掲げた網と大根3本と鍋のぜんざい

沙弥島滞在26日目。今日は与島での網づくり。与島の網は5巡目にして、今日、完成を迎えた。

 

12:30過ぎに与島の公民館に到着。一昨日もここに来ていた。前回の4巡目で完成するイメージを皆もっていたが、つなぎ合わせるための、網の目の目数合わせに思った以上に時間がかかり、もう一度、最後の仕上げとして今日という日を設けることになった。

 

5回も来ると、この公民館にも愛着が沸き、居心地が良くなる。13時を前後して与島の方々が集まってくる。いつものメンバーと中1日空けての再会である。扉を開けて、「こんにちは」の声が届く。1人、また1人とやってきて、網の前に行き、「あとどれくらいかな?」と長さを計って、「編んでもいいかい?」と編みはじめる。

 

「隆造さんは?」「今日は来ないって。だから嫁さんが来とるよ」

「石原さんは?」「もうすぐ来るやろ」

「清さんは?」「編みすぎて、風呂に入った時に手が痛いって、言っとった(笑)」

 

“再会”それだけで嬉しい。

 

うまく言葉にはならないが、流れている空気であり現場の雰囲気は、2月7日の与島初日のものとは大きく違う。あれからちょうど2週間が経って、場と人の関係性に成長を感じた。

 

最後の仕上げに取りかかる。網の目の数を合わせ、隣同士をつないでいく。

 

「あ!ここ誰が編んだん?目が小さくなっとるわ。直さないかんやん(笑)」

「ありゃ!なんじゃここ。目が1つ足らんで。増やさな(笑)」

「何でこんなことになるん。どうやって編んだらこうなるん?(笑)」

「他の島の人に、やっぱり与島は下手やって言われたないしな」

 

漁師がほとんどいない与島は網の編み方を覚えるところからスタートした。他の4つの島に比べて時間はかかった。でも最後まで、時間をかけて、丁寧に網を編みつないだ。15時頃、休憩を挟んで、その後も引き続き編みつなげ、やっとこさ完成を迎えた時、時計の針は17時を指していた。

 

「外に出して見てみたい」

「そうやな。せっかくだしな。記念写真撮ろう」

「じゃあ、棒を持ってくるでな。待っとってな」

 

2本の物干竿が登場し、それに与島で編まれた分の網(幅6m×高さ5mくらい)を結びつけ、目の前の漁港で空に掲げた。今回、瀬戸内国際芸術祭で香川に現地入りして網を空に掲げたのは、考えてみれば、これが最初である。

 

久しぶりに網越しに空が見え“そらあみ”らしい風景との再会となった。ここのところ、どこの島でも、ずっと公民館の畳の上で編んできたので、とても新鮮に感じられた。自分で言うのもなんだが、やっぱり空に向かって立つといいものである。

 

カメラを抱えた与島の方が言う

「あれ、ここはよく見えんな。」

「おお、こっちに来ると色が出てきた。きれい、きれい」

「こっちがいいわぁ。後ろの景色もきれいやし」

 

そうなのです。そらあみは見る角度によって消えたり現れたりするのです。与島の人は、感覚的にすぐにそのことを楽しんでいたのであった。

 

最後に残った人だけではあったが、皆で網の前で記念写真をパシャリ。

 

「本当にお世話になりました!ありがとうございました!こんど3月16日の土曜に、5つの島の皆さんに集まってもらって、全部の網をつなげて完成させるんで、是非、沙弥島に来てくださいね!」

「3月16日。土曜日ね。それまで淋しいわね」

「ほら、この大根、持っていきなさい」

「あと、このぜんざいも。鍋ごとあげるわ」

 

この与島に網を編みにきて、2週間の間に5回網を編み、時間を共に過ごした。

 

与島を離れる時、帰りの車に積まれたものは、1枚の網と、3本の大根と、鍋に入ったぜんざい、そして、もう一度会いたい、5つの島の網がつながる“そらあみ”が完成した姿を見たい、と思う気持であった。

 

瀬戸大橋を渡って沙弥島への帰り道。与島に来る理由がなくなってしまったな。どうするかな。などと考えながら、瀬戸内海に沈む夕日を眺めていた。

 

膝の上に抱えた、ぜんざいの入った鍋は、ずっと温かかった。

早く編み終わった方の端から仕上げていきます

ん?!ここ目が1つ飛んでる!

こっちの人の編んだ目とあっちの人の編んだ目をつなぎます

端から仕上げていくので、最後は全員部屋の角に(笑)

ぜんざい食べて一休み

ん?!ここの目もおかしいやないか(笑)

ここを編んだら、いよいよ完成

公民館の目の前は漁港です。物干竿で掲げてみる。

与島の空に“そらあみ”登場!

最後に残ったメンバーで記念撮影。与島のそらあみ完成!