ひとつ違う値段がついたりするそうだ。

 

なぜアメリカでコレクターがいるかというと、なんとこのガラス玉。浮きとして網に結んであったものが外れて、海流に流され太平洋を渡ってアメリカに流れ着く、それを拾ってコレクションしたというのがはじまりということだった。ちなみにアメリカではガラス玉を「Dragon Eye〈ドラゴンアイ〉」と呼ぶそうだ。“竜の目”とは、またなんともロマンがあり、カッコ良いネーミングだ。でもアメリカではガラス玉を浮きにする文化がないので、海の向こうから透明な玉が流れて来たら、それがいったいなんなのか分からないし、竜の目だと思ってしまう想像性はなんとなく理解できる。

 

また、こんなにも美しいガラスの球体を吹きガラスで作り出す技術は日本独特のものだったらしく、特に青森県の「北洋ガラス」というところが当時、たくさんガラス玉をつくっており、アメリカのコレクターのあいだでは、北洋ガラスのガラス玉は「Double F〈ダブルエフ〉」と呼ばれ、とっても人気があるそうだ。なぜダブルエフかというと、北洋ガラスのガラス玉には社名にちなんで「北」の一文字が刻印されている。だが漢字が読めないアメリカ人は「北」を逆さにして読んで「ᖷFでダブルエフということだ。このダブルエフの刻印がひとつ増える度に、値段が0ひとつずつ増えていくというのだから驚きである。ちなみに刻印の数が多いのは当時のガラス玉職人さんが、「えーい、気分も良いし今日はもういっちょ刻印押しちゃえ!」といったノリで増えたらしい(笑)。それが、現在価値を定める重要な役割を果たしているというのだからなんとも愉快である。

 

価値という意味では、このガラス玉、ビンや割れたガラスのリサイクルで作られていたそうだ。ガラス玉の色に何種類かあるのは、そのせいなのだそうだ。ちなみに一番多い青っぽいのは、もともと一升瓶とのこと。ゴミとなった一升瓶や割れガラスを、技術によって竜の目にしてしまうのだから、すごい価値の変化である。

 

といった面白い話が、氷見の人から聞けるのが、ここ「ひみ漁業交流館 魚々座」の一番の魅力なのである。氷見中から集めた漁具や道具は、他の土地から来た人には読み解くことができない。しかし、氷見の人がいれば、その道具の向こう側にある世界が物語として読めるようになる。

 

「物語」の文字通り、氷見の人が「物」を「語る」場所である。

 

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たくさんの漁具や民具が展示されている。多くのものは触ることができる。

 

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たくさんのガラス玉がある。

 

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これがダブルエフ。

 

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千鳥(ちどり)というつなぎ方で隣同士の網をつないでいきます。

 

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1月23日の土曜日、お披露目します。

 

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細かい部分も丁寧な仕事。「空へ上げたら、どうせ見えないんだけどな」と笑いながらハサミを入れる中田さん。

 

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完成間近!