サンパウロ2日目。冬のサンパウロの朝は肌寒い。7:30にPIPAへ。レジデンスからは徒歩5分程度。「…ボンジーア」ポルトガル語で挨拶を交わす。誰が誰だか分からないが、ひとまず「おはようございます」からはじめてみる。朝のスタッフミーテングに出席して、20名のPIPAスタッフに向けて、ここでの交流イメージと滞在目的をプレゼン。そして、組紐パフォーマンスを行う。組紐が組まれるの様子を実際に見るのは分かりやすかったようで、みなさん興味を持ってくれたようだった。
スタッフの一人から「なぜPIPAを選んだのか?」という鋭い質問があった。自分は「PIPAは、走ったり、体を動かして自閉症の子供たちの精神のバランスを整える施設だと聞いている。自分は今回、組紐を組む準備段階にあたる、糸を巻いたりすることをしながら、身体の感覚を通して自閉症の子供たちと交流してみたいと考えている。走ること、糸に触れること、どちらも言葉の交換ではないコミュニケーションのあり方に共通点がある。だからPIPAを選んだ」と答えた。頷いてくれていたので、一応納得してくれたようだ。
その後、太鼓の授業などを見学しPIPAの運営スタイルをリサーチ。続けて、PIPAの親の会のみなさんに挨拶し、同様に組紐の紹介など活動内容をプレゼン。お母さんたちもエネルギッシュ。たくさん話しかけてきてくれたのだがポルトガル語が早口で何を言っているのか分からなかった(笑)。でも、笑いが絶えず、みなさん明るく良い雰囲気で安心した。日本も世界中もそうだが、お母さんたちが元気なコミュニティは健全さを覚えた。これまで出会ってきた各地のお母さんたちを思い出した。母は強しというか、この方たちを味方にしたら百人力だが、敵に回したら恐ろしいことになると肌で感じる。
夕方から藍染を行うための道具を買出しに、ホームセンターへと施設長のヒカルドさんに連れていってもらい、90リットルのバケツやタライなどを探す。22時ごろ帰宅。今日もハードな1日だった。
【PIPAとは】
「Projeto de Integracao Pro-Autista」の頭文字をとって「PIPA」。日本語に訳すと「自閉症児療育施設」。今年で設立10年目を迎える。
現在PIPAは33人の自閉症の子供と20人の専門家スタッフと親の会で構成されている。専門家スタッフは心理学者・理学療法士・言語療法士・看護師・体育指導員など。スタッフ全体の約半数は心理学者。
特別支援学校ではなく、自閉症児療育施設になるので、教育者は1人もいないという部分が非常に興味深い。染織の専門家しかいないLa Mano(日本でのTURNで自分が交流した施設)との共通点でもある。
毎朝、専門家がディスカッションを行い、療育による子供達の日々の変化や効果についての振り返りがあり、
また、その内容が今日に反映されるといった形式をとっており、スタッフは皆モチベーションが非常に高い。
療育方針としては、「生活療法」をとっている。生活療法の目的は、子供達に自信をつけさせ、社会に出て積極的に働ける人に育てること。そのために、知能・心・精神のバランスを保てるよう、以下の三つの活動を続けている。
1、運動をしっかり行う。
2、精神を安定させる。
3、知能を養う活動
この三本柱から治療法は、運動をすることにより子供の体内時計を調整し、健康面や体力、気力を充実・安定させ、状況把握と集中力を高めることにより、多動性を制限する医薬品を必要としなくなる。とのこと。
平たく言うと、投薬ではなく体を動かして心のバランスを保つというやり方。故に毎朝のランニングはPIPAの基本となる。
自閉症の問題は自閉症児本人の病気そのものにあり、それに対する投薬というのが一般的なブラジルでの治療法(要は薬漬けにして関わらない方法)なのだが、PIPAは自閉症児とそれを取り巻く関係性が問題で、〈自閉症児と親の関係性〉、広くは〈自閉症児と社会との関係性〉が病気という考え方。
なので、親たちへの療育でありカウンセリングも非常に大事にしており、自分の心を鍛え大事にすることで、息子や相手を大事にできるようになるよう、価値観やものの見方の変化の必要性をPIPAに入るタイミングから継続して親にも伝えている。結果としてPIPAをきっかけに自閉症児との関係性を築き直すトライアルをしている専門家と親の連携も深く感じた。
先生たちと親と子供たちは一人一人に向き合い、関係性、信頼関係を築き、それが絆となる。そうすると、子供たち一人一人は少しずつ自分らしさであり、できることであり、才能を表に出すようになる。
こうして、人が人と向き合い生まれる関係性と共に、それぞれに違った才能が育まれる。本来の社会教育のあるべき姿のように感じる現場。
自分の活動としては、自閉症という特に言葉でコミュニケーションすることが苦手な子供たちと、PIPAスタイルでもある毎朝のランニングを一緒にすることで、走ってつながるコミュニケーションを重ねてみようと思う。そうして、自分もPIPAのみんなを知り、PIPAのみんなにも自分を知ってもらうことを続けてみる。
それと並行して糸巻きワークショップを通して、糸を巻くという言葉ではない糸でつながるコミュニケーションを、彼らの世界とつながる新しい方法として実践してみようと思う。
当初予定していた「藍染め」と「組紐を組む」は、まだ先のステップになるように感じているので、関係性の段階を見ながら挑戦していこうと思う。
レジデンス前の通り。朝7時過ぎ。電信柱の奥の茶色い屋根の薄ピンク壁の家が滞在先。
興味深そうに観察してくれていました。
日本の伝統技術であること。細かく繊細な仕事であることは伝わったように感じました。
スタッフ20名の約半数は心理学者。他は理学療法士・言語療法士・看護師・体育指導員など
15〜18歳くらいの太鼓の時間。太鼓協会から派遣された先生がちゃんと指導しに来ています。
5〜10歳くらいの太鼓の時間。同じ先生の指導ですが、上のクラスに比べると、まだできることが少ない。
親の会のお母さんたち。調理と試食中。みなさんとても明るいです。
PIPAのあるクラスの時間割。月曜日から金曜日まで。8時に親が送りに来て、授業は午前中のみ。13時に親が迎えにくる。ちなみに1クラス4〜5人で7クラスくらいある。
やはり組む様子が一番おもしろいようです。
PIPAの正面入り口。奥に見えるのは同じENKYOグループの病院です。