脈打つ獣毛/糸紡ぎリサーチツアー2日目

糸紡ぎリサーチツアー2日目。今日はアルパカの毛刈りを行った。

 

昨夜からずっと頭が痛い、、、。まるで心臓が後頭部にあるようだ。そう、高山病である。昨夜はほとんど眠れず、朝起きても動けず地元の診療所へ。恐るべし、標高3850mの世界。

 

酸素吸入をして動けるようになったので、アルパカを育てているホアン カルロスの運転で、毛刈りをするため移動。この移動が長かった。酸欠で意識が朦朧とする中、いったい何時間くらい移動したのだろう?意識が飛んで寝てしまい、何度目覚めても同じ風景がひたすら続いていた。

 

果てなき風景に飲み込まれ、だんだん地球じゃないどこか別の星にいるような気すらしてくる。

 

突然、車が止まった。降りても音はない。少し風を感じるだけ。

 

ここどこ? ホアン カルロスに聞くと、プーノ県コヤオ郡コンドリリ村カラサヤ地区だという。住所があることにも驚いたが、これまでに日本人は来たことがないそうだ。

 

標高は? さらに聞くと、標高4800mだという。4800m!!?さらに1000mも上がったのか、、、。もちろん息が苦しい。いったいどこまで来てしまったのか、、、これ以上高山病が酷くなったら、、、少し不安になる。

 

、、、遠くに目をやると、、、空と丘の間にアルパカがいた。

 

ここはホアン カルロスの友人のウバデロ アセロの土地だという。アセロはこっちの言葉で鋼(はがね)を意味する。挨拶をして握手した手はまさに鋼のように、分厚く、硬く、厳しい自然と向き合って生きてきたのが伝わってきた。三宅島の網漁師や、ブラジルで会った素潜り漁師や、中央シベリアであった遊牧民と同じ手をしていた。

 

白、茶色、薄茶、黒、グレーなどいろんな色のアルパカがいる。交配して色幅を増やすのだそうだ。この広大な大地を放牧しアルパカを育てる。ここには100頭ほどアルパカがいて、他にもラマや羊もいるそうだ。毛刈りは11月〜1月の約3ヶ月間に行う。交配と出産も同時期のため、その頃が一番忙しい。4才くらいまで育てて、その間毛刈りをし、毛を売り、最終的には食肉として売る。

 

お父さんも、おじいさんも、そのずっと前からここでアルパカを育てているという。アルパカを育てるにあたって、先祖代々大切にしていることを聞くと、大地の神と山の神への感謝と供物だという。供物はコカの葉・ワイン・お香・アルパカ油(ラードみたいなもの)を捧げる。昔は、油の代わりにアルパカの心臓を一緒に捧げていたという。心臓は上の世代くらいまでで、今は簡略化したそうだ。

 

供物の1つのコカの葉は、こっちに来てから何かと登場する。高山病だというと、コカ茶を飲みなさい。コカの葉を口に含んでなさい。などなど、とにかくコカの葉なのだ。神様への供物としても基本がコカの葉で神聖な葉っぱとして扱われている。

 

「一頭選べ」ウバデロ アセロが言う。

 

選んだアルパカの毛を刈ることを意味するのだと、すぐにわかった。「ブランコ(白)」と言うと、短い距離をダッシュしたかと思うと、一瞬で白いアルパカを捕まえていた。ちなみにアルパカは耳をつかんで捉える。今の自分は、しゃがむ動作だけで頭がクラクラするほどで、とても走るなんてことは想像できない。子供達もお父さんのお手伝いで普通にダッシュしている。この時、自分の人間としての弱さだけが際立っていた。言葉も通じず、歩くこともままならず、息も絶え絶え、何の役にも立たない。今、この土地で最も弱い存在が自分なのだろう。

 

背中を大地につけて、逆さまにされた白いアルパカに、ウバデロ アセロがハサミを入れる。間髪入れず、お腹の方からザクザクと毛刈りしていった。吹き抜ける風の音と、アルパカの唸り声と、迷いないハサミの音だけが辺りに響いていた。果てのない金色の大地と青い空の間で行われる毛刈りは、美しく神聖な儀式のような風景だった。本来は風と強い日差しのない、早朝の光の中で毛刈りをするのだそうだ。「空がもっと青くてきれいよ」とアルパカの耳を抑えながら奥さんが笑顔で言う。その状況はさぞ美しいのだろう。

 

お前もやるか?といった具合にハサミを手渡される。これまで持った中で最も大きくて重たいハサミだった。大地に両膝をつき、横たわるアルパカと対峙した。目の前の出来事にしっかりと向き合い、心を強くもたなければいけないと思った。覚悟を決めてハサミを入れる。アルパカの呼吸と共にお腹が動いている。毛刈りなのだが、まるで肉を切り、体を剥いでいるかのような感覚だった。その毛は柔らかく、あたたかい。まるで、血が通い、脈を打ち、生きているかのように感じた。

 

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ホアン カルロスが高山病に良いと言われている薬草をお腹に擦り付けてくれている。不思議な匂いがしている。

 

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地元の診療所で酸素吸入中。先生が天使に見えました。

 

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どこまでも運転するホアン カルロス。

 

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時々、家がいくつかあったり、放牧している人に出会う。

 

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遺跡ではなく、廃屋。

 

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寝ても覚めても、延々とこの風景が続く。

 

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大地と空の間にアルパカがいた。

 

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コカの葉。

 

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供物の捧げ方をホアン カルロスから教えてもらう。

 

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アルパカを捕獲するには、このように耳を捕まえます。

 

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アルパカの糞。不思議なものでこの環境ではまったく汚く感じません。むしろ美しい。何の躊躇もなく手にしていました。とにかく人と大地の距離が近く感じるのです。

 

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「うちの土地はあそこの境までだよ」と言うのだが、お隣さんが遠すぎる。

 

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なぜかアルパカはカメラ目線が多い。

 

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ウバデロ アセロ。私。イヴァン。ホアン カルロス夫妻。ウバデロ アセロの妻。

 

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ラマ、アルパカ、羊がいるよ。と言われるが見分けがつかない。

 

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アルパカの干し肉を焼いている。糞は燃料になる。

 

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ウバデロ アセロの家。時々、郵便屋さんとか来るのかな?と聞くと、ここには誰も来ないと言う。外界と離れた世界。

 

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キッチンからこちらを覗くウバデロ アセロの息子。彼もいずれ父のようにアルパカと共に生きるのか?と聞くと。父としては3人の子供の内、1人くらいは継いでほしいと言っていた。

 

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アルパカの干し肉。まったく食欲がなかったから、ひとかじりしかできなかったが、これが絶品。

 

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ウバデロ アセロの毛刈り。

 

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人生初のアルパカの毛刈り。

 

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思わず頰をあてた。

 

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脈打つ獣毛。