漁師との交渉

ブラジル6日目。今日は先日延期となったGAIBUという海沿いの町へ行って、漁師と会い、交渉を行った。交渉内容はホームステイし、漁師の仕事を手伝い、ブラジルの漁師文化を教えてもらえないか、という内容。

 

日本でもそうだが、いきなり行って「一緒に網を編んでくれ」と頼んでも、漁師さん達も仕事があるので「はい、いいですよ」などと言ってくれる人は、まずいない。イメージや気持ちや考えを伝え、人となりを知ってもらいながら進めていく。ましてや今回は場所も決まっていないし、言葉も通じない。なので、イメージや気持や考えは最初の段階では伝わりづらい。勝手にやったら、それは間違いなく問題になる。そこで、まずは漁師体験を通して、彼らのライフスタイルや向き合っている世界を学ぶところからはじめて、関係性をつくりながら、徐々に「そらあみ」の方向へと持っていくという作戦でいくことにした。しかし最も重要なのは伝わるということで、ここで発見していく内容次第では、「そらあみ」ではなく、新たな「何か」になる可能性も、今の段階では自分の中で視野に入れておこうと思う。

 

まあ、なんと言うか、自分の仕事は、いつもどこか地産地消的なものであるからである。なせなら、それがその土地の人にとって馴染み深いもので出来ていれば、最も共有しながらも、その見え方が変わることで1番驚いてもらえる可能性があるからである。

 

手ぶらで行き、土地にあるものを使って、土地の人と共に何かをつくり、自分たちの土地や、自分たちのことを再認識してもらう。いわば「地域に対する鏡」をつくるような仕事である。ゆえに絵画で言う絵の具に変わる素材は、モノやコトやヒトを含めた土地そのものなのである。なので素材を自分なりに理解するのには時間がかかる。いずれにせよ、まずは土地への挨拶からはじまる。

 

滞在場所のBOA VISTAから交渉先の漁師のいるGAIBUまで電車とバスを乗り継いで約2時間半かかる。

 

ブラジルでお世話になっている柳澤さんが務める建築事務所で勉強をしているAnderson(アンダーソン)が現場の交渉を引き受けてくれ、お仕事で忙しい柳澤さんには遠くから電話でサポートしていただく体制で挑んだ。

 

GAIBUはRECIFEのずっと南にある美しい海の広がる田舎町。交渉相手の漁師さんの名はLamartine(ラマルティーニ)。アートと音楽を愛する漁師という情報だけ手元にあった。自分とアンダーソンが会うのは初めてで、そのアンダーソンもラマルティーニと会ったことはない。

 

朝8時、バスに乗ってRODOVIARIA(ホドビアリア)という駅に行き、アンダーソンと初顔合わせ。お互い少し英語ができたのと、ブラジルでも放送され日本でも大人気だったアニメ「聖闘士星矢(セイントセイヤ)」の話で盛り上がり、すぐに意気投合。ちなみにアンダーソンは鳳凰星座の一輝(フェニックスのイッキ)が好き。今は26歳で小さい時に見ていたとのこと。自分も思いっきり聖闘士星矢を見て育った世代である。共通の話題をくれたジャパニメーションに、そして何より名作を生み出した車田正美先生に感謝である。

 

2時間半の電車とバスの移動は大変ではあるが、その後も仕事や夢や恋人など、様々な会話は弾み、ジョークも入り交じり、時に2人で爆笑しながらだったので、目的地に到着し、交渉に至るまでにはある程度の信頼関係が出来上がっていた。ほんとにいい奴で良かった。これもまた柳澤さんに感謝である。

 

GAIBUに到着し、電話をし、ラマルティーニの家を訪ねた。グレーのコンクリートブロックを積んだ壁には太いロープが吊るしてあり、オレンジの瓦屋根の上には抜けるような青空、家を包む緑の木々は庭に適度な日陰をつくり、猫がのんびり歩いている。素朴な平屋の家はいかにも田舎の漁師の家。シンプルで力強くそこにある佇まいはとても美しい。

 

柵の外から声をかけると奥さんが出てきた。シャワーを浴びているから、すぐに出てくるからちょっと待っていてとのこと、敷地の中の縁側みたいな場所に通されアンダーソンと2人で彼を待った。木製の大きな船の舵が立てかけられた壁の上に目をやると、海辺の風景が描かれた素朴な絵があった。

 

一時すると、シャワーを浴びてすぐに出てきてくれたのだろう、濡れた身体にポロシャツを半分まで着ながらラマルティーニが登場。握手を交わす。それはまるで、大きな岩と握手をしたような感覚だった。中央シベリアのトゥバ共和国に行ったとき、丘のむこうから馬に股がって登場した遊牧民と交わした握手を瞬間的に思い出した。本物である。すぐに分かった。自然という巨大な相手と日々向き合ってきた男の手だ。

 

交渉を進めると、ラマルティーニには潜りを主とする漁師であることが分かった。銛を持って海へ潜って魚を獲ってくるのだ。網に興味があるという話をすると、自分も網もやるが、英語が話せる網を使う漁師の友人が、GAIBUのすぐ近く丘を1つ越えた先のSUAPEにいると言って、ラマルティーニは友人のFernando(フェルナンド)に電話をしてくれた。

 

結果として、フェルナンドの家にお世話になることになった。でも、ラマルティーニとフェルナンドは仲が良く昔からよく一緒に漁をするので、俺も行くからそれでいいよ。とラマルティーニは言った。今回、フェルナンドと会うことはできなかったが、アンダーソン曰く、電話で話した感じは、かなりいい人そうだったということなので、そこはブラジル人にしか分からない感覚だろうし、アンダーソンを信じることにした。

 

決まった内容は、ホームステイしながら漁の指導をしてくれるということになった。とはいえ、まだ最初からいきなり信用しすぎるのも危険だしフェルナンドにも会っていないので、最初の3日間はお試し期間ということになった。とはいえ他を探すのも現実的ではないし、ラマルティーニから感じた自分の感覚を信じたいので、自分の中ではほとんど決定的である。

 

ブラジルの基本はギブアンドテイク。もちろん全くの無償というのはあり得ないので、一週間で330レアル(約15000円)ということで話がまとまった。何週間にするかは、お試し期間後に決めれば良いとのこと。アンダーソン曰く、この辺りはリゾートの海でもあるから普通に遊びに来て過ごしたら1日100レアル(5000円)くらいはかかる。ましてや、家付きで漁を教えてもらえるなら破格の値段だと。しかも2人ともいい人そうだし、絶対決めた方がいいとのこと。

 

そして最後に、可能であれば、ブラジル滞在期間の約1ヶ月の内、現地に滞在して活動可能な2週間近い全ての時間をここで過ごしたいと言うと、アンダーソンは笑顔で言った。ブラジルでこんな過ごし方をするお前はクレイジーだと。

 

ということで、とりあえず自分はブラジルで漁師に弟子入りすることが決まった。最初のお試し期間は明後日の9日から11日までの3日間。まずは身体1つで飛び込んでみる。

 

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どこまでも続く線路と誰もいない駅

 

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アンダーソンと車内にて、2人仲良く並んでいます

 

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車窓から点々とファベーラが見える。夜になると家々に光が灯る。どれだけ沢山の人がこの世に生きて死んでいくのだろうと考える。

 

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ラマルティーニと

 

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交渉をした場所

 

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ラマルティーニの家

 

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GAIBUのビーチではサッカーしてる人がたくさんいました

 

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対岸はアフリカ。美しく1日が終わろうとしている。この太陽は日本へと向かう。