巨人の足音

今日は朝から雨。それも、どしゃ降りの雨だったので、テントを出して、その中で編み紐の玉をつくった。編み紐は購入時、業界で綛(かせ)と呼ばれる長い紐を一定の長さで輪っかにした状態になっている。そのまま編み針に糸を巻き付けていくと、こんがらがってしまうので、前もって綛の状態から玉にしておく。いわゆる毛糸玉づくりと同じことをする。これまでは手の空いた時にやったり、編むことが難しい年齢の人と一緒に参加してくれた家族連れの方々などにお願いしていたが、あまりに雨が強いので、ひたすら玉を作った。

 

雨の浅草は静かである。普段は多くの人が闊歩する足音や話し声が入り交じった、賑わいの音が浅草全体を包んでいるのだが、今日、玉づくりをしている時に聞こえてきた音は、テントを打つ雨音くらいだった。久々に聞く雨音が心地よい。

 

しばらく作業していると「どん、、、どん、、、どん、、、どん、、、。どっ、、どっ、、どっ、、どっ、、。ど、ど、ど、ど、ど、」と何か巨大なものが、遠くから近づいてくるような音がした。まるで、巨人が近づいてくる足音ように聞こえた。しかし周りを見回しても巨人の姿はない。なんと、その音は浅草寺の本堂で打たれた太鼓の音だったのだ。普段天気の良い日は人の賑わう音で太鼓の音の細かいディティールまで聞こえないのだが、雨で静かな浅草だと、巨人の足音のように聞こえるのであった。

 

午後2時になると全ての紐玉が巻き終わってしまった。雨脚も弱くなったので、日が暮れるまでの数時間だけ編むことにした。正直、紐玉づくりは最初は楽しいのだが、単純作業すぎて飽きる。そして、長い時間やりすぎると、少し元気がなくなる。ところが、編みはじめると不思議なことが起こった。なんだか元気が湧いてくるのである。一緒にやっていた仲間の2人にも聞いてみた。「編んでると、なんか、元気出て来ない?」「そうだね。なんでだろう?」。

 

なぜ、網を編むと元気が出るのだろう?両手を使うから脳みそに良い刺激が行くのだろうか?それとも海洋民族の血が、DNAがそうさせるのか?魚を獲るという狩猟本能を刺激するのか?なんだか確かな原因は分からないのだが、とにかく言えることは事実として“網を編むと元気が湧いてくる”ということである。これはいったいどういうことのなのか考えてみると面白いかもしれない。

水たまりに映るそらあみと神楽殿

静かな一日でした

そらあみに垂れる雨滴