境界線の石柱

沙弥島滞在19日目。今日は、与島でのワークショップ。与島はこれで3巡目。漁師さんの少ない島なので回数を重ね少しずつ編み進めていく。とはいっても3巡目となると、もう皆さん編むのも手慣れたもので、今日で与島分は7割程度編み上がったように思う。「編み終わりが来てしまうのが淋しいから、ゆっくり編むかな」という声が出たのも嬉しかった。

 

与島のすぐ横の東側に600mほどの海を挟んで小与島という島がある。小与島も与島と同様に石の採掘の島で、現在は5人の島民が採掘業をして暮らしている(採掘業が盛り上がった頃は100人くらい住んでいたとのこと)。与島から小与島を見ると、煙突のような形をした細長いものが立っている。それが何なのか、ずっと気になっていたので、網を編みながら、与島の皆さんに聞いてみた。

 

五十嵐「小与島を見ると煙突のようなものが立っているのですが、あれって何ですかね?」

与島の方「煙突?………。」「ああ!あれは境界線なんよ」「石を採る時に発破するやろ。そんで、石は最後に石が落ちた方のものになるから、あのままなんよ」

五十嵐「え?!それじゃあ、あれは煙突じゃなくて、石の柱ってことですか?」

 

あの煙突のようなものが石の柱ということは分かった。しかしながら、境界線とはどういうことなのだろう。その後、いろいろと話を聞いてやっと理解することができた。

 

では、説明しよう。まず大きな石の塊の山がある。それを、土地を買うように、それぞれの石工さんが分けて買う。そこからは“棒倒し(子供の頃、砂山をつくって真ん中に棒を立てて、順番に倒れないように砂をとって遊んだ)”の要領で、それぞれ購入した石の山の部分に発破をかけて石を採り進めていく。すると、石の山は徐々に細くなり、最後は境界線の部分のみが残る。それが煙突のように見えたということなのだ。

 

しかし、なぜ最後に石柱を残して発破をかけないのだろうか。その理由がまた面白い。発破をした石は、“石が落ちてきた土地の人のものになる”というルールがあるからなのである。最後に残った境界線の石柱に自分が発破をかけると、爆発の勢いで必ず相手の土地に石は落ちてしまう。すると石は相手のものになってしまう。なので、どっちが発破をかけるか我慢比べとなり、結局どっちも発破をかけず、そのまま石柱として残ったというのである。倒した方が負けというルールも棒倒しとどこか似ている。

 

発破によって限界まで攻めて採掘し出来上がった、まさに境界線の石柱なのである。それはどちらの土地にも倒れないような絶妙なバランスで立っている。

 

魚を上手に食べて、背骨だけが残ったようなイメージが沸いた。しかし、それを石の山で豪快にしているのである。「一度近づいて見てみたい」。そう言うと、1人のお母さんが「隆ちゃん、あんた船あるんだから連れて行ってあげたらいいじゃない」の一言もあり、ワークショップに参加してくれており、昔、石船を動かしていた森田隆造さんに小与島まで連れて行っていただけることになった。感謝である。

 

他にも、小与島に子供の頃泳いで渡って遊びに行った話や、その時の潮流の読み方の話。当時の小与島の小学生は櫓漕ぎの船に乗り合わせて与島の学校に通った話。小与島の神社である梶大明神で毎年4月の終わりの日曜日にお祭りがあり、そこで相撲をとった話、などなど小与島の話で盛り上がった。今はすぐ咬む犬がいるから気をつけた方がよいという情報までいただいた。

 

13時スタートで、2時間のワークショップを終え、15時で一区切り。引き続き編みたい人はもう少し編むということになったので、皆さんに隆造さんに小与島に連れていってもらえることになりましたと報告した。

 

その時、足元を見ると、そこには、ひっくり返した長机の足に固定したロープを、編むことでそれぞれが手前に引き、そうすることで出来上がる独特な形が浮かび上がっているではないか。

 

今まで気にしなかったが、それぞれの石の採り具合で出来上がる境界線の石柱の形と同じように、それぞれの網の編み具合で出来上がる境界線のロープの形があり、小与島の石柱と足元の張られたロープが重なって見えた。

 

人と人との関係がつくり出す絶妙なバランスの形である。狙って作れる形ではない部分にその形の面白さがある。

 

そらあみの網も、5つの島のものを全部繋げた時にどんな風に見えるのか。参加者一人一人の網目は、大きさや形、結びの締め具合などで、それぞれに見え方が微妙に違う。それもまた、人と人との関係がつくり出す絶妙なバランスの形になるのだろう。

 

完成するそらあみは、小与島の境界線の石柱のような、魅力ある絶妙なバランスになるだろう。

5mまであと少し。測量しています。

互いに引いて出来上がる形

今日はバレンタインデー。与島で穫れたテングサで作ってくださった“ところてんチョコレートケーキ”。ここでしか味わえない一品です。

隆造さんの船で小与島へ向かいます。正面に見えるのが小与島です。

中央に煙突のように見えるのが、ずっと気になっていたものです

海から見る瀬戸大橋は、見え方がぜんぜん違いました

境界線の石柱。これが煙突の正体です。我慢比べはまだ続いている。

境界線の石柱のすぐ奥には採掘場が!こんなにもダイナミックな風景が小与島にあったとは!島の外から見ても想像ができません

岩肌の上を歩いているのが塩野谷くんです。とんでもないサイズ感の風景に圧倒されます

掘り出された石も大きすぎてサイズ感がおかしくなります

港には船への積載を待つ与島石が積んでありました。小与島、一見の価値ある島です。