くすかき二十二日目。「くすのかきあげ」

くすかき二十二日目。くすかき最終日。早朝6時半、境内に65名の掻き手が集い、朝の美しい光と静寂の中、平成三十一年「くすのかきあげ」を無事に奉納することができました。

 

朝5時、天神広場集合。夜明け前、西の空の満月が美しい。暗い中、皆で落ち葉を移動。6時半に当日参加者含め、掻き手全員が集合し、役割や流れを発表。7時〈くすのかきあげ〉開始。9時〈くすかき奉告祭〉催行。天神広場で記念撮影をして、女性陣は山かげ亭にて直会準備。男性陣は落葉と柵の撤去。12時半〈直会(昼の部)〉開始。15時各賞の発表。16時半〈直会(昼の部)〉終了。片付けと夜の部の準備をし、更衣祭見学。19時半〈直会(夜の部)〉開始。20時〈平成三十一年記録映像鑑賞〉。22時〈直会(夜の部)〉終了。その後、残った人で深夜まで直会は大盛況。昼の部は大人30名、子供たくさん。夜の部は大人37名、子供たくさん。述べ人数にして直会には80名が集いました。

 

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今年度の〈くすかき〉も無事に会期(平成三十一年三月三十日〜四月二十日)を終えることができました。十年という年を重ね 、〈くすかき〉は太宰府で春を迎える、ひとつの季節になりつつあります。

 

くすかき

 

〈くすかき〉は太宰府天満宮の樟の杜を舞台に千年続くことを目指す参加型アートプロジェクト。毎年、春になると落ちてくる大量の樟の落ち葉を掻いて、かつて存在した千年樟を皆で協働し描き出します。樟の落ち葉掻きをすることで、人と人、人と土地の記憶をつなぎ、千年という時間に想いを馳せる朝を一年に一度、皆で迎えます。

 

見えないものを感じる

 

毎年四月、樟の杜を形成する巨大な木々は一斉に若葉を芽吹かせ、古くなった葉っぱは、絶え間なく地上に降りそそいできます。お宮の方々は幾世代にもわたって、その葉を掻いて、新芽を見上げ、樟の木と向き合ってきました。それは“落ち葉の落ちてくる場所をつくり続けてきた”とも言えます。

そんな境内の天神広場には、今日の樟の杜を形づくる巨大な木々と同様に長く大事にされてきた、樹齢千年ともいわれる一本の樟の木が存在しました。
〈くすかき〉は、この地で千年続く樟の落ち葉を“掻く”という毎日の行為を通して、人々が出会い、語らう場をつくり、会期最終日「くすのかきあげ」に集まった掻き手によって、かつて存在した千年樟の姿を“描き”出そうという試みです。それは“目には見えないもの”“見えないけれど大切なもの”を感じるという、日本人が元来持っている特有の感性のあり方を伝えていく、年に一度の出会いと再会の場となっています。

 

朝の太宰府天満宮

 

〈くすかき〉の会期は、樟の落葉時期に合わせるので、毎年決まって四月最初の三週間。毎朝六時半に境内に集まって約三十分ほど樟の落ち葉掻きをみんなで行います。今年の参加者は延べ人数にして九百四十五名。小さなお子さんから大人まで、地元太宰府の方を中心に、福岡市内や遠く東京からも参加がありました。地元の方は通学や通勤前に心と体を起こして清々しく一日をはじめる早起き習慣に、旅行者にとっては福岡・太宰府観光の新しい時間の過ごし方として広がりつつあります。

朝の境内には特別な魅力があります。年間一千万人の参拝者が訪れる境内は朝九時にもなるとたくさんの人で賑わい“観光地”としての色味が強くなります。おそらく多くの人が知っている太宰府天満宮はこの姿。ですが、朝六時半の境内はまさに“聖地”です。ここが神域であるということを体感することができます。

辺りは静寂に包まれ、冷んやりとした空気が、自然と背筋をピンと伸ばしてくれます。朝日を浴びた樟は、まだ薄く柔らかい若葉が光を通し白く輝き、太い幹の影と相まって神々しい光景を作り出します。千年以上、変わらずそこにある時空を超越した世界がそこには広がっています。この凛とした場に身を置き、朝日を浴び、胸いっぱいに朝一番の新鮮な空気を吸う。この朝の境内という特別な時間に美しさを見出す人が増えてきています。

 

想いを馳せる

 

今年の〈くすかき〉は、十年目という節目を迎えました。そして、会期はじめに太宰府天満宮宮司が四十代目へと受け継がれ、同日に太宰府と所縁ある新元号「令和」が発表されました。〈くすかき〉にとっても、まさに新たな時代の幕開けとなった年となりました。十年目にして、あらためて〈くすかき〉とは何か?と問われたら「樟の落ち葉を掻いて、次の落ち葉の落ちてくる場所をつくること。そして、集めた落ち葉を使って落葉風景をつくり、かつて存在した樟に想いを馳せること」と答えます。目に見えないものをどれくらい想像できるか?それが〈くすかき〉の毎年の挑戦でもあります。

令和の出典元である千三百年前の梅花の宴も、千百十七年の歴史をつなぐ太宰府天満宮も、かつて存在した樟も、そのはじまりを目で見ることは誰にもできません。それでも間違いなくそれらの時代を生きた人たちがいて、その存在を受け継いできた人たちがいたから、今日があるのです。こういったことを知識や単なる情報として知るのではなく、その場に身を置いて自らの五感で感じること、そこから想いを馳せる力が、これからの時代を生きる上でより大切になっていくのではないでしょうか。

目に見えることがあたかも全てのように語られ、行き交う情報が速ければ速いほど良しとされる時代だからこそ、我々が人間らしさを見失わないために、〈くすかき〉を通じて、千年という時間軸で物事を考え、目に見えない物事に想いを馳せる機会を創出していきたいと、この十年のその先を見据え考えました。

 

また来年若葉が芽吹き、生きものたちが動きはじめる生命輝く樟の杜で、“見えないものに想いを馳せる眼差し”を、千年先を目指して、次なる一年へとつなぎます。昨日を今日に、今日を明日に、毎日と丁寧に向き合うことが千年先へとつながっていきます。それを太宰府天満宮の樟は教えてくれます。若葉が芽吹く頃、是非いらしてみてください。

 

〈くすかき〉

 

新芽に押されて落ちてくる

新芽の数だけ落ちてくる

 

千年樟のその場所で

千年分を掻いてみる

 

千年樟のその場所で

千年樟を描いてみる

 

去年が今年に生え変わる

その瞬間に落ちてくる

 

新芽に押されて朝がくる

新芽の数だけ朝がくる

 

五十嵐靖晃

 

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第十回「くすかき-太宰府天満宮-」

[会期]平成三十一年 三月三十日[土]〜四月二十日[土]

[会場]太宰府天満宮 境内

[行事]くすかき成功祈願祭・松葉ほうきつくり:会期初日 三月三十日 開催

日々のくすかき:期間中 早朝六時半より 土日のみ夕方四時からも 開催

くすのこうたき:期間中 毎週土日 開催

くすのかきあげ・くすかき奉告祭:会期最終日 四月二十日 開催

[参加人数]七百九十一 名

[奉加帳賛同者]百二十 名

 

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くすのかきあげ各当番長

[掻き出し]五十嵐靖晃

[水当番]陽山英樹 井原功介

[新芽当番長]杉本二瑚

[赤ほうき]江藤応樹 大里武史 黒野瑞姫 上村隆一郎 木下光俊 米湊咲希 杉本八海 杉本九龍 米湊瑛治

[舟当番]杉本九龍 米湊瑛治

[太鼓当番]五十嵐靖晃

 

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[特別協力]太宰府天満宮

[協力・協賛]中川政七商店/福田屋染物店/油機エンジニアリング株式会社/ありがとう農園/

感動創造研究所/NPO法人太宰府アートのたね/寿し栄/キリンビール株式会社福岡支社/

丸尾焼/市山くじらや/天文館果実堂/株式会社ムーンスター

[プロジェクトマネジメント]米津いつか

[デザイン]河村美季

[映像]仲信達也

[写真]前田景

[デジタルアーカイブ]須之内元洋

[SpecialThanks]太宰府のみなさん/百花堂/猪股春香

[松葉ほうきつくり]原口葵

 

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今年の舟当番の2人が大樟香舟に今年の樟の香りである芳樟袋と樟香舟を飾り付けます。

 

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子供たちが新芽となって落ち葉を落とす場面。

 

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真ん中の空間は、かつて樟が実際に存在した場所。一番最初の描き出しで現れました。

 

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全員参加で根っこを描き出します。

 

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今年の根っこはどんな形になるか?

 

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大きな面のかたまりはこれまでにない形。

 

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葉っぱが根っこ派と、地面が根っこ派とそれぞれの考えがぶつかりました。

 

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平成三十一年の根っこ。

 

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今年収穫した樟の香りを皆さんに香ってもらいます。

 

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今年のくすかきを支えてきた赤ほうきのメンバーで幹を描き出します。

 

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1つになって幹が完成したら、地面に縞模様を入れます。

 

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香りを届ける場面。舟当番によって無事に今年の香りが届けられました。

 

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千年樟のその場所で、千年樟を描いてみる。

 

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縞模様は、また次なる葉っぱが落ちてくるために整えられた証。

 

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もう1人の舟当番が大樟香舟を回収し

 

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くすかき奉告祭のため御本殿に向かいます。

 

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くすかき奉告祭。天神様に今年の香りと無事に会期を終えた奉告をさせていただきました。

 

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舟当番の2人と一緒に、3週間お世話になった場所をもう一度丁寧に〈くすかき〉して、縞模様も入れて

 

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舟当番の2人。「若葉も出たし、帰りますか!」と樟を見上げて最高の一言をくれました。

 

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今年、最も芽吹いた2人と記念写真。また来年!