枝松さんと染める〈La Manoの歴史〉、杉尾さんと染める〈記憶の証〉

La Mano 8日目。朝9時La Mano到着。今日も糸染め小屋(やすあきさんの部屋)で、綿糸を藍染めした。午前中は枝松さんと染めて、午後は杉尾さんと染めた。今日は昨日までの男性たちとの雰囲気とはうって変わって、2人とも女性だったせいなのか、たくさんの会話が生まれた。

 

枝松さんの障害はダウン症。自分のいとこのお姉さんもダウン症で、小さい頃から普通に一緒に遊んで育ったので、自分の中では距離感の近い障害とも言える。一緒に染めながらたくさんの話を聞かせてくれた。枝松さんは、水戸黄門と大岡越前と、ジャニーズと氷川きよしと、梅干しとキムチが好き。とろろ芋は、かぶれるから苦手。ということが分かった。

 

そして、彼女はお茶目な一面を見せる。藍甕に糸が沈んで回収できなくならないように、竹の棒を使うのだが、おもむろにそれを持って口に近づけながら向こうにかざして「吹き矢!!!」といって、ケラケラと笑っている。「水戸黄門、よく見てるからね!あはははは!」こっちもそのチャーミングさに吹き出して、一緒に笑った。そんな調子でみんなを笑顔にしてくれるのが枝松さん。

 

実は彼女のLa Mano歴は、なんと24年。La Manoが出来てから今年で25年になるのだが、1年目は準備の年だったので、実は最初の一人が枝松さんだったのだ。今はメンバーとスタッフとボランティアと合わせて毎日40人ほどの人が出入りするクラフト工房だが、最初は枝松さん一人からはじまったのだそうだ。故に彼女はLa Manoの歴史そのものとも言える。人が増えたのは楽しいと言っていた。彼女の明るさもまたLa Manoに人を引き寄せる魅力になっているのだろう。

 

午後は、杉尾さんと染めた。杉尾さんは高次脳機能障害で記憶に障害がある。普段は織りを担当している。話をするのはほぼ初めてだった。挨拶をして染め方を伝え、一緒に染めていく。作業も順調。会話も普通に成立する。いったいどこに障害があるのか分からない。

 

杉尾さん「やすあきさん」

やすあきさん「はい。やすあきさんです」

杉尾さん「すいません。明日になったら忘れてしまってるので、、、ほんとすいません」

やすあきさん「いえいえ。気にしないでください」

杉尾さん「藍染めって、甕から出して絞ると緑色してるんですね」

やすあきさん「そうなんです。このあと水洗いするともっと藍の色が鮮明に現れますよ」

杉尾さん「へぇ〜。そうなんですね」

 

5分後次の糸を染める。

杉尾さん「やすあきさん」

やすあきさん「はい。やすあきさんです」

杉尾さん「すいません。明日になったら忘れてしまってるので、、、ほんとすいません」

やすあきさん「いえいえ。気にしないでください」

杉尾さん「藍染めって、甕から出して絞ると緑色してるんですね」

やすあきさん「そうなんです。このあと水洗いするともっと藍の色が鮮明に現れますよ」

杉尾さん「へぇ〜。そうなんですね」

 

再び5分後次の糸を染める。

 

杉尾さん「やすあきさん」

やすあきさん「はい。やすあきさんです」

杉尾さん「すいません。明日になったら忘れてしまってるので、、、ほんとすいません」

やすあきさん「いえいえ。気にしないでください」

杉尾さん「藍染めって、甕から出して絞ると緑色してるんですね」

やすあきさん「そうなんです。このあと水洗いするともっと藍の色が鮮明に現れますよ」

杉尾さん「へぇ〜。そうなんですね」

 

どうしても同じ会話になってしまう。しかし彼女にとっては新鮮さがあり続けているようだ。なんとなくだが、わかってきた気がした。

 

杉尾さんは大学時代はアメリカのカリフォルニアに留学していた。その頃の記憶はしっかりと残っており、いろいろ話しを聞かせてくれた。その後、記憶の障害になり、覚えていられなくなってしまったそうなのだ。でも言われてみないと分からない。不思議な感覚だった。

 

やすあきさん「たまに覚えていても忘れたふりとかしないんですか?」

杉尾さん「あ!それ、まだしたことないな」

 

そんな、正直な人が杉尾さん。

 

杉尾さんが糸を藍染めしながら言う。

 

杉尾さん「わたし、こうして染めの仕事ができる人たちってすごいと思う」

やすあきさん「なんでですか?」

杉尾さん「だって、わたしにとっては、この作業はどこまでできたのか。どこまで進んだのか分からない」

やすあきさん「あ!なるほど!この作業は確かに同じことの繰り返しだから、目に見えてくる作業風景は昨日も今日も明日も変わらない。ある種の永遠がそこにはありますもんね」「杉尾さんが、織りの仕事をしているのって、織りながら、その日どこまで進んだのか、自分の仕事の成果が目で見てすぐに分かるからなんですね」

杉尾さん「そうなの。でも次の日になると織られたそれが何だったのか忘れちゃうから、杉ノートというのがあってね。どこまで織ったのか、今日何があったのか、全て書いておくようにしてるの。そして次の日にそれを見れば、自分が何をしていたか分かるというわけ」

やすあきさん「そしたら、極端な話。その杉ノートを読み返せば、昨日の自分も、一昨日の自分も、一週間前の自分も、もっといったら一年前の自分も振り返ることができる。それって、そのノートが杉尾さんの人生そのものとも言えますね!」

杉尾さん「そうなの。だから杉ノート、とっても大事なの」

 

杉尾さんは、明日になったら、やすあきさんのことも、一緒に藍染めしたことも忘れてしまっている。杉ノートに今日のことを書いてくれただろうか?

 

美しく、藍に染まった糸だけが、彼女と自分が同じ時を過ごした証なのだ。

 

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朝の掃除の時間。

 

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枝松さんと絞る。

 

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La Manoのはじまりを知る人と干す。

 

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いろんな藍の色幅で染めます。